わたしのカメラ三昧 第33回 「コダック35」
1.はじめに
最近はついついインターネットオークションに頼ってしまう。
今回もインターネットオークションで手に入れた。4,600円であった。わたしにとってはやや高い買い物であったが,人気の商品なので致し方ないところである。そもそもこのカメラを今頃手に入れたというのは高くて手が出せなかった,あるいはわたしの希望上限価格では落札できなかったということである。もちろん,近隣のリサイクルショップで見つけるのはほとんど不可能である。
まず外観をご覧いただきたい。写真1である。古典的なカメラらしいカメラとは思わないだろうか?
写真1.斜め前方から見るKodak 35
レンズ(鏡胴)が不釣り合いにでかいと思うのではなかろうか?ただし,でかいのは鏡胴であって,レンズは小さい(f3.5)。一説によると,中判カメラのレンズを流用したとのことである。そう思って,元の中判カメラを探したのであるが,該当するカメラは見つからなかった。
2.仕様と特徴
取り敢えずこのカメラの仕様をまとめてみよう。例によって間違いがあるかもしれないことをご承知おき願いたい。
(1)名称:Kodak 35
(2)型式:レンズシャッター式カメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:ノブ巻き上げ,ノブ巻き戻し
(5)フィルム計数:手動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:Kodak Anastigmat Special f 3.5,50 mm, 3群4枚
(8)ファインダー:折り畳み式逆ガリレオ
(9)距離調節:目測手動,前玉回転式,最短撮影距離3.5 ft?(最小目盛りは4 ft)
(10)露出調節:手動(絞りの目盛り3.5,4,5.6,8,11,16)
(11)シャッター:Kodak No.1 Kodamatic,セルフタイマー付き
(シャッタースピード T, B,10, 25, 50, 100, 200)
(12)シンクロ接点:なし
(13)電池:不要
(14)質量:約575 g(実測)
(15)概略寸法:約70 H×127 W×70 D〔mm〕(突起物を含まない実測値)
(16)発売(製造)年:1938年
(17)発売価格:$40?
(18)製造・販売元:Eastman Kodak社,米国
仕様は上記のとおりであるが,仕様には表れない部分も含めて特徴を見てみよう。
異様に大きなレンズについては最初に述べたとおりである。ピント調整は前玉回転式。フィート表示に気を付けなければならない。
ファインダーは折り畳み式。これが,古めかしくてなかなかいい。この個体は締まりが弱いので持ち運んでいると半開き状態になる。インターネットの記事によると,開放型のファインダーは曇ることがないので登山などに携行するとき都合がよいとのことである。仮に曇った場合は拭えばいい。わたしもよく山にカメラを携行するのであるが,いざ撮ろうとしたらファインダーが雲って使い物にならなかったことがある。もっとも,このような場合は撮影レンズも曇っている可能性がある。ファインダーだけの問題ではないかもしれない。
ケースはベークライト製であり,貼り革は使われていない。コスト削減策であろうが,梨地処理(?)された表面はまったく違和感がない。
写真2は底板と一体になった裏蓋をはずしたところである。圧板がピカピカにめっきされているのがお分かりいただけるであろうか?
写真2.ピカピカの圧板
一般に圧板に限らずカメラ内部はすべて黒く塗装されているのが普通である。ピカピカで問題ないのだろうかと心配だ。
3.初期状態と問題点
速写ケースが破損していたが,カメラ本体は綺麗だし,機能上の問題は見つからなかった。レンズが若干曇っていたのが気になったが,<この程度なら良かろう>ということで特に手を加えなかった。
4.使い方
このカメラはフィルムの装填が難しい。
写真3をご覧いただきたい。左側のパトローネから引き出されたフィルムは一旦何やら金属製の押さえの下を通って巻き取り軸に巻かれる。この金属製の押さえの下を通すのがややこしいのである。もちろん,フィルムの両側にあいている穴をスプロケットにかみ合わせなければならない。フィルムを装填しないでシャッターを切る場合,このスプロケットを手で回してやらなければならない。これで結構指先が痛くなる。
写真3.フィルムの装填
裏蓋を閉じてさらにフィルムを2度ほど巻き上げる。もちろん,この間シャッターを切らなければならない。そして,晴れてフィルムカウンターを0にセットする。これは指先で行うのだが,それほど簡単ではない。写真4で,フィルムカウンターは巻き上げノブのすぐ横にあるのがお分かり頂けるであろう。
フィルムを巻き上げると同時にシャッターがチャージされ,鏡胴の上部にある長方形の窓が赤くなる。シャッターを切るとこの窓の赤が消える。つぎにフィルムを巻き上げる場合は巻き止め解除ボタンを押さなければならない。これによって二重露光を防止しているのである。巻き止め解除ボタンは巻き上げノブの横にある。最初これをシャッターボタンと思った。
写真4.軍艦部
フィルムを巻き戻す場合,一般的なカメラではその底に突起があって,これを一旦押して,あるいは押したままの状態で巻き戻しクランクあるいはノブを回せばよい。しかし,このカメラの場合は巻き上げノブを上に引き上げなければならない。当初これがわからないでいろいろ悩んだ。
ところで,フィルムを装填/取り出しのとき底板と一体となった裏蓋を外さなければならないのだが,これがぴったりはまっていて容易に外れない。この個体だけの問題かも知れない。わたしは多くの場合マイナスドライバでこじ開けている。傷がつかないかひやひやしながら。
5.試写結果(その1)
今回は大胆にもこのカメラを東京と尾瀬に持って行って試写としゃれ込んだ。もちろん,結果が駄目になる可能性があることは覚悟していた。
しかし,正直言って,多分大丈夫だろうと思っていた。――これが甘かった。
撮れた写真はすべてピンボケ。いい写真は1枚もなかった。これほどひどい結果になるのはめったにない。写真5をご覧いただきたい。この程度に縮小すればそこそこに写っているようであるが,全体にボケている。
写真5.第1次試写結果(尾瀬ヶ原,背景は燧ケ岳)
6.手入れ
すべての写真がボケた原因を考えた。すべての写真がボケたということは,レンズの焦点系であろう。ほこりの付着などではボケはあってもピントは決まるはずである。(極端な汚れや傷であれば話は別だが,このカメラの場合一応まともな外観を呈している。)
極端な事情を考えなければ,考えられる原因はつぎの2つ:
(1)レンズを前後逆向きに取り付けた
(2)ヘリコイドのねじ込み過多または不足
上記(1)は実際わたしも経験したことがある。かつてペトリのカメラのレンズを洗浄して元に戻すとき前後逆にしたのである。このときは確かにすべての写真がピンボケであった。
そこで,このカメラのレンズの向きを調べたのだが,どう見てもまともである。
では(2)はどうか?
わたしも歳のせいか,レンズの焦点などを精査するのが苦しくなっている。それでもカメラの裏蓋を外してフィルムの置かれる位置にトレーシングペーパを貼って数メートル先の被写体を映してみた。その結果,どうもヘリコイドが1回転余計にねじ込まれているような気がした。つまり,ピントは常に無限遠よりもっと遠くに合っているのである。(この表現は変だが,言いたいことはわかるであろう。)言い換えると,最短距離に合わせるとそれが無限遠に合っているのである。
以上のことから,ヘリコイドを1回転引き出した状態にした。
7.試写結果(その2)
さっそく試写してみた。今回は天候に恵まれた。
まず写真6をご覧いただきたい。ピントはばっちり決まっている。ただし,中央付近が白けている。これは何だろう?
写真6.遠景
つぎに近景。写真7である。まあまあの出来であるが,やはり中央,と言うより白い部分とその周辺が白けている。
写真7.近景(杉田久女の句碑)
最後に最短距離景。写真8をご覧いただきたい。リンゴを撮ったものだが,露出設定が良くないのかリンゴの赤みが出ていない。と言うより,果実に限らず葉っぱを含めて陽光を浴びているところが白けて見える。
写真8.最短距離景
以上のとおり,ピントは合うようになったのであるが,<白け>が気になる。この白けは第1回目の試写のときもあったのだろうが,何しろピンボケなので判然としなかった。
原因は何だろう?
一つはレンズ内のほこり,今一つはピカピカの圧板が気になる。
そこでレンズを外してほこりを拭った。すべてのレンズの表面のほこりを除くことはできなかったがかなり改善されたと思う。
また,ピカピカの圧板には黒の製本テープを貼った。このテープも表面に光沢があるので光の当たり具合によっては反射する。塗装しようかとも考えたが,作業に自信が持てなかったのでやめた。
以上2つの対策を実施して再度試写してみた。ここにはその作例を示すことはしないが,何の効果もなかったのである。
8.終わりに
外観・機構ともに気に入ったカメラであるが,白けた写真はどうしようもない。くどいようだが,原因は何だろうか?
このカメラのレンズはコーティングされていなようである。したがって,詳しくは知らないがフレアとか呼ばれる現象が起きているのだろうか?そのような観点から参考文献(1)を読み,さらに作例を眺めたが白けに関連するようなものは見当たらない。しかも,この個体のレンズは優秀だと述べられており,普通には白けなど発生し得ないのだろう。
過去にも他のカメラで同様の白けを経験したことがあり,何か共通の原因がありそうである。
変な話だが,単純に露出過多かも知れない。今後機会があったら1段または2段ほど絞って撮ってみよう。
参考文献
伊藤二良:「写して楽しむクラシックカメラPart2」,写真工業出版社.2003
■2013年11月19日 木下亀吉
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