わたしのカメラ三昧 第38回 「小柄でかわいいKonica L」

1.はじめに
 3か月に1度ほどの頻度で訪れるリサイクルショップのショーケースの中に小柄で品のいいカメラが陳列されている。Konica Lだ。欲しいのであるが,何しろ高い値がつけられていて手が出せない。 そこで,インターネットオークションのお世話になった。まずは写真1でその外観をご覧いただきたい。
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写真1.カメラの前面

 この写真からは大きさはわからないが,小ぶりなのである。灰色の縮緬塗装も感じがいいし,赤いLの文字もなかなかいい。残念ながらこの個体は傷みが激しく,向かって右肩の腐食はやけどを負ったみたいで胸が痛む。シャッターボタンが前面に斜めに出ているのがおわかり頂けるであろう。
つぎの写真はこのカメラの背面である。ここにこのカメラ最大の特徴が隠されている。
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写真2.カメラの背面

 

2.仕様など
 ここで,このカメラの仕様のようなものを整理しておこう。
実は,仕様を正確に知るために「日本の歴史的カメラ」という本をひもといたのであるが,コニカLが見つからなかった。このカメラが載っていないとは驚きである。不思議でならない。
 ともかく,現物を見ながら,参考文献(1)を参考にしてまとめたのが以下である。例によって,間違いがあるかも知れないことをあらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称:Konica L
(2)型式:レンズシャッター式35ミリカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:レバー巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:手動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:KONISHIROKU HEXAR 1:2.8 f=40mm
(8)ファインダー:採光式フレームファインダー
(9)距離調節:前玉回転式目測手動設定(最短撮影距離目盛1 m)
(10)露出調節:セレンによるプログラムEE
(11)シャッター:SEIKOSHA-L; B,1/30~1/250秒
(12)シンクロ接点:あり
(13)電池:不要
(14)質量:460 g(実測)
(15)概略寸法:120W×82H×62D〔mm〕(実測,突起物を含まない)
(16)発売(製造)年:1961(昭和36)年?
(17)発売価格:11,800円,ケース1,300円
(18)製造・販売元:小西六(後のコニカ)

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写真3.裏蓋を開けたところ

 仕様は以上のとおりであるが,特徴というものは一般の仕様項目には表れないことが多い。このカメラの最大の特徴は何と言っても裏蓋の開閉機構にある。
 写真3をご覧いただきたい。裏蓋の上辺に接してトップカバーの切り欠きから出ているレバーを引くと裏蓋が下側に開くのである。フィルムの着脱が非常にやりやすい。画期的なアイデアではなかろうか?しかし,このカメラ以降に出された機種には継承されなかった。何か問題があったのだろうか?
 ところで,Konica LのLはLightのLだとか,LadyのLだとか言われているが,わたしはこの裏蓋を開いた形に由来しているのではないかと思う。写真4のカメラの状態を側面から眺めたらL字形になるのがおわかりいただけるであろう。
 もっとも,カメラ本体を持ち上げたり,レンズを下に向けたりしたら,裏蓋はカメラ本体と同一平面になるまで開く。ここまで開くとLではない。

 

3.初期状態と問題点
 傷みが激しい点を除いては大した問題は認められなかった。セレンによる測光も機能しているようである。ただし,正確かどうかはわからない。どうもこのカメラは長年に亙って劣悪な環境に置かれていたようである。もしかしたら,水をかぶったり,あるいは水没したりしたことがあったのかも知れない。

機能的な問題点を列挙しよう。
(1)軍艦部の覗き窓が曇って指針が全く見えない
(2)ファインダーがやや曇っている
(3)モルトが劣化している

 

4.手入れ
 軍艦部の覗き窓が曇って指針の見えないのは困るが,ファインダーの中にも示されるので撮影には支障がない。しかし,「カメラは美しくなければならない」。本来透明であるべき覗き窓のアクリル板が,指針が全く見えないほど汚れていては士気にかかわるのである
 まず,トップカバーをはずした。アクリル板をはずしてアルコールで拭うと綺麗になった。
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写真4.軍艦部の内部

 ついでにハーフミラーの組み込まれた部分も開いてみた。眺めながらファインダーの曇りを取り除くべきか迷った。このままでも使えないことはない。わずかな曇りなのである。内部を拭ったりしたらかえって悪くなる可能性がある。
 しかし,思い切ってアルコールで拭った。すると,恐れていたことが現実になった。ファインダーを覗くと被写体がぼやけて見えるのである。
 ハーフミラーの蒸着に影響して特性が劣化したに違いない。そうであれば蒸着を完全にはがして車の窓ガラスに貼るハーフミラーシートを貼ればよかろうと思いきや,蒸着が綺麗に取れない。
 結局,あきらめた。ファインダーは綺麗になったが,被写体はぼやけるのである。まあ,このカメラは目測でピントを合わせるのだからファインダーは単に構図を決め,露出計の指針を見るだけである。やや不本意であるがこのままにした。
 モルトの対策は大したことではない。

 

5.使い方
 このカメラの使い方に関しては特筆すべきことは何もない。
ただ一つ忘れてならないことはフィルム感度の設定である。レンズ鏡胴部分に1か所四角い覗き穴が開いていて,そこから感度を現わす数字が読める。写真4でおわかりいただけるであろう。この数字を使用するフィルムの感度ASA(=ISO)に合わせなければならない。
 露出はファインダー内上部に見える指針が中央に来るようにレンズ鏡胴の絞りリング(と呼ぶのだろうか?)を回せばよい。
 そうそう,フィルムを装填して2,3枚空送りしたらフィルム計数値を1の一つ前に指で合わせなければならない。自動復元ではない。

 

6.試写結果
 買いだめしておいた業務記録用カラーネガフィルムを装填した。感度100の36枚撮りだ。このカメラを持って,隣県のひなびた温泉に出かけた。20年振りだったろうか?
温泉街の入口でまず1枚。写真5である。ひなびた温泉街には昔ながらのポストが似合う。距離は3 mほどだったと思う。
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写真5.郵便ポスト

 ほどだったと思う。なかなかよく撮れている。ポストの色もいいし,背景の建物の木材やコンクリートの肌合いもよく出ている。
 温泉街は谷川に沿った石畳の坂道の両側に形成されている。
その途中に待合所があった。5メートルほどのところからパチリ。写真6である。露出が建物の中に合っているので石畳の道は露出過多気味である。これは致し方のないこと。と言うより,むしろ測光・プログラムEEがよく機能している証と考えられる。
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写真6.待合所

 前回来たとき共同浴場に入った。無料だったことを覚えている。土地の人や湯治客と思しき人達と一緒にゆったり温泉に浸ったことを思い出す。
 その浴場を探したのだが,見つからなかった。正直言うと記憶が曖昧なのである。
最も確からしいのはここだろう,ということで入ったのは下の写真(写真7)の場所であった。入口に入浴料金を入れる箱が置かれていた。200円投じて一風呂浴びた。
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写真7.公衆浴場

 この浴場のそばに温泉発見の経緯の書かれた碑文が立っていた。何でもその昔老猿が湯治にやって来たところを土地の人が見つけ,これが温泉発見につながったということである。
 その碑文の手前は谷川になっていて古い橋がかかっていた。古いと言うのはその姿より,名前から感じたのかも知れない。写真8をご覧いただきたい。構図のせいもあって奥行きのよく出ている写真になった。ただ,左上の建物の色が場違いな感じを与える。
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写真8.橋の欄干

 その橋のかかっている谷川を上流に向かって撮ったのが写真9である。遠景はスキャナによるデジタルデータ化のためか白んでいる。
 この谷川の水はよく澄んでいる。山女魚でもいそうな溪相である。温泉街なのに谷川の水が綺麗というのは土地の人の努力のたまものであろう。自分たちの住んでいる場所=観光地の環境を守ろうという確かな気持ちが伝わってくる。
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写真9.溪流

 再び石畳の道に戻って下ってゆくと道の片隅に消火栓があった。古びていて,失礼だが今でも水が出るのかどうか疑わしい。このカメラの最短撮影距離(1 m)で撮ってみた。よく撮れているではないか?ただし,やや露出過多気味に感じられる
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写真10.消火栓

 

7.おわりに
 実はこの個体はコニカLの2代目である。初代はシャッター不動で,これを修理しようとして木端微塵にしてしまった。外観は非常に綺麗だったので残念である。いつか修理できる日が来るかも知れないのでそのまま保存している。
 このコニカLと同世代のカメラにコニカJとコニカSがある。前者はJuniorで,後者はStandardらしい。インターネットの記事によると,コニカのカメラのレンズは廉価版にはHexarを,(廉価版に対する相対的な意味での)高級品にはHexanonを使うらしい。参考文献(1)によると確かにコニカJ(10,000円)にはHexarが,コニカS(23,300円)にはHexanonが使われている。
 では,このコニカLはどうか?もう一度仕様を眺めると,Hexarである。つまり,廉価版という位置づけになる。
 しかし,試写結果は決して廉価版とは思えない。なかなかいい写りだと思う。
 シャッターボタンは前面に斜めに突き出している。右手の人差し指で押しやすいようであるが,わたしにとってはそれほど使い易いとは思えなかった。慣れの問題だろうか?
 ところで,インターネットでいくつかの記事を調べているうちに変なことに気付いた。それはコニカLの重さを740gと記した記事を少なくとも2件見たことである。740 gとはかなりの重さである。一眼レフのオリンパスOM-1(50 mm/f1.8レンズ付き)でさえ660 gである。
 わたしのコニカLの実測値は460 gであった。再度計ってみると465 gとも読み取れそうだ。計量器の確度・精度によっては470 gとなることがあるかも知れない。すると,上記の740 gはこの470 gを間違えて書いたものではなかろうかという推測が成り立つ。

それにしても少なくとも2件の記事が同じ誤りをおかしたということは,一方が他方の記事を引用したからだと思える。あるいは両方とも他の記事を引用したのかも知れない。引用,孫引きもいいが,しっかりと検証しなければならないと悟った次第である。

参考文献
(1)アサヒカメラ編集部:「国産カメラの歴史」,朝日新聞社,1994

 

■2014年1月21日   木下亀吉

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