わたしのカメラ三昧 第8回 二眼レフカメラ Alfaflex
二眼レフカメラ Alfaflex
インターネットオークションの出品物を眺めていたら表題のカメラが目についた。いや,正しくに言うとそのカメラと一緒に写っていた距離計に目が止まったのである。どうもワルツの距離計らしい。2個ある。1個は正常な外形をしているが,もう1個は一部破損している。距離計が欲しくて直ちに応札。格安(?)で落札できた。距離計はともかく,届いたカメラを見て驚いた。ピントガラス(と言うのだろうか?)が割れているではないか。出品時の写真で確かに黒い部分が認められたが,それは影と思っていた。また,ピント調節が殆ど不可能なほどレンズの繰り出しが固い。また,シャッターもまともに動かない。もともとジャンク品だし,このカメラには興味がなかったので構わないのだが,シャッター不調の原因が知りたくて分解してみた。亀吉はカメラの専門家でもなければ,機械の専門家でもない。シャッターをチャージしてレリーズレバーを押しながら内部の動きを観察した。何度も繰り返して観察した結果,本来直角に曲がっているはずの金属の板がまっすぐ伸びているのではないかと思われる箇所が見つかった。そこでその部分をラジオペンチでつまんで直角の折り曲げたところシャッターは正常に戻った。写真1をご覧いただきたい。これは修理した後の写真であるが,左側の○で囲んだ部分で金具が垂直に
写真1.シャッター
立っているのがわかるだろうか?これがまっすぐに伸びていたのである。亀吉はこれまで何台かのカメラを修理したことがある。(勿論,修理できずに木っ端微塵にしてしまったカメラもある。)それでときどき思うのは「どうしたらこうなるのだろうか?」ということである。今回もそうである。ペンチを使わなければ曲げられない金具を,外部からどうして曲げることができるのだろうか?普通の撮影操作では想像もつかない。シャッターが良くなったら欲が出てきた。つぎはピント調節である。ピントを合わせるためにはレンズを前進・後退させなければならない。二眼レフではダイヤルを回すことによってファインダー用レンズと撮影用レンズの両方を動かすようにできている。このダイヤルが非常に固いのである。グリースの固着が原因だろうと想像できたから,シャッターをはずした状態のとき,機構部にクレCRC 5-56を吹き付けてみた。すると,間もなく楽に動かせるようになった。ここまで来るとこのカメラに愛着が湧いてきて,カメラの機能を失くしてしまうのが気の毒になってきた。(実は外箱だけ利用しようと目論んでいた。)もう少し丁寧に修理してやろう!カメラの側面板をはずして内部を見た。すると干からびたグリースの塊が歯車の隙間に詰まっていた。これをピンセットの先で丹念に取り除き,CRC 5-56の液を拭き取ったうえで少量の潤滑油を注油した。その結果,ピント調節は非常に滑らかになった。いきなり修理の話に入ってしまった。順序としてはまず外観をお見せしなければならなかった。写真2のとおりである。
写真2.Alfaflexの外観
このカメラには革製のケースも付属していた。かなりくたびれているがまだまだ使える。厚い革とおおらかな作りが安らぎを与えてくれる。写真3をご覧いただきたい。
写真3.革ケース
レンズも綺麗だし,あとはピントガラスを入れ替えれば修理完了ということになる。この時点でこのカメラの素性が知りたくなった。仕様のようなものをまとめてみた。しかし,Alfaflexという名前のカメラはインターネットでもなかなかヒットしなかった。国内(日本語)より外国(英語)のほうが情報が豊富であった。ただし,これは比較の問題であって,情報の絶対量は少ない。その結果を下に示す。例によって,間違いのあることはあらかじめご承知置き願いたい。
(1)名称:Alfaflex
(2)型式:6×6 cm二眼レフカメラ
(3)適合フィルム:120判
(4)フィルム送り:ノブ巻上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数:赤窓式
(6)画面寸法:55×55 mm
(7)レンズ・撮影レンズ:ALFA Opt.Co.S.COSMO 1:3.5 f = 7.5 cm
ファインダーレンズ:同上
(8)ファインダー:ウエストレベル
(9)焦点調節:手動,3~∞フィート
(10)露出調節:手動,絞りf3.5~16
(11)シャッター:TOYO SK.CO.(東洋精機光学?)TSK,B, 1/1~1/200秒
(12)シンクロ接点:あり
(13)電池:不要
(14)質量:915 g(実測=スプール1本を含む)
(15)寸法:約140 H×95 W×100 D mm(実測)
(16)発売年:1952年?
(17)発売価格
(18)製造・販売元 Alfa Optical Co.(アルファ光機?アルファカメラ製作所?)
特徴を述べたいところだが,何もない。ごくごく普通の二眼レフカメラである。さて,ファインダーガラスをどうするか?二眼レフを見たことのある人はご存知だろうが,ファインダーガラスはいわゆる「すりガラス」でできている。だから,ガラス屋さんに行ってすりガラスを指定どおりの寸法に切ってもらえばいいわけである。しかし,こんなことをすると千円程度の費用がかかるかも知れない。そもそもただ同然で手に入れたカメラの修理にそんな大金(?)をかけるわけにはいかない。そこで,ジャンク箱の中から透明アクリル板の残骸を取り出し,必要な寸法に切断した後,片面を紙やすりで磨いてすりガラス状に加工した。筋目がちょっと気になるが,我慢しよう。実際,組み込んでファインダーを覗いてみると何とか被写体を捉えることができた。ファインダー「ガラス」ではなく,ファインダー「アクリル」である。写真4をご覧いただきたい。ところが,被写体にピントを合わせて距離目盛を読むと食い違っていた。どうもファインダ用レンズをねじ込む深さで距離目盛と実際の距離とを校正しているようである。そこで,部屋の隅に目標物を置き,そこから正確に2.7 m離れたところにカメラを置いて目盛が9フィートになるようにレンズのねじ込み深さを調節した。張革が剥がれているし,速写ケースが綻びているが,このままの方が貫禄があろうということで手を加えないでおく。
写真4.よみがえったファインダーアクリル(上部に見える楕円は拡大ルーペ)
さあ,修理は完了した。撮影してみよう。手許には120フィルムの買い置きが5本ある。それから1本使おう。最近120フィルムは1本とかでは売ってもらえない。過日一箱5本入りを買っておいたのである。そういえば,最も普通のフィルムである135判もいつの間にか普通の店では買えなくなってしまった。こんな状況だと,いつまでフィルムカメラを楽しむことができるのか心細くなる。
写真5.遠景: 山の頂上
写真5は亀吉が毎週のように登る山の頂上付近の景色である。この日は晴れていたから,シャッター速度は100分の1秒で絞りは11程度であったと思う。この写真から周辺光量の少ないことがわかる。(ただし,下のほうはその兆候がない。)やはり,絞ったらその分だけ周辺の光量が減るのだろうか?ピントは無限遠に定めていたのだが,どうも全体的にぼんやりしている。つぎの写真は我が家の愛犬5匹のうちの2匹である。動物の写真を取るのはなかなか難しい。じっとしてくれないのである。ピントや露出が手動設定の場合,かなりな困難が伴う。この写真でも,焦点は犬の後の服に合っているような気もする。そこそこの写りだろう。
写真6.近景: 我が家の愛犬
最後の写真(写真7)は亀吉の作業机である。これは夜間電球の照明のみで撮ったもの。(時計は5時を指しているが,これは狂っている。念のため。)さすがに露出条件は亀吉の勘ピュータでも決めるのが難しい。セコニックの古い露出計を使った。絞り全開(f3.5)でシャッター速度は10分の1秒か5分の1秒程度ではなかったろうか?これほどの低速になるとカメラを手で保持する訳にはいかない。三脚に固定して,シャッターはレリーズケーブル(と言うのだろうか?)を使ってぶれないように細心の注意を払った。結果はご覧のとおりであるが,まあまあ撮れているということだろう。この写真1枚で実は2つの疑問がクリアされているのである。
その1. ピントが合っているということ。
本文でも述べたとおり,このカメラのピント合わせ(距離目盛と実際の距離との校正)は自分でした。乱視と老眼の亀吉にとって,これは難しい作業であった。それがうまく行っているようである。
その2. 露出が適切であること。
古いセコニックの露出計を使ったと書いたが,その露出計は手に入れたとき狂っていた。何を根
写真7.夜景: 亀吉の作業机
拠に狂っていると言えるのか?亀吉はつぎの2つの事実から狂っていると判断した: ①子供のときから愛用してきた露出計による測定値と食い違っている。(では,この露出計を使えばいいではないかという疑問が生ずるであろう。しかし,これは長年の使用に伴って傷みが激しく,使うのになかなか骨が折れるのである。)②ASA100の場合,晴れた日の屋外では125分の1秒で絞り11となるはずであるが,そうならなかった。
その露出計の内部を調べたが,可変抵抗のような調整部分はなかった。セレン光電池の劣化だろうと一時は諦めかけたが,採光部分に減光のためと思われる部品があったのでそれを取り除いたら割りに正しく測定できるようになった。今回の写真7でそれが確認できたということである。
試写結果は以上のとおりである。総じて,ソフトフォーカス調の,フィルム写真ならではの暖かい写真と言えるのではなかろうか?
最後に一言。このカメラの外箱(革ケースではない)を使って何を企んでいたか?それは箱の中にコンパクトデジタルカメラを組み込んで,「デジタル二眼レフカメラ」を作ろうと思ったのである。勿論,見かけ上の二眼レフである。いずれ修理不能の二眼レフカメラが手に入るであろう。そのときこそこの計画を実現したいと考えている。
■ 2012年2月17日 木下亀吉
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