わたしのカメラ三昧 第7回 「Baby Suzuka IIと127フィルムの作製」

Baby Suzuka II

 古いカメラの置いてある店を発見すると毎週のように行きたくなる。コダックの蛇腹カメラを手に入れたつぎの週末再び同じ店を訪れた。すでに目をつけていたカメラがあった。小さな蛇腹カメラで,コダックのレチナ(Retina)だろうと思っていた。しかし,実際に手にしたとき違うことがわかった。SUZUKAと刻印されている。鈴鹿だろうか?聞いたことのない名前だ。とにかくその外観を写真1でご覧いただきたい。
写真1.蛇腹の破れたベビースズカII

 写真でおわかりのように,蛇腹は大きく破れている。しかし,破れているのはそこだけのようで,そこを塞ぎさえすれば修復できそうである。裏蓋を開けてみると,135判ではなく,127判であることがわかった。残っていたスプールでその確証が得られた。127フィルムはすでに手に入りにくくなっている。120判を裁断して作る方法が知られているのでこの際挑戦してみよう。

以上を含めての初期診断の結果,問題点(改善点)はつぎのとおりと認められた。
(1)蛇腹が破れている
(2)レンズの回転が著しく固い
(3)レンズがやや汚れている
(4)シャッター速度が変化しない
(5)127フィルムが手に入らない?

 さっそく修理開始だが,その前にこのカメラの仕様のようなものをまとめておこう。亀吉が実物を手にとって鑑定したものだが,見ただけではわからない項目はインターネットなどを参考にした。しかし,このカメラに関しては極端に情報が少なかった。ただ,正式な名前はBaby Suzuka IIであることがわかった。シンクロ接点の装備が決め手になった。

(1)名称: Baby Suzuka II
(2)型式: 4×3レンズシャッター式スプリングカメラ
(3)適合フィルム::127判
(4)フィルム送り: ノブ巻上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数: 赤窓式
(6)画面寸法: 4×3 cm
(7)レンズ: Teriotar Anastigmat, 5 cm F3.5(No.B2741)
(8)ファインダー: 逆ガリレオ(?)、折り畳み式
(9)焦点調節: 目測前玉回転式,最短撮影距離3 ft(≒ 1 m)
(10)露出調節: 手動,f3.5~16
(11)シャッター: Suzukaオリジナル?・1/25~1/150秒およびB
シャッターチャージ: 手動,多重露光防止機構なし
(12)シンクロ接点: 同期接点出力あり
(13)電池: 不要
(14)質量: 365 g(実測)
(15)寸法: 約78H×110W×34D mm(折り畳んだ状態での最大外形寸法実測)
(16)発売年: 1951年
(17)発売価格: 本体4,300円,ケース 700円
(18)製造・販売元: 三光(株)・三光商会(株)

特徴を一口で言うのは難しい。127判の小型スプリングカメラとでも表現するしかない。とにかく35 mmカメラと思うほど小さく仕上がっている。Suzukaの語源はついにわからなかった。

 では修理にかかろう。

 まずは問題(1)の蛇腹の修理。これだけ破れていると柔らかい和紙を貼る程度では修復できないと考え,製本テープを適当な大きさに切って貼り付けた。写真2をご覧いただきたい。しかし,蛇腹の破れはここだけではなく,方々にピンホールが認められた。これらについては黒く染めた和紙を貼って塞いだ。

写真2.蛇腹が修復されたベビースズカII

つぎに問題(2)。このカメラは前玉を回転させてピントを調整するのであるが,それが固くて非常に回しづらい。金属のワッカの周辺で指を切りそうで恐い。それに気をつけながら力を込めて回すと,周辺の金具で爪にひっかっき傷を作る始末。グリースが固くなっているのであろう。

固くなったグリースを除くにはレンズをはずさなければならない。回り止めのピン(写真2参照)をはずしてレンズを回して本体から分離した。(このとき,最短距離設定から1回転弱で外れたのを記録しておいた。これは重要なことで,手入れ後にねじ込むとき,この位置を誤ると回転角度と距離とが合わなくなる。)ねじ部分をベンジンで洗浄して新しいグリースを少量塗布した。滑らかに回転するようになった。固くて指を切りそうであったのが嘘のようである。

 ところで,亀吉はDIY店で売られている普通のグリースを使ったが,本来は光学機器用のグリースを使わなければならないそうである。正確な理由は知らないが,普通のグリースだとレンズなどに有害なガスが出るのではなかろうか?しかし,亀吉は素人だから気にしない。

 問題(3)は上記の作業に並行して実施した。レンズをはずしたとき,方向を明らかにするため外側にマジックインキで印を付けておいた。前後を間違えるととんでもないことになる。(亀吉は以前ペトリのカメラの修理でレンズを前後逆にしたことがある。)汚れたレンズは無水アルコールで丁寧に拭った。綺麗にはなったが,完璧とまではいかなかった。

 さて,問題(4)であるが,これは難しい。第一この種のシャッターは分解したことがない。分解の仕方がわからないし,蛇腹との絡みもあって修復は困難とみた。亀吉の勘ピュータによればシャッター速度は100分の1秒程度のようだ。絞りが3.5から16まであるので曇り(f8),晴れ(f11),快晴(f16)には対応できる。残念であるが,シャッター速度はこのまま「単速」とした。

 最後に問題(5)の127フィルムの作製。長年の懸案事項であったが,ついに着手することにした。手順そのものはいたって簡単: ①127判用スプールと裏紙を用意しておく,②120フィルムを127フィルムの幅に切り取る,③裁断したフィルムをあらかじめ用意しておいた裏紙と共に127用スプールに巻き取る。ただし,②と③は暗室(暗箱または暗袋)の中での作業となる。

 まず,120フィルムから127フィルムを切り取る器具が必要になる。亀吉は120判用蛇腹カメラを改造して作った。写真3をご覧いただきたい。裏蓋の赤窓(赤くはないが)の下の縁に取り付けられた三角形の刃物がわかるだろうか?刃物はカッターナイフを流用した。

写真3.フィルム裁断器

 使い方は簡単で,まず120フィルムを通常どおり装填し,蓋を閉めてフィルムを巻き取る。ただこれだけで127判の幅に切断される。カメラのフィルム室の中で行われるので完全に「暗室」が保証される。

写真3で,フィルム室にある裏紙が刃物によって裁断されているのがわかるであろう。

 ところで,この裁断器に充てるカメラをどれにするかで非常に迷ったことを申し上げておきたい。亀吉は120フィルムを使うカメラを数台持っているが,それぞれに思い出がある。最も愛着の少ないカメラは裁断器への加工に適さなかった。悩んだ末選んだのがProud Chrome Six(写真4)である。墨田光機とかいうメーカの製造品であったと記憶している。

写真4.裁断機になったProud Chrome Six

 このカメラは香川県の塩江(しおのえ)というところの露店で買った。塩江は温泉で有名である。クラシックカメラに興味を持ち始めた頃のことであった。従って,中古カメラの相場というものも知らず,たしか13,000円払った。今から思えば随分高い買い物であった。それでも,そのときは18,000円程度だったのを値切ったのだから気分は爽快であった。

 しかも,このカメラ,蛇腹に小さな孔があった。紙で塞いで試写したところ光線漏れがあった。どこかにピンホールがあるはずだがどうしてもその場所がわからなかった。それでも数週間かけてしつこく探し続けたところ判明し,紙で塞いで正常になった。

 以上のような経緯のあるカメラで愛着も強いものがある。カメラとしての機能を奪ってしまうのは非常に可哀そうであるが,裁断器に生まれ変わって活躍してもらうのもいいだろうと決心した。もっとも,加工したのは裏蓋だけなので写真4のように飾って眺める分には支障がない。

 さて,あらかじめ用意しておいた裏紙とともに裁断したフィルムを暗箱の中で127判用スプールに巻き取った。巻き終わりはマスキング用紙テープでフィルムと裏紙とを固定した。

 なぜ,裏紙を用意しなければならないのか?切り取った裏紙をそのまま使えばいいではないかとの疑問を抱く方もおられよう。その理由は120フィルムの裏紙に印刷された数字が127フィルムを使うカメラの赤窓に適合しないことにある。

 120フィルムでの撮影画面寸法は,6×9 cm,6×8 cm,6×7 cm,6×6 cmおよび6×4.5 cmである。したがって,裏紙にはこれらの画面寸法に対応した数字が印刷されている。(120フィルムの裏紙に上記5通りのすべての場合の数字が印刷されているかどうか確認したことはない。)ただし,写真5を見ていただくと3通りの場合の数字が印刷されていることがわかるであろう。また,それぞれの数字を確認するには赤窓の位置が違うこともわかるであろう。

一方,127フィルムでの撮影画面寸法は,4×6.5 cm,4×4 cmおよび4×3 cmの3種類である。この数列から120フィルムの画面寸法の6×7 cmと6×4.5 cmに対応する数字が使えそうである。しかし,赤窓の位置が一致しなければならない。これが難しい。結局のところ,赤窓の位置に合わせて裏紙に数字を記入するのが一番である。写真5のとおり。

写真5.127フィルムの装填

 実際,裏蓋を閉じて赤窓から見たところが写真6である。手書きの2という数字が読み取れるであろうか?

写真6.赤窓から裏紙に書かれた数字を見る

なお,127フィルムは現在では入手不可?
したがって,DPEに対応するラボも多くはないのではなかろうか?しかし,もちろんトイラボさんは対応してくれる。

では,試写と行こう。
写真7をご覧頂きたい。見事に周辺の光量が落ちている。これほどの光量落ちを亀吉は経験したことがない。しかも右側の電柱が傾いて見える。歪も大きいようだ。

写真7.遠景の作例

 しかし,つぎの写真では決定的な問題が表われた。蛇腹が破れて光が漏れた。蛇腹を開閉するうちに破れたのであろう。せっかくの写真が台無しだ。亀吉がいつも言っている「カメラは美しく,かつ完璧でなければならない」というのはこのことである。記念写真だったら取り返しがつかない。

写真8.近景の作例

 どうも蛇腹の破れを補修するために貼った和紙と,元来の蛇腹の紙との張力耐量に大きな差があって,その境界で破れるようである。貼っても貼っても破れるという「いたちごっこ」か「もぐら叩き」である。これを解決するには移植手術と同様,蛇腹をそっくり入れ替えるしかないのかもしれない。

ところで,写真7を再度ご覧頂きたい。左側の電柱の頂上の左側にごみがあるのが分かるだろうか?フィルム加工の過程で混入したのであろう。ごみ対策が新たな問題として浮上してきた。

■ 2012年1月31日 木下亀吉

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