わたしのカメラ三昧 第3回 松下電器のラジカメ C-R2

松下電器のラジカメ C-R2

久しぶりに地元のリサイクルショップに立ち寄った。事務室の入り口に黒い羊羹のようなカメラがあった。110(ワンテン)カメラであることはすぐにわかったが,その大きさが気になった。「大きい」のである。「ん!」と頭にひらめくものがあって,手にとって見るとスピーカらしきものが認められ,スイッチを入れるとかすかに音がした。探していたラジカメだった。

ラジカメ,「ラジオ付きカメラ」。その昔,松下電器(ナショナル,現パナソニック)が発売した複合カメラだ。社長に

「これは110(ワンテン)という今では手に入らないフィルムを使うカメラです。300円でどうですか?」

と話を持ちかけた。社長は手にとって,しばらくいじっていたが,

「まあ,いいでしょう。」

としぶしぶながら答えた。

実は500円という金額も考え,「300円から500円でどうか?」と言おうとしたがやめた。過去の経験から,このように持ちかけると500円に決まることが確実だからである。これは当然である。相手は1円でも高く売りたいのである。

このカメラの外観を写真1に示す。左の大きな円がスピーカ,中央やや左上部にスイッチがある。右側に見える白い円がシャッターである。


写真1.ラジカメC-R2の背面

ラジオ付きカメラは松下さんが最初ではない。先行して興和産業(コルゲンコーワの興和)がラメラという名で売り出したことがある。このときは16 mmフィルムを採用した。当時は110フィルムがまだなかったのであろう。また,米国でもKamraという名のラジオ付きカメラが売られていたそうである。

ラメラとラジカメは以前から知っていたのであるが,Kamraというのは今回この記事を書く過程で知った次第である。しかし,このKamraは興和がBell&Howell社にOEMで供給したものであった。つまり,Kamraの実態はRameraそのものであった。

ところで,連れ帰ったカメラの内蔵電池はまだ健全であった。ラジオは聞けるし,驚いたことにフラッシュも発光した。ということは,前の持ち主は,カメラとしてはともかく,最近まで使っていたということになる。もちろん,電池室内は綺麗で,液漏れの痕(あと)もない。よほど愛用していたのであろう。もしかしたら,カメラとしてもずっと使ってきたが,110フィルムが手に入らなくなったので放棄したのかも知れない。(110フィルムは2009年9月に生産が終了したそうである。)

本体をよく観察すると,「創立40周年記念 ○○造船(株)」というシールが貼られていた。○○造船という会社をインターネットで検索したが,見つからなかった。社名から推すと北九州市内にあったと思われるのだが,かつての造船不況のとき消滅したのだろうか?

このカメラの正面からの外観を写真2に示す。
写真2.ラジカメC-R2の前面

前面左にファインダー,中央に撮影レンズ,右にフラッシュが配置されている。扉が閉まっているためレンズは見えない。ファインダーに赤い鍵が見える。

インターネットでの検索結果(「すきもの屋blog」)等、亀吉が加除修正したこのカメラの仕様を以下に示す。どうもはっきりしないところがあるので,「・・・らしい」というふうに読んでいただきたい。

〔共通部〕
(1)発売:1980年

(2)使用電池:単三電池×2本

(3)サイズ(実測):幅65×長さ190×厚さ32mm(突起物を含まず)

(4)質量(実測):335 g(電池=50 g=を含む)

(5)発売当時価格:23,800円(?)15,910円(?)

(6)特徴:ラジオ付き110フィルムカメラ

〔カメラ部〕
(7)レンズ:無銘レンズ f5.6/24mm(構成不明)

(8)ピント:固定焦点(1.5m~∞、ストロボ時は1.5~3m)

(9)シャッター速度:単速1/125秒(?)1/250秒(?)

(10)露出:2段階絞り(ASA 100: f5.6 / ASA 400: f11)

(11)適合フィルム:110フィルム(画面サイズ13×17mm)

(12)対応フィルム感度:ASA100/400

(13)フラッシュ:内蔵(AMラジオとの併用不可)

(14)特記事項:シャッターロック機構と連動した「鍵」の表示つき

〔ラジオ部〕
(15)受信(回路)方式:9石トランジスタ式

(16)受信帯域:中波AM

(17)スピーカ:内蔵(実測径約50 mm)

(18)イヤホン出力:φ2.5モノラル

仕様の中に露出の「2段階絞り(ASA 100: f5.6 / ASA 400: f11)」という記述がある。これは110フィルムによって自動的に切り替えられるようになっている。カートリッジに突起のあるものとないものとがあって,その突起でカメラ内部のレバーを押すのである。


写真3.ラジカメC-R2のラジオ部分

左下の小さい円形つまみで選局する。音量調節は左側面にある。

特記事項として『シャッターロック機構と連動した「鍵」の表示つき』と書いた。これは知らない人は何のことかわからないだろう。写真4と5をご覧いただきたい。
写真4.シャッターロック状態


写真5.シャッターフリー状態

このカメラの撮影レンズの前には扉があって,これを開閉することによってシャッターがロックされたりフリーになったりする。写真4はロック状態である。撮影レンズは扉で塞がっており,ファインダーには鍵のような赤い印が立ちふさがってシャッターが切れないことを報せている。写真5は撮影レンズ前面の扉が開かれており,ファインダー前面の鍵も横を向いている。すなわち,シャッターが切れる状態であることを撮影者に報せているのである。純メカの時代になかなか手の込んだことをするものだと感心するやら滑稽に思うやらである。古き良き時代だったのである。

〔注〕正確に言うと,写真5は撮影状態ではない。レンズの扉が開き足りないのである。しかし,完全に開いてしまうと鍵が見えなくなってしまう。そうすると鍵がどのように隠れるかわからないので,敢えて中途で止めたのである。

ところで,ラジカメと言うのはいかにも現代日本人の好む略称ではないか?そこで不思議の思うのは相似ということである。

時代はデジタルカメラ全盛である。略してデジカメという。何と,ラジカメと似ているではないか?

このような例をいくつか挙げることができる。

たとえば,オーディオの世界では最近D級アンプというのが騒がれている。

従来,アンプにはA級,B級,C級というのがあったが,D級と言うのは聞いたことがない。どうも,Digitalの意味らしい。A,B,C級というのはバイアスのかけ方による分類だが,Digitalというのは全く違う分類である。それがあたかも同じ分類のように表現されるから不思議である。

LEDとLCDというのもある。

前者はLight Emitting Diode(発光ダイオード)であり,後者はLiquid Crystal Display(液晶表示器)であるが,頭文字を並べるといかにも関連がありそうではないか?

さて,脱線ばかりしてきたが,ようやく110フィルムが手にはいった。有効期限間近のものである。すでに書いたように110フィルムは2009年にその生産が終了している。今回手入れたものはその最後のものだろう。

とにかく早速試写してみた。写真6~写真9をご覧いただきたい。

写真6は亀吉が隠れ家にしている屋敷の門構え。唯一最大の特徴であるはずの郵便ポストの塗装が剥落して情ない。

撮影距離は5mほど。そこそこの写りだが,背景は白けてしまっている。よく晴れた日だったが,空は真っ白。距離も絞りもシャッター速度も固定なので仕方ないか?この程度の写りなのだろう。

写真6.木下亀吉宅の門構え

写真7は亀吉の愛車の鼻の部分である。撮影距離は1mほどだったと思う。仕様上の最短撮影距離は1.5mであることを考えるとよく写っていると言わざるを得ない。何しろ,汚れ放題の車体が綺麗に写っているではないか?


写真7.亀吉のボロ車

3枚目の写真は亀吉邸の北側にある最近流行の老人施設である。広大な敷地につぎつぎと増設されている。従業員も多く,出入りのバイクや自動車の騒音に悩まされる。しかし,亀吉も将来ここに転居あるいは通うことになるのではないかと思うと反感の気力も萎えてしまう。

それはともかく,やはりこのカメラでは遠景は駄目だ。手前の看板や植物は何とか判別できるが,後方の建物は白けてしまっている。青空も真っ白!

写真8.亀吉邸の隣にある将来の転居先候補

では,内蔵されているフラッシュはどうか?写真9をご覧いただきたい。
写真9.人物モデルとその愛犬(チンパンジーではない)

室内で撮ったものだが,光源の位置が悪いためか影がやたら目につく。人物モデルの髪の毛なのか影なのか区別がつかない。犬も同様に実態と影の境がわからない。それでも,フラッシュがないよりははるかにいいのだろう。

作:木下亀吉

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