わたしのカメラ三昧 第21回 「ハーフサイズの一眼レフ OLYMPPUS PEN-F」

1.はじめに
やはりリサイクルショップには定期不定期を問わず時々通うべきである。たまにお宝を発見することがある。
今回のこのカメラもそうである。オリンパス・ペンF。クラシックカメラファンなら少なくとも名前ぐらいはご存知だろう。
35ミリハーフサイズの一眼レフである。ハーフサイズのカメラは1960年代に爆発的なブームとなり,一時35ミリフルサイズ(24×36 mmの画面を仮にこう呼ぶ。)レンズシャッターカメラの生産台数を上回ったとのことである。そのハーフサイズカメラの頂点に立ったのがこのペンFおよびその後継機ではなかったろうか?
さて,このカメラはフィルムの巻き上げができず,したがってシャッターも切れない不動品であった。もちろん,ミラーはアップしたままでファインダーを覗いても真っ暗。しかし,外観は比較的綺麗でレンズとレンズキャップも付いており,革ケースも健在であった。修理に失敗しても勉強にはなるだろうということで連れて帰った。
まずはその外観を写真1でご覧いただきたい。

写真1.ペンFの外観

金属が光沢を放って見えるが,実物はこれほど輝いてはいない。しかし,割といい状態であることは確かである。本体とレンズキャップに彫り込まれているFの花文字が全体を優雅な雰囲気にしている。
このカメラはオリンパスの米谷さんの設計ということだ。米谷さんはオリンパスのペンシリーズを設計したほか,後のOMシリーズの設計も担当したとのことである。
余談であるが,OMシリーズの最初の機種であるOM-1は最初M-1と名付けられた。しかし,ライカから自社のMシリーズと紛らわしいという苦情が寄せられ,名前をOM-1に変えたという話は有名である。このM-1あるいはOM-1のMは米谷さんの頭文字ではなかろうかと小生は密かに思っている。設計者の頭文字かどうかはともかく,設計者の「思い」を製品に強く反映できた古き良き時代だったと思う。
ところで,このカメラの姿を見て,「おや?」と思った方はいないだろうか?一眼レフなのに山伏の頭襟(ときん)のような突起がないのである。一般の一眼レフの頭襟のようなものの中にはペンタプリズムが収まっている。ペンFではこのペンタプリズムを使っていないのである。小生は詳しくは知らないがポロプリズムという種類のものを使っているそうである。そして,その光の経路は迷路のようになっているとか。迷路とはちょっと大袈裟な表現だろうが,レンズとファインダーの位置関係を考えたら,簡単な経路でないことだけは想像がつく。レンズを通ってきた光はシャッター手前の鏡によって左に折れ曲がり,ここでプリズムによって上に反射し,次いで右に屈折して,さらにもう一度左に90度折れ曲がってファインダーの接眼部に導かれると想像される。最初の鏡を除いて,少なくとも3回は直角に折れ曲がらなければならない。
カメラを革製の速写ケースに収めたところが写真2である。
経年劣化でつやは失われているが,まだまだしっかりしている。OLYMPUS-PEN Fの文字も読み取れる。

写真2.速写ケースに納まったペンF

カメラの背面は写真3のようである。特別変わったところはないが,フィルムの巻き上げが背面レバー式になっている。メッキが悪いのか,このレバーだけに錆びが発生している。

2.機能配置と操作方法
写真1を再度ご覧いただきたい。
向かってレンズの左に見えるのがシャッター速度設定ダイヤルである。これはいつでも設定変更できるようである。そのダイヤルのすぐ上の軍艦部に長方形のシャッターボタンがある。また,その後ろにフィルム計数窓が開いている。
アクセサリシューはねじ止めなどのきちんとした固定方法ではなく,単にファインダー接眼部の溝に差し込む方式である。やや頼りない気がする。
フィルム巻き上げレバーは背面にある。写真3をご覧いただきたい。このレバーは2度回すことで1コマを送るようになっている。ハーフサイズなのになぜ1回でできなかったのだろうか?

写真3.ペンFの背面

このカメラは完全機械式であることはもちろん,セルフタイマーもない。まったく必要最小限の機能しか備えていない。強いて付加機能を挙げれば,それはシンクロ接点が出ていることだろう。

3.仕様など
現物を鑑定し,小生手持ちの図書(参考文献参照)によると,このカメラの仕様などはつぎのとおりである。ただし,間違いがあるかも知れないことはあらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称 : PEN-F
(2)型式 : 35ミリハーフサイズフォーカルプレンシャッター式一眼レフカメラ
(3)適合フィルム : 135判
(4)フィルム送り : レバー巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数 : 順算式,自動復元,最大74枚(数字は72まで)
(6)画面寸法 : 24×17 mm
(7)付属レンズ : Olympus F.Zuiko Auto-S,1:1.8,f=38mm,4群6枚?
(8)ファインダー : ポロプリズム使用
(9)距離調節 : 手動,最短撮影距離35 cm
(10)露出調節 : 手動,f1.8-16
(11)シャッター : 回転式金属板フォーカルプレンシャッター,B,1~1/500秒
(12)シンクロ接点 : あり(アクセサリシューはホットではない)
(13)電池 : 不要
(14)質量 : 約635 g(実測=吊り革紐を含む)
(15)寸法 : 約70 H×127 W×65 D〔mm〕(突起物を除く実測値,ただし38mmレンズを含み,アクセサリシューを含まない)
(16)発売(製造)年 : 1963(昭和38)年
(17)発売価格 : 15,000円(本体のみ),26,500円(本体+38mm f1.8レンズ)
(18)製造・販売元 : オリンパス光学工業

ここで,ハーフサイズの寸法について少し考えてみたい。
上の仕様のところでは画面寸法を24×17 mmと記した。実測した寸法である。しかし,一般には24×18 mmとうたわれることが多い。それはフルサイズ24×36 mmの半分の寸法ということによるのであろう。
しかし,36 mmを半分にして18 mm幅の画像を収めるとすると,隣り合う画像との間にクリアランス(離隔)が取れなくなる。フルサイズの画像でのクリアランスを求めると,1画像に8パーフォレーション間隔(=実測1.5インチ=38.1 mm)を充てているので

38.1-36=2.1〔mm〕

となる。つまり,約2 mmのクリアランスを確保というか見積もっているのである。このクリアランスをそのままハーフサイズに適用すると,

(36-2.1)/2=16.95〔mm〕

となる。これを根拠として17 mmにしたのではなかろか?
これにより,24×17 mmでのフィルムの巻き上げは1回につき4パーフォレーション送ればよいことになる。
一方,18 mm幅にするとなると,クリアランスを1 mm程度にしなければならなくなる。これは当時の技術その他の事情からいろいろ問題があったのではなかろうか?
では,5パーフォレーション送ることにしたらどうか?計算すると,

4.7625〔mm/パーフォレーション〕×5〔パーフォレーション〕-18≒5.8〔mm〕

となって,広すぎる。つまり,1画面あたり

5.8-2=3.8〔mm〕

だけ無駄になる。
そこで,パーフォレーションの整数倍という考え方をやめて,2.1 mmのクリアランスを確保するとすれば,1画面とクリアランスの合計は

18+2.1=20.1〔mm〕

であるから,パーフォレーションの尺度に換算すると,

20.1÷4.7625≒4.22〔パーフォレーション〕

となる。すると,フルサイズ36枚撮りフィルムでは
(8〔パーフォレーション/枚〕×36〔枚〕)÷4.22〔パーフォレーション/枚〕≒68〔枚〕
撮れることになる。これが,先にご紹介したMercury IIの65枚という仕様になっているのであろう。
私見では24×16 mmにしたら良かったと思う。と言うのは,フルサイズでは縦横比が1.5であるのに対し,24×18 mmでは1.33また24×17 mmでは1.41となるのである。縦横比に関してはいろいろな考え方があるが,当時主流のフルサイズのそれに合わせたら何かと都合がよかったのではなかろうか?

4.問題点など
すでに述べたように,このカメラは割と状態が良く,下の2件以外は大した問題はなさそうである。
(1)フィルムの巻き上げができず,シャッターも切れない,ミラーも上がったまま
(2)ファインダー,レンズが若干曇っている
特に,(1)が致命的であり,これが解決しないとこのカメラは単なる金属の塊にしか過ぎない。

5.手入れ
では,問題(1)に取り組もう。
レンズを外して,フィルム巻き上げレバーに力を加えたり,シャッターボタンを押したりしながら,内部の動きを観察した。また,ミラーがアップしたままなのでこれにも力を加えたりしてみた。何度かこのようなことを繰り返していると,突然ミラーが戻った。するとフィルムの巻き上げができた。しかし,シャッターボタンを押すとまたミラーアップの状態になってしまった。

写真4.レンズを外したところ

そのうち,ミラーを戻す要領を得て,子細に観察していると,写真4に示す突起の動きが不安定であることがわかった。どうも油切れのような動きである。この突起はレンズ側のレバーに連結され,絞りを開閉する機構であろう。
そこで,カメラの底蓋を開け,例の突起に連動した金具部分(写真5参照)に注油したところ,一発でシャッターが快調に切れた。問題解決の瞬間であった。
後でインターネットで調べたところによると,ペンFはどうもこの機構が弱い(?)ようで,多くの動作不良の原因がここにあるようである。
シャッターは切れ,フィルム巻き上げもできるようになったが,詳細に点検すると低速でミラーアップ状態になることがわかった。大体8分の1秒以下で不調になる。いろいろ挑戦したが,どうしても改善されなかった。ということは,シャッターのスローガバナに問題があるのだろうが,ここはちょっと手を出しにくい。二眼レフのシャッターは難しいのである。下手をすると元も子もなくなってしまう。
そもそも,小生は8分の1秒以下など使うことがない。使うことがない機能を追求してカメラそのものを木端微塵にするのは耐えられない。少しだけ後ろ髪をひかれる思いがするが,このまま我慢することにした。

写真5.底蓋を開けたところ

さて,つぎはレンズの汚れの問題に挑戦。レンズを外して光源に当ててみると曇りのほかにかびのようなものが認められる。写真6でそれがお分かりいただけるであろうか?
同写真で,レンズのすぐ外側の環状部品に蟹目の穴が開いているのでこれに開螺器(かいらき)を引っかけて取り外した。するとフィルム側のレンズが取り出せ,このレンズの内側と鏡胴側のレンズの汚れを拭った。しかし,かびとほとんどの曇りとはその鏡胴側レンズの内側であった。
かびを取るにはレンズを分解しなければならない。小生はかつてニコンのレンズを分解したことがあるが,木端微塵にしてしまった。一眼レフは本体も難しいが,レンズも難しいのである。

写真6.レンズの汚れ

悩んだ末,レンズにはこれ以上手を入れないことにした。経験上,この程度のカビなら撮影にはほとんど影響がないと思えたからでもある。

6.試写結果(その1)
コダックの135フィルムを装填した。2日間かけて30枚ほど撮った。
結果は芳しくなかった。どの写真もすっきりしていないのである。粒子が粗いとでも表現したらいいのだろうか?写真7は最短距離で撮った草花である。その粗さがおわかりいただけるであろう。
ハーフサイズだからという理由もあろう。また,当時のレンズの水準からすれば仕方ないのだろうとも思える。しかし,もう少し期待してもいいのではないか?
やはりレンズのかびとちりによって乱反射しているのだろうか?

写真7.最短距離で撮影した草花

7.レンズの手入れ
インターネットで調べたところ,ペンFのレンズの分解はそれほど難しくないことがわかった。ねじを3本抜いたら分解できるというである。
写真8はレンズを分解したところである。中央のレンズはそれほど汚れていないが,左側のレンズには汚れが認められるであろう。

写真8.分解されたレンズ

早速ベンジンで拭ったがカビは取れなかった。そこで,困ったときの「ハンドソープ」。しかし,これでも完璧には取れなかった。ここまでして取れないものは仕方がない。ただし,「完璧」には取れなかったものの,実用上ほとんど問題ない程度になったと思う。写真9をご覧いただきたい。そして写真6と比較されたい。撮り方が異なるので単純な比較はできないが,かびや汚れはほとんどなくなったことがお分かりいただけるであろう。

写真9.汚れを取ったレンズ

7.試写結果(その2)
レンズを綺麗にしたので再度試写に挑戦した。
まず,写真10をご覧いただきたい。そして写真7と比較していただきたい。色相の違いはともかく,残念ながら画像は改善されていない。レンズの汚れが原因ではなかった。経年変化は別にして,このレンズの実力なのであろう。小生の貧弱な知見によれば,レンズは1970年代の後半から1980年代の前半にかけて設計・製造技術が飛躍的に向上したようである。もちろん,その後も向上し続けたのであろう。このカメラは1960年代のものである。致し方のないことだとあきらめるしかない。
もっとも,いずれの写真も朝撮ったものであるので光量不足の問題などがあるかも知れない。

写真10.再度最短距離で撮影

もう少し距離をあけると粗さが目立たなくなる。写真11は木の実を近距離から撮ったものである。1 m未満であったと思う。かなりいい出来ではなかろうか?

写真11.短距離で撮影

つぎに中距離で撮影してみた。写真12をご覧いただきたい。公園の象の親子像である。距離は5 mほどではなかったろうか?さすがに,この距離になると画面の粗さは感じられなくなる。このカメラではこの程度の距離での撮影が最適だと思われる。

写真12.中距離で撮影

最後に遠景を撮ってみた。写真13は距離を∞に設定して遥か遠方の高山を撮ったものである。残念ながらほとんど認められない程度にしか写っていない。小生は遠方に山があることを知っているのでかすかにわかるのであるが,知らない人にはわからないかも知れない。
これも日の出から30分以内に撮ったものなので光が弱い。

写真13.遠景

以上挙げた写真の中で,日中撮ったのは写真11だけである。やはり写真は光あふれる中で撮りたい。写真の写りが今一歩というのは小生の写真を撮る態度(時刻,天候)が悪いのかも知れない。

8.終わりに
あこがれのペンFであったが,その試写結果はあまり満足できるものではなかった。60年代の技術であるし,ハーフサイズということも原因しているのであろう。
そもそも,ペンという名称は「ペン(万年筆など)でメモを取るつもりで撮れる」という願い・目標から生まれたものだと聞いたことがある。当時高価なフィルムを,ハーフサイズで倍の写真が撮れるというのはまさにこの目標にかなっていたといえよう。今でこそ,若者たちは手帳にメモする代わりにデジタルカメラでメモを撮っている姿をみかける。この発想は上に述べたように60年代にすでにあったが,それが充分発揮できるようになったのはデジタルカメラの到来以後のことである。(ハーフサイズでフィルム・現像代は節約できても,焼き付け単価は変わらない。)

なお,写真の左または右に黒い帯が写っているが,これはスキャナでデータ化したときに生じたものである。カメラやフィルムのせいではない。もちろん,いつもどおりトリミングなどの加工は一切していない。

参考文献
(1)白松 正:「カメラの歴史散歩道」,朝日ソノラマ,2004
(2)(財)日本カメラ財団歴史的カメラ審査委員会編:「日本の歴史的カメラ」(増補改訂版),日本カメラ博物館,2004

 

■2012年12月18日   木下亀吉

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