わたしのカメラ三昧 第44回 コニカのぜんまい巻上げカメラ 「Auto SE」

1.はじめに
去年某カメラ店のジャンク品販売ワゴンの中からリコーハイカラーを見つけて以来,ぜんまい巻き上げ式カメラの虜になってしまった。
今度手に入れたカメラはコニカのオートSEという機種。コニカ唯一のぜんまい巻き上げ式カメラであろうか?オークションで革ケース付き1,200円。わたしにとってはやや高めの落札額であった。まずはその外観を写真1でご覧いただきたい。
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写真1.カメラの外観

軍艦部が扁平で,ここだけを見ると何となくキャノネットを連想する。ずっしりと重く貫禄のあるカメラである。
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写真2.カメラ底面

これまで扱ってきたぜんまい巻き上げ式カメラは皆カメラの底に大きな巻き上げノブが目立っていたが,このカメラにはそれが見当たらない。実は同じく底にあるのだが,ノブではなく羽子板のような形状で通常は折りたたんで目立たないように工夫されている。写真2をご覧いただきたい。
ぜんまいを巻き上げるときは写真3のように起こすのである。他社とは一線を画した意匠ではなかろうか?
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写真3.ぜんまい巻き上げ羽子板

レンズもヘキサノンであり,コニカのこのカメラにかける意気込みが感じられる。(コニカでは廉価版にはヘキサーを,高級機にはヘキサノンを搭載したとのことである。)

 

2.仕様と特徴
まずはここで仕様を眺めてみよう。例によって間違いがあるかも知れないことをご承知おき願いたい。
(1)名称:Konica Auto SE
(2)型式:レンズシャッター式レンジファインダーカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:ぜんまい巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:自動復元順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:HEXANON 1:1.8,  f = 38 mm
(8)ファインダー:採光式ブライトフレーム,パララックス自動補正レンジファインダー
(9)距離調節:手動(二重像合致式距離計連動)
(10)露出調節:自動(EE)
(11)シャッター:SEIKO ES
(12)シンクロ接点:あり
(13)電池:水銀電池(1.33V?/1.35V?)×1個
(14)概略質量:770 g(実測)
(15)概略寸法:135 W×85 W×65 W(実測)
(16)発売(製造)年:1966(昭和41)年
(17)発売価格:23,500円
(18)製造・販売元:コニカ(現コニカミノルタ)
特徴は敢えて書かないことにしよう。

 

3.初期状態

まず,気になるシャッター。
シャッターを取り囲むような円形の金具にレバーがあり,これでシャッターをロックできるとともにタイマーの設定にもなっている。そのレバーのロックをはずすとぶらぶらしている。タイマーのぜんまいは巻けない。
つぎにフィルム巻き上げのぜんまいを巻いてみた。軽い負荷の感触があって巻けるが,シャッターボタンを押してもシャッターは切れない。ぜんまいが切れているか機構が壊れているらしい。しかし,シャッターが切れないのは電池を含む電子回路のせいかも知れない。
そこで,直流安定化電源から1.5Vを供給してシャッターボタンを押してみた。しかし,シャッターは切れない。
さらにファインダーを覗くと曇っているうえ,二重像が見えない。これは最悪の物を掴んだのかも知れない。問題点を列挙すれば以下のとおりである。

(1)シャッターが切れない。タイマーの設定ができない。
(2)フィルム巻き上げのぜんまいが巻けない。
(3)ファインダーが曇っている。二重像が見えない。
(4)遮光材が劣化している。

 

4.手入れ・修理

何から手をつけたらいいのだろう?
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写真4.レンジファインダー部分(赤○内は脱落した鏡)

取り敢えず,トップカバーを開けてみた。意外に簡単だった。フィルム巻き上げレバーがないためでもあろう。もちろん,逆ねじもなかった。
写真4をご覧いただきたい。ファインダー部分の遮光板をはずすと妙なものが目に付いた。赤○で囲んだ部分である。小さな鏡のようである。どうもレンジファインダーの測距窓からの光を約45°反射させる鏡らしい。写真では認めにくいが,その機構部分を見ると鏡がなかった。つまり,ここから鏡が脱落したのであろう。道理で二重像が見えなかったはずである。
さっそく両面テープで貼りつけた。その結果二重像が見え出した。
しかし,ファインダーは相変わらず暗い。対物レンズ,ハーフミラー,接眼レンズなどを観察すると薄汚れているのがわかった。とくにハーフミラーの汚れが著しい(気がする)。
そこで,アルコールで汚れを拭き取った。ただし,ハーフミラーは水洗浄とした。ハーフミラーはアルコールなどの薬剤を使うと蒸着がはがれて単なる透明ガラス板になってしまう可能性がある。

遮光板を元に戻して問題(3)が解決した。
さて,話をシャッター周りに戻そう。

外部から見る限り,異常なところはなさそうである。したがって,もし故障個所があるとすれば,それはカメラ本体内部あるいは底部分であろうということになる。トップカバーを元に戻した。
今度は底板を外そうとした。しかし,ねじと巻き戻し軸をはずしても底板ははずれない。やはりこの部分はぜんまい仕掛けの中枢部分になるため,やや複雑な構造になっているのであろう。
どうしようかと立ち往生しかけたが,ふと思いついてフィルムを装填してみた。そしてぜんまいを巻き上げると,最初空回りのような感触だったのが,その後ぜんまいが巻き上げられているという確かな手ごたえが続いた。そして――シャッターボタンを押すとジーという変な音の後,カシャッとシャッターの切れる音がした。何度かいじっているうちに,最初ジーという音がしたのはタイマーの働く音だとわかった。つまり,タイマーのぜんまいがまかれたままであったのである。レバーがぶらぶらしていたのはその所為か?とにかく,レバーをまわせばタイマーも働くようになった。もちろん,シャッターも切れる音がするようになった。
しかし,音はするが,シャッター羽根は開かない。そうだ,電池を装填しなければならない。
適合する水銀電池がないので直流安定化電源から1.5 Vを印加した。その結果,いくつかの紆余曲折を経てシャッターが切れることを確認した。
LR44のような電池が使えるような工夫が必要である。水銀電池の電圧が1.33 Vであるのに対し,アルカリ電池は1.5 Vであるので,その差0.17 Vをどうするかという問題がある。その解決策としては,①無視して1.5 Vのまま使う,②ダイオードの順方向電圧降下を利用して1.33 Vに近づける,という2つが考えられる。
電池の問題はあるが,シャッターは一応解決したとしておこう。また,この過程でフィルム巻き上げ用ぜんまいの件も同時に解決した。結論としてはシャッターもぜんまいも何も問題はなかったのである。

残るは遮光材の件のみ。
今回は過日DIY店で買っておいたプロテクトシートを裁断して貼りつけた。本体側の細い溝には黒の毛糸を挟み込んだ。

さて,電池をどうするか?
まず,LR44を1個装填してみた。しかし,シャッター羽根は開かない。
直流安定化電源から1.5 Vを供給したときは動いたのにLR44で動かないということは容量の問題かも知れない。そこで直流安定化電源を使って電流を測ってみた。結果は以下のとおり。
1.33 Vのとき約60 mA
1.50 Vのとき約66 mA
約60 mAの電流が流れる。この電流(負荷)がLR44にとって過酷なのだろうか?参考のためにオリンパスの一眼レフOM-1の電流を測ったところ,1.33 Vのとき238μAであった。その比,何と250倍。桁が違う!
ここにきてインターネットで調べたところ,わたしと同じようなことをした記事が出ていた。それによれば,LR44×1個では駄目なこと,2個並列では不安定なことが書かれていた。SR44×2個並列ならOKとのことであった。
以上を要約すると,このカメラは今では考えられないほど消費電力が大きいということである。そして,LR44×2個並列では不安定で,SR44×2個並列ならOKということは大電流で端子電圧が低下した結果,電圧の高いSR44の方が有利であるということだろうか?(LR44は公称1.5 V,SR44は1.55 Vである。ただし,単に無負荷あるいは軽負荷時の電圧差だけでなく,パワーの違いが影響していると思われる。)
そこで,LR44を3個並列に接続すればよかろうと思い至った。(SR44を2個使うより安く手に入る。)
本来の水銀電池H-Pの大きさは直径16 mm×長さ16.5 mm(実測)である。一方,LR44は直径11.6 mm×長さ5.4 mmである。LR44を3個重ねると長さは5.4×3=16.2 mmとなる。直径は余裕があるが,長さが0.3 mmしか余裕がない。LR44を3個重ねると言っても,電気的には並列に接続しなければならない。
また,3段に積み上げたLR44を適当なケースに納めて水銀電池と同じ大きさにしなければならない。インターネットの記事によるとメンソレータムのケースがぴったりだと言う。
家にあったメンソレータムのケースを切断して(もちろん,中身はすべて取り出した)カメラに納めようとしたら入らなかった。改めて調べると,わたしの使ったのはメンタームであった。良く似ているが寸法が微妙に違う。子供のときからおっちょこちょいなのである。
そこでメンソレータムを買ってきて切断した。
また,電池の方はLR44を3個買ってきて各-(マイナス)極を細い電線で接続し,+極は薄いリン青銅か何かの導体板で巻いて接続した。それらを写真5に示す。
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写真5. 3個並列に接続されたLR44(右)とそのケース(左)

なお,-極の接続ははんだ付けによったが,これは一般には禁止されているようなので読者は真似しないでいただきたい。
3個並列に接続して積み上げた電池をメンソレータムのケースに納めたのが写真6である。長さがやや長くなってしまったが,電池室のばねで吸収できるであろう。
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写真6.ケースに納められた3個のLR44(左は水銀電池)

さて,作り上げた電池をカメラに装填してシャッターを押してみた。あれ?シャッター羽根は開かない!何で?
再度直流安定化電源をつないでみた。シャッターは切れる。では,LR44を3個並列に接続してもパワーが足りないのだろうか?
そこで,この電池の電圧電流特性を測定してみた。結果は表1のとおりである。60 mA以上流したときでも電圧は1.4 V確保されている。水銀電池は1.33 Vあるいは1.35 Vと言われているので問題ないはず。

表1. 三並列電池の負荷特性
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再度電池を装填してみたが,やはりシャッター羽根は開かなかった。
ここまで来ると,電池室の問題が考えられる。直流安定化電源を使った場合と電池を装填した場合との違いは,前者はクリップリードで接続するのに対して後者は直接電池室内の電極に接続されると言うことである。
とにかくまず,電池を外に置いてクリップで接続してみた。すると,シャッター羽根が開いたのである。クリップで接続する場合は電池室内の-電極(写真7の丸い電池室内の奥にある円形の電極)の外側を挟む。それに対して,電池を直接装填したときは-電極の平面部分に接触する。この違いしかない。
そこで再びトップカバーを外して電極の接続と導通を調べた。
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写真7.電池室内の負電極

その結果,通常とても想像できない現象が明らかになった。電極の表側の側面と裏側とは導通があるが,平面とはなかったのである。目視ではわからないが,どうも電極表面には何かの絶縁物質が付着あるいは生成しているようである。それがなぜ側面にはないのか不思議であるが,とにかく表面をやすりで磨いて導通を確保した。
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写真8.電池ボックス裏側の配線

さらに不思議なことには,電極の裏側と内部回路との接続が見つからないことである。唯一可能性のあるのは写真8の矢印で示した半田部分であって,この部分で電極と接触するよう考えられているようだ。確信は持てないが,このままではどうにもならないので矢印の部分にはんだを付加してみた。すると,導通が得られたのである。
以上の作業を終えてトップカバーを元に戻し,電池を装填したら今度はシャッター羽根が開いた。
正確にはこのあたりでもまだすったもんだしたのであるが,説明が難しいこともあるので割愛しよう。とにかく,修理は完成した。

 

5.使い方

フィルムの装填は,通常どおり行えばよい。ただし,巻き上げは底面の「羽子板」による。歯車がフィルムのパーフォレーションにかみ合ったことを確認して裏蓋を閉じ,羽子板を一杯に巻く。その上で3回ほど空シャッターを切る。
つぎに鏡胴の設定リングでフィルム感度を設定する。感度はASAとDINで表示されているので現在のISOに通用する。
また,同じく鏡胴の設定リングでAUTOに設定する。写真9をご覧いただきたい。AUTO以外の数値はストロボを使用するときのガイドナンバーを設定するためのものである。
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写真9.軍艦部

以上で撮影の準備は終えた。
おっと,注意点を2つ。
一つは使用しないときシャッターをロックしておくこと。
再度写真9をご覧いただきたい。シャッターボタンの周囲にレバーの付いた円盤がある。このレバーを回してLOCKまたは撮影(・)に合わせるのである。使用しないときロックしていないと,何かのはずみでシャッターボタンが押されると無駄にフィルムが巻き上げられてしまう。

もう一つはときどきバッテリーチェックを行うこと。
写真10をご覧いただきたい。背面右上に黒いボタンがある。CHECKと書かれている。これがバッテリーチェックボタンである。ファインダーを覗きながらこのボタンを押すと,電池が正常ならファインダーの下の方に雪の結晶のような図形の輝きが現れる。
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写真10.背面

 

6.試写結果
さあ,修理が終わったので試し撮りとしよう。例によって感度ASA100の36枚撮りカラーネガフィルムを装填した。
まず家の前で1枚撮ってみた。あれ?シャッターの感触がおかしい。そこでバッテリーチェックボタンを押してみたところ,雪の結晶は現れなかった。
さっそく家に戻って分解したところ,電源回路が切れていた。写真8の矢印で示した部分で電池室の電極とカメラ内部の電子回路とを接続するのであるが,ここが切れていたのである。
そこで一旦はんだを全部吸い取り,電極と基板間を細い電線で確実に接続した。
翌朝バッテリーチェックで電源が正常であることを確認した後,カメラを持ち出した。
昼,川の風景を撮ろうとシャッターボタンを押したらやはり感触がおかしい。バッテリーチェックボタンを押すとまたもや雪の結晶が点かない。また,回路が切れたか?
帰宅して電池を取り出し,電圧を測定したら非常に低くかつ不安定であった。0Vのときもあった。電池が消耗してしまったようだ。しかし,何でこのタイミングに?
よく考えると,修理のためにかなりの回数シャッターを切った。すでに容量を使い切ったのかも知れない。
このカメラには電源スイッチがない。もしかしたら漏洩電流が電池の消耗に一役買ったのかも知れない。念のため直流安定化電源から1.5Vを供給して漏洩電流を測ったところ,約56μAであった。これは無視できない値かも知れない。電池はかなり長い間装填されたままであった。記録はないが,仮に3日間(=24×3=72時間)とすれば,

56〔μA〕×72〔h〕=4,032〔μAh〕≒4〔mAh〕

LR44は100mAで60mAhということである。電流の違いを無視して計算すると4/60≒0.07すなわち約7%が失われたことになる。
しかし,後で判明ことだが,実は電池が短絡していたのである。LR44を3個並列に接続したものを縦に積み上げたものだから,電池間の絶縁が重要になる。これには充分気を付けたつもりであるが,何度も電池室に装填して蓋を閉めているうちに絶縁シートが破れたのである。電池を新しいものに替えて再度組み立てて装填した。今度は丈夫な絶縁シートを使い,かつ電池の蓋はあまりきつく締めなかった。
では,いよいよ試写結果をご覧に入れよう。
実は,最初の試写ではほとんどが露出過多になったのである。やはり電池の電圧が悪いのだろうか?あるいはフィルムの取扱か?あるいは・・・。
どうも腑に落ちないので再度試し撮りに挑戦した。写真は,近距離・中距離・遠距離の3とおりの被写体に対してASA感度を50・100・200・400の4とおりで撮ってみた。すなわち,合計3×4=12枚撮ったわけである。
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写真11.近距離景(ASA設定50)

まず,写真11~14をご覧いただきたい。最短撮影距離に近い約1メートルのところから撮ったものである。カメラのASA感度の設定を変えてもほとんど変化が認められない。強いて言えば,ASA感度の数字が大きくなるほど白けているようだ。つまり,露出過多気味になっているようである。
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写真12.近距離景(ASA設定100)

しかし,フィルムのラチチュード(許容度)とは大したもので,ASA50 から400の4段階の露出変化に対しても写真の出来には大差ない。逆に言うと,露出設定などかなり大雑把で構わないということになる。絞りやシャッター速度に神経質になっている自分が笑われているような気もする。
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写真13.近距離景(ASA設定200)

しかし,冷静に考えると4段階の露出変化に対してほとんど影響がないというのもおかしな話ではないか?もしかしたら,フィルム感度設定機構が壊れているのかも知れない。
ここで言えることは,LR44そのままでも差支えなかろうということである。1.5Vと1.33Vなど素人には問題ではないのかも知れない。
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写真14.近距離景(ASA設定400)

以下の写真はすべてASA設定100のときの作例である。ASA感度設定が100以外のときの出来具合も対して変わらなかったからである。(このことが判明したのはすべてを撮り終わって現像してからである。したがって,ここには示さないがASA設定50,200,400の各場合の写真もあるのである。)
さて,写真15はピントがどのあたりに合っているか知りたくて撮ったものである。写真を見ると生垣の最も手前に合っているようであり,これは狙ったとおりの結果である。二重像と実際のピントが合っていることが確認された。写り具合もなかなかいいではないか?(やや露出過多であろうか?)
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写真15.中距離景

最後に遠距離景を撮ってみた。写真16をご覧いただきたい。この写真ではやや露出過多に感じられる。1回目の試写のときも,どちらかと言えば遠距離景のとき露出過多になった。何かこのカメラの特性でもあるのだろうか?
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写真16.遠距離景

 

8.おわりに
今回は電池の工作で多大の時間を費やしてしまった。しかし電圧も形状も違う水銀電池に対処する方法を会得できたのは大きな成果であった。
ただ,読者の方は電池の加工に関しては真似などなさらないようにくれぐれもお願いしたい。

■2014年5月16日   木下亀吉
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