わたしのカメラ三昧 第28回 オリンパスのカプセルカメラ「XA1」
1.はじめに
30歳から仕事に埋没してしまった。カメラで楽しむということもなくなった。家族の写真もほとんど残っていない。
永い眠りから覚めたのは四十代の後半であった。知人宅でパノラマ写真なるものを見せてもらったときである。そのような写真が写せる(プリントできる)ようになったことに軽い衝撃を受けた。
突然最新のカメラが欲しくなり,近くのカメラ屋に走った。店長と思しき人に
「普通サイズとパノラマサイズが撮れるカメラが欲しいのですが・・・」
というと,その人はにっこりして
「このあたりのカメラ(=コンパクトカメラ)は全部そうなっています。」
との返事。そこで,
「ズームが付いているといいのですが・・・」
というと,目をまん丸くして
「今,全部そうなっていますよ。」
という返事。さらに,半ば思いつきで
「リモコンでシャッターが切れるものはないでしょうか?」
と訊くと,すこしあきれた顔をして
「今は全部そうなっていますよ!」
という返事であった。
正直言って,リモコンシャッターの存在などほとんど知らなかった。時代は予想よりはるかに進んでいた。小生が唯一大切に保存してきたのはオリンパスの一眼レフOM-1であった。自分ではまだまだ新しいと思っていたのであるが,すでに知っている人が少なくなっていた。
とにかく,その場でオリンパスのμズームというのを買った。
ついでに20枚撮りフィルムを買おうとしたら,20枚撮りなどないと言われた。24枚と27枚になっていたのである。
それから数日後,フィルム1本撮り終えたのでカメラ屋に持って行き,
「サービスサイズでお願いします。」
と言うと,変な顔をされた。<この店員は「サービスサイズ」がわからないのだ。>
「Eサイズですよ。」
と言い直すと,
「できないことはありませんが,時間がかかり,値段が高くなりますよ。」
と言われた。<ええ?一番早くて安いのではないか?>と思いながら事情を聞くと,早くて安いのはLサイズだという。時代は変わっていたのだ。
μズームはなかなかよかった。
綺麗に写った。ストロボ内蔵が便利だった。ズームの性能もいい。昔のズームとは比べ物にならない。もちろん,リモコンも活用した。海に山に,海外出張にも持って行った。
さらにいいのがレンズカバーである。レンズの前の蓋を横に引くとレンズが出てくる。撮影準備が迅速に行なえるし,レンズキャップを紛失することもない。――このような構造のカメラを「カプセルカメラ」と言うそうだ。オリンパスの有名な設計者米谷さんの講演記録を読んで最近知った。それはXAという型名のコンパクトカメラであった。それが急に欲しくなった。手に入れたのはXA1という機種である。写真1をご覧いただきたい。
オリンパスによると,初代XAは1979(昭和54)年に発売されたそうである。また,本格的カメラとしては初めてプラスティック素材を採用したとのことである。
XAはその後XA2へと進化し,本機のXA1が世に出て,さらにXA3,XA4へと発展したとのことである。そして,本器XA1のみ電池不要の設計である。図2はレンズバリアを開いたところであるが,レンズの周囲(実際には上下)にセレンが埋め込まれているのがわかるであろう。
このカメラは35ミリフルサイズであるが,非常に小さい。35ミリハーフサイズとほとんど同じ外形寸法に収まっている。
再度写真2をご覧いただきたい。XA1の後ろにあるのは同じくオリンパスのペンである。ついでに,ここでこのカメラの系譜を確認しておこう。表1にまとめてみた。
表1.オリンパスXAシリーズの系譜
発売年 | 型名 | 発売価格 | 備考(亀吉が要約した) |
---|---|---|---|
1979 | XA | 32,800円 | 内蔵距離計,絞り優先AE搭載。 |
1980 | XA2 | 27,800円 | XAを初心者向けに改良。通産省グッドデザイン賞受賞。 |
1982 | XA1 | 27,800円 | XAシリーズの普及版。セレン光電池搭載。2速のプログラムAE |
1985 | XA3 | 36,500円 | 3点ゾーンフォーカスを採用。 |
1985 | XA4 | 47,300円 | 28mm広角レンズを搭載。マクロ撮影可能。 |
注.価格は単体の場合もあり,セットの場合もある。単純な比較はできない。
XA1とXA2の順序が逆転している。このことから,できた順に番号を付けたのではなく,あらかじめシリーズ展開が計画されていたことがわかる。XA1は開発に予想外の時間を要したのであろうか?
小生の興味の対象はクラシックカメラである。そのクラシックカメラとは,自分流に「電池がなくても使えるカメラ」と定義している。XAシリーズではこのXA1だけが電池不要である。このことがこのカメラを選んだ理由である。
XAシリーズには専用のストロボが用意されている。このXA1のためにはA9Mというストロボがある。写真3をご覧いただきたい。かなり横長長くなるが,ストロボ付きとして一体感が得られる。それにしても長い。
写真3.XA1+A9M(専用ストロボ)
2.仕様など
仕様のようなものをまとめると以下のとおりである。例によって,間違いがあるかもしれないことをあらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称 : XA1
(2)型式 : 35mmレンズシャッターカメラ
(3)適合フィルム : 135判(ASA100と400)
(4)フィルム送り : 背面ダイアル巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数 : 自動リセット順算式
(6)画面寸法 : 24×36 mm
(7)レンズ : D-Zuiko 35mm 1:4
(8)ファインダー : 透視式
(9)距離調節 : 不要
(10)露出調節 : 自動
(11)シャッター : ?
(12)シンクロ接点 : 専用ストロボ(A9M)用接点あり
(13)電池:不要(セレン光電池搭載)
(14)質量:200 g(実測値)
(15)概略寸法 : 約65H×105W×40D〔mm〕(実測値)
(16)発売(製造)年 : 1982(昭和57)年
(17)発売価格 : 27,800円
(18)製造・販売元 : オリンパス
とにかく,小さくて軽い。ポケットやカバン,ハンドバッグにも楽に納められ,押せば写るという気軽に使えるカメラである。
3.初期状態と問題点,手入れ
このカメラは非常に良い状態であった。シャッターは切れるし,暗いところでは赤べろも出てきた。(赤べろについては「4.使用方法」を参照されたい。)セレンが生きている証拠である。また,ストロボも発光した。動きに問題なし。
レンズも綺麗なようだ。何しろ,シャッターと絞りを開放状態にできないので外から見える範囲でしか点検できない。念のため洗浄液で表面を拭って手入れを終えた。
4.使用方法
特別難しいことはない。フィルムを装填してシャッターを押すだけである。ただ,2点だけ注意しておこう。
まず,最初にフィルム感度を設定する必要がある。ASA100と400に設定できる。逆に言えば,100と400以外のフィルムは一般的には使えないということになる。
つぎに「赤べろ」。暗いところではシャッターボタンを押したときファインダーの中に赤べろが出てくる。「暗くて写せません」というカメラからの警告である。もちろん,無理に押してもシャッターボタンは沈まず,したがってシャッターは切れない。
この赤べろはオリンパスの特許だろうか?ペンやトリップ35にも適用されている。個人的にはこの赤べろが大好きである。今のデジタルカメラにも適用したら面白いのではないか?
5.試写結果
カメラを手に入れたとき感度100の12枚撮り業務記録用カラーネガフィルムが付いていたのでそれを装填した。
まずは遠景。写真4をご覧いただきたい。まあ,写っているという感じである。逆光気味であったのでこのカメラでは厳しい条件でもあっただろう。何しろ,「押すだけ」なので撮影者は露出を細工することができない。
写真4.遠景
つぎは5メートルほどから撮った。写真5をご覧いただきたい。この距離だとかなりいい。海面の艶が良く出ているとは思わないだろうか?
余談であるが,小生は撮影対象として海に浮かぶ船が好きだ。それも大型船より小舟,漁船の類がいい。なぜか心躍る気持ちになるのである。海洋民族の血が騒ぐのだろうか?
写真5.中距離景
最後に近景を。写真6である。1メートルほどのところから撮った。ゑびすさんだろうか?かなり風化している。パンフォーカスなので背景の民家もきちんと写っている。このような被写体では背景を少しぼかしたいのだが,このカメラではそのような芸当はできない。何も考えず,「シャッターを押せば写る」カメラとしてはこうならざるを得ない。そういう意味では,このカメラは設計目標を達成していると言わざるを得ない。
なお,当日は珍しく好天に恵まれ,フラッシュを使う機会がなかった。
写真6.近景
6.おわりに
このカメラは35mmフルサイズであるが,写真の写りはハーフサイズ並みと言っていい。カメラの大きさもハーフサイズである。と言うことは,撮影枚数が少ない分だけ損ということになる。
また,この種のカメラでしばしば不便に感ずるのはフィルム装填時のフィルム送りの問題である。裏蓋を開けている間はシャッターが切れるので,続いてフィルムを巻き上げることができる。しかし,裏蓋を閉じると暗いところでは赤べろが出てシャッターが切れない。切れなければフィルムの巻き上げができない。仕方なくレンズを出して明るい方に向けてシャッターを押すのだが,何とも知れない状態に感光してしまう。
不平を言えばきりがない。とにかく,小さく,軽く,押せば確実に写るカメラである。
参考文献
(1)歴史的カメラ審査委員会(編):「日本の歴史的カメラ」増補改訂版,日本カメラ博物館,2004
(2)白松 正:「カメラの歴史散歩道」,(株)朝日ソノラマ,2004
■2013年6月14日 木下亀吉
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