わたしのカメラ三昧 第9回 バックフォーカス式スプリングカメラ マミヤシックスP型

バックフォーカス式スプリングカメラ マミヤシックスP型

1,2度見ても気にならなかったのに3度目に見たとき突然興味を抱くことがある。3度というのは話の都合でのことで,2度目のこともあろうし,4度,5度目ということもあろう。
 今回のマミヤ6もそうであった。
ご存知の方もおられようが,マミヤ6はバックフォーカシングという独特なピント調整方式を採用したスプリングカメラである。つまり,ピント合わせに際してレンズを動かさずフィルム面を動かすのである。たしかに面白い発想ではあるが,そのためにフィルムにたるみが生じて面倒なことになりかねない。またそれを回避するための機構のせいでフィルムの装填が面倒だとも聞いていた。
 だからあまり興味がなかった。
しかし,先日行きつけのリサイクルショップで見たとき急に欲しくなった。そのときは初めて見つけたような気がしたが,あとでよく考えてみると,以前その場所でそのカメラを見たことがあったような気がする。(もしかしたら別の店だったかも知れない。いずれにしても興味が湧かなかったのである。)

まずはその外観をお見せしよう。写真1,2,3をご覧いただきたい。

写真1.MAMIYA-6の外観(斜め前方から)

店頭で見たとき,カメラは立派な革ケースに収められ,レンズは収納された状態であった。蛇腹カメラでまず気になるのは蛇腹の状態である。レンズを引き出して蛇腹を検分したところ,破れや穴はなく,まあまあの状態でしかも革製(のよう)であった。<欲しい!>と思ったのはこの瞬間かも知れない。
しかし,シャッターチャージができず,したがってシャッターも切れない。いろいろ調べてもその原因がわからない。一度はあきらめかけたがさらによく調べると,シャッターボタンとシャッターとの連結がうまく行っていないことに気づいた。その部分を矯正してやると一応シャッターが切れるようになった。
蛇腹に破れや穴がなく,シャッターが切れれば最低条件突破である。この時点で残された問題点はつぎのとおり:
(1)ファインダー内部が極端に汚れている。
(2)蛇腹の開閉が著しく固い。
(3)シャッターボタンの動きが固く滑らかでない。
(4)シャッターのB(バルブ)動作ができない。
上記のとおり問題山積ではあるが,まあ何とかなるだろうということで買ってしまった。
写真2.MAMIYA-6の外観(蛇腹を納めた状態)


写真3.速写ケースに収められたMAMIYA-6

 では,このカメラの仕様を確認しておこう。下記記載事項はすべて亀吉が現物を見て判断したものである。もっとも,現物を見ただけではわからない緒元についてはインターネットその他のお世話になった。間違っている可能性もあることをあらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称:MAMIYA-6
(2)型式:6×6 cm型距離計連動レンズシャッター式スプリングカメラ
(3)適合フィルム:120判
(4)フィルム送り:ノブ巻上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数:赤窓式
(6)画面寸法:54×54 mm
(7)レンズ:Setagaya Koki, SECOR T, 1:3.5, F=7.5 cm
(8)ファインダー:逆ガリレオ式0.7倍
(9)焦点調節:手動バックフォーカス方式,二重像合致式距離計連動,
   最短合焦距離1m
(10)露出調節:手動,絞りf3.5~22
(11)シャッター:COPAL B, 1~1/300秒,セルフタイマー付き
(12)シンクロ接点:X接点
(13)電池:不要
(14)質量:740 g(実測)
(15)寸法:102H×145W×50D(実測)
(16)発売年:1957(昭和32)年
(17)発売価格:12,000円(内,ケース1,090円)
(18)製造・販売元:マミヤ光機

 特徴を一言で言えば,「バックフォーカス方式を採用したスプリングカメラ」ということになろう。
 このカメラには軍艦部上面にMAMIYA 6と彫り込まれているだけであるが,調べてみると多くの機種が存在したようである。いろいろ調べてゆくうちに本機はP型らしいことが判明した。シリーズの最終段階に近いもので,大衆向けに機能を集約した廉価版ということである。実際,当時の広告には「スプリングのNo.1を誇るマミヤシックスの最新型を土台として,40万台の製作経験を生かし,これ以上は不可能と考えられるまでの合理化を施して完成した,お(ママ)家庭むきカメラの決定版」と書かれている。
写真4.軍艦部カバーを外したところ

 さて,手入れしなければならない項目はすでに問題点として掲げた4項目である。

まず,(2)と(3)の改善から取り掛かった。とにかく埃を取り除き,注意深く注油するしか方法がない。(亀吉は素人だからそれしか思いつかない。)その結果蛇腹部分の開閉は軽く滑らかになり,ボタンを押しただけでレンズが飛び出すようになった。これでこそ「スプリングカメラ」だ!
 同時並行的にシャッターボタンの機構も清掃・注油することでシャッターの動きも滑らかになった。すると,不思議なことにB動作も正常になった。つまり(4)も解決した訳である。
 残った問題は(1)のファインダー内部の汚れである。このままでも我慢して使えないことはない。かなり迷ったが「カメラは美しくなければならない」の信条に基づいて清掃することにした。
 まず,軍艦部のカバーをはずさなければならない。このとき非常に神経を使うのだが,このカメラは意外に簡単に外せた。逆ねじもなければ,隠しねじもなかった。巻上げノブを左に回して外せば,あとはカバーを固定している3本のねじを外すだけでよかった。写真4をご覧いただきたい。
 さっそく光路上で露出している部分を無水アルコールで拭き取った。しかし,汚れは殆ど取れなかった。内部が汚れているに違いない。
 内部を綺麗にするためにはハーフミラーか接眼レンズを外さなければならないが,このいずれもどうしても外れなかった。ハーフミラーを無理に外そうとしたため,縁が欠け始めた。「これはまずい」ということで一旦あきらめて組み立て直した。
 組み立て直してファインダーを覗いて見ると,二重像が水平・垂直ともに大きくずれていた。買ってきたときからずれていたのか?それとも先ほどの作業で光学系に歪が生じたためか?最初の状態を記録していなかったので何とも言えない。初期症状を詳細に記録しておくことの必要性を改めて痛感した。

そこでつぎの問題が新たに発生した:
(1)距離目盛と実際のピントは一致しているのか?
(2)二重像のずれをなくす
 まず(1)を解決しなければ(2)を解決しても意味がない。これは苦手というか,ほとんどやったことのない作業である。

 まず,室内の壁付近に的を置き,反対側の壁付近にカメラを据えて裏蓋を開け,絞りを全開にしてシャッターをBで開放状態にしたままピントを合わせる。そのときの距離目盛が的までの実測値と一致しているか確認するのである。裏蓋を開けただけでは像は見えない。一般的にはすりガラスのようなスクリーンをフィルム面に置くようであるが,亀吉はそのようなものを持ち合わせていない。代わりに,今ではあまり使われることのない,トレーシングペーパを使った。その結果,ピントと距離目盛は一致していることがわかった。
 そこで,二重像を合わせることになった。
 再び軍艦部を開けて調整箇所を探した。その結果,左右の位置決めはねじで調整できるようになっているが,上下については調整ねじのようなものがない。いろいろいじっているうちにハーフミラーが外れてしまった。これはしめたとばかりに裏側の汚れを拭い,さらに接眼レンズの汚れをも拭うことができた。
 そこでハーフミラーを取り付けると,二重像の上下のずれは一層激しくなっていた。ということは,上下のずれはハーフミラーの取り付け角度で調整できることになる。実際接着剤をつけて微調整しながら固定することによって上下のずれは殆どなくすことができた。(後でわかったことであるが,上下の調節は写真4で中央右寄りにある円筒形部分を回転させるのだそうだ。)
 さて,左右のずれはねじで調整できると書いたが,このねじを一杯回してもズレを矯正できなかった。仕方がないので,そのねじで変位を与えるレバーをペンチで強引に曲げて合わせてしまった。
 以上で問題は一応片付いたことになる。
 では,試写してみよう。手許には富士フィルムの120判感度160がある。これを装填した。

写真5は近所にある貯め池である。葉の枯れた蓮が水面に影を落としてコントラストの強い風景を醸し出している。そこそこの写りではなかろうか?

写真5.近くの池


写真6.ローカル鉄道の車両

 写真6はローカル鉄道の車輛である。実は写真7を撮ろうとしていたら車輛が近づいてきたのであわててカメラをそちらに向けたが,何しろすべてマニュアル設定のカメラ。もたもたしているうちに車輛は客を降ろして出発してしまった。ようやくこの時分に設定が終わり,シャッターを切って得たのが遠ざかって行く車輛という訳である。今のカメラに比較したら解像度は劣るが,まあまあの出来ではないか?
 さて,最初に狙っていた被写体を写したのが写真7である。距離は凡そ3 mほど。手前の手すりはボケており,焦点は河童本体あるいは岩の辺りに合っていることが分かる。二重像の調整はうまくいったと考えてよいだろう。

写真7.ローカル鉄道の駅のシンボル

 このカメラを使って撮影していて不便と感じたことと便利と感じたことを述べておこう。写真8を見ながらお読みいただきたい。
 不便な点はフィルムの巻上げである。このカメラは赤窓方式であり,カメラの背面の覗き窓(赤窓)からフィルムの裏紙に印刷されている番号を見ながら左側の巻上げノブを回す。ところが,この赤窓は常時閉じられているのでこれを開けなければならない。その蓋は閉じる方向に常時ばねの力が加えられているので,赤窓を覗くためには常時指で引っ張っていなければならない。しかもその方向が左になっている。フィルム巻上げノブも赤窓の開放も左方向ということで操作しづらい。もちろん,この操作の間カメラ本体を支えていなければならない。
 なお,フィルムの装填が難しいとのことであったが,実際に装填してみて特に難しくは感じなかった。これよりややこしいカメラをたくさん見てきた。
 一方,便利な点といえばピント調節である。バックフォーカシングであるからレンズ鏡胴に手を回す必要がない。しかも,カメラを構えて右手の親指の位置にピント調節ダイヤルがある。これは操作性が非常に良かった。
写真8.カメラ背面

最後に一言。

 本文では触れなかったし,どの写真にも表われていないのであるが,裏蓋の赤窓の内側に円筒形をしたプラスチックが破損した状態で残っていた。それが,いろいろいじっているうちにすっかり消滅してしまった。取り付け位置・形状からして赤窓から入ってくる光を遮蔽するためのものだろうと思われた。しかし,バックフォーカス方式であるから,フィルムの位置が前方(レンズ側)に移動していたら遮光が不完全になる。ゴムのような柔らかい素材でできているのであればこの隙間の変化を吸収できるのであるが,件の筒は硬いプラスチック製であった。いろいろ調べたが結局わからずじまいであった。
 しかし,後日ふと気づいた。
このカメラではフィルムの巻上げに際しては,フィルム面を最大限裏蓋側に移動させるのではなかろうかということである。実際,このようにすれば件の筒による遮光がうまく機能するであろうし,また,ピント調節に際してフィルムの前後移動も滑らかに行えるであろう。つまり,ピント調節でフィルム面を前方に移動する場合,フィルムはたるむ方向になるので余分な力がかからない。亀吉はこのようなことを考えずに自由気ままにフィルムを巻き上げていたので,仮にフィルムがレンズ側にある状態で巻上げ,つぎにピント調節でフィルム面を裏蓋側に移動させようとしたらフィルムに強い張力を生じさせることになる。これはまずい。

取扱説明書があればこの疑問はすっきり解決するのであろうが,ないものは致し方ない。

■ 2012年3月16日 木下亀吉

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