わたしのカメラ三昧 第29回 ソビエト製カメラ「FED-4」

1.はじめに
 毎週とはいかないが,月に3度ほどは通っているリサイクルショップがある。その日も植物公園からの帰りに立ち寄ったところ,思いがけないカメラを発見した。旧ソビエト製のFED-4である。FEDという名を知ってはいたが,実物を見るのは初めてであった。ずっしりと重い。
 今の若い人達にとってはソビエトなど死語であろう。昔,ソビエト社会主義共和国連邦なる国があった。英語ではThe Union of Soviet Socialist Republics,略してUSSRと言っていた。だから,このカメラの背面にはMADE IN USSRと刻印されている。

写真1.FED-4の前面

 店頭ではシャッターが切れること,シャッターの布幕が破れていないこと,それに巻き上げのためのボビンがそろっていることだけを確認した。帰宅後調べたところ,すべてほとんど完璧(のよう)であった。このカメラにはセレンによる単独露出計が備わっているが,幸運にもそれも生きていた。
 FED-4は大きく分けてa型とb型があったらしい。その違いは,前者がノブ巻き上げであるのに対し,後者はレバー巻き上げであるとのこと。このカメラはレバー巻き上げ方式なので,b型ということになる。
 カメラ全体の印象は,とにかく無骨であるということである。大きくて重い。重さは800グラムもある。さすがは社会主義国の製品だ。それにしても,レンズの上のΦ3D-4という文字が稚拙でおもちゃのようである。正直言って,最初見たときおもちゃではないかと疑ったほどである。

 

2.仕様など
 ソ連製のものであるためか,このカメラに関する情報は多くない。小生の蔵書の中にも見当たらない。現物を鑑定し,インターネットなどによる情報を総動員して得たところが以下の仕様のようなものである。間違いがあるかも知れないことをあらかじめご承知おき願う。
(1)名称:FED-4
(2)型式:35mmフォーカルプレーンシャッターカメラ
(3)適合フィルム:135判
(4)フィルム送り:レバー巻き上げ・ダイアル巻き戻し
(5)フィルム計数:手動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:Lマウント,
(8)ファインダー:二重像合致式レンジファインダー
(9)距離調節:手動,最短撮影距離1 m
(10)露出調節:手動f2.8~16,単独露出計付き
(11)シャッター:横走り布幕式フォーカルプレーンシャッター,B,1~1/500秒
(12)シンクロ接点:X接点
(13)電池:不要
(14)質量:約800 g(実測)
(15)概略寸法:95 H×140 W×70D〔mm〕(突起物を除く実測値)
(16)発売(製造)年:?年
(17)発売価格:?円
(18)製造・販売元:FED(ソビエト連邦)

 インターネットを駆使してFEDの歴史を調べてみた。どうしても全体像がつかめなかったのであるが,このカメラの前後を要約すると下の表のとおりである。

表1.FEDの系譜

製造年 型名 備考(亀吉が独断で表現したもの)
1930年代~ FED1 バルナックライカのコピー(?)。
1960年前後 FED2 独自に進化した一眼レンジファインダー機。
1961年~ FED3 低速シャッター,セルフタイマ,X接点を追加。
1964年~ FED4 セレン露出計内蔵。
1970~1990 FED5 5、5B、5Cがあり5B以外はセレン露出計内蔵。

FEDは上の表以後も続き,FED10とか11とかまであるらしい。

3.初期状態と問題点
 冒頭でも述べたとおり,このカメラはほぼ完璧な状態で手に入れた。しかし,よく検分するとレンズに拭き傷がある。それを含めて,このカメラの問題点をつぎのとおり認定した。
(1)レンズの拭き傷が著しい
(2)ファインダーがやや曇っている

 

4.修理
 まず,レンズ表面の拭き傷。
こればかりはどうしようもない。傷が浅ければ金属磨きでも何でも使って表面を研磨できる(実際は何もしない方がいい)が,これほど深いとどうしようもない。レンズ自体を交換するしかない。残念だが,このまま受け容れるしかない。

つぎに,ファインダーの曇りの件。

 ファインダーを綺麗にするにはトップカバーを外さなければならない。しかし,このカメラの場合,この「トップカバーをはずす」というのが至難の業に思える。いろんな機能が軍艦部に集合し過ぎているのである。分解はできても組み立てに自信がないというのが正直なところである。よって,ファインダーの曇りは我慢することにして,今回は手を入れないことにする。もちろん,将来分解・組立に自信が湧いてきたときに取り組む。
 要するにほこりを払い,汚れを取り除く以外何もしなかったということである。

 

5.使い方
 このカメラはちょっと特殊な機構があって,古いカメラに不慣れな人は戸惑うこともあろう。その使い方をみてみよう。
 まず,フィルムを装填しなければならない。そのためには底板と一体になった裏蓋をはずさなければならない。写真2の底の両側にある半円弧状のつまみを起こし,左側は時計方向に,右側は反時計方向にそれぞれ180度回転させると底板と裏蓋とが一体となって外れる。
 フィルムの装填が終わったらフィルム計数を0に合わせてやらなければならない。このカメラは自動復元式ではないのである。フィルム計数の数字盤はフィルム巻き上げレバーの中心軸の周りにある。写真3でご確認願いたい。写真2.底面

 フィルムの装填と前後して感度を設定する。それは軍艦部左側の円盤で行なう。写真3をご覧いただきたい。
 このカメラではロシア語でΓOCTと表示されている数字が感度であろう。ローマ字(英文字)に変換すればGOSTとなるのであろうが,意味がわからない。残念ながらロシア語の辞典は手元にない。数字は16/32/65/130/250が彫り込まれている。
 ASAであれば,100とか200とかの数字が一般的であろう。DINの方はよく知らないが,両者の関係は
DIN = 1+10 log ASA
だそうだ。デシベルと同じ式ではないか。ただし,なぜ1を加えるのかわからない。
この式をASAについて解けば


写真3.軍艦部

 となる。もし,DIN表記だとすれば,最高の数値250をASAに換算すると,1024.9
となり,とんでもない数値になる。つまり,DINではありえない。
では,やはりASAか?でもどうも腑に落ちない。
 そこで思いついたのがインターネットでの調査。GOSTで検索したらすぐ出てきた。何のことはない。ソビエト連邦の国家規格の略称だった。(今でもロシアを中心とした独立国家共同体の規格の略称として用いられているらしい。)
 さらにGOSTのフィルム感度を調べると,ASA,DINとの対応もわかった。下に抜粋して示す。

ASA DIN GOST
20 14° 16
100 21° 90
200 24° 180
320 26° 250

 これによると,ASA 20から320までしか対応していないことになる。ただし,インターネットで得た情報なので完全に正しいという保証はない。
 結局のところ,内蔵露出計を使うには,事前にASA/DIN感度をGOST感度に換算して設定しなければならないということである。実際問題として,通常使えるフィルムはASA 100と200だけということになろう。90と180という数値を暗記していてもいいし,
GOST = ASA×0.9として求めてもよかろう。(この式は一般的に成り立つものではない。)
 余談であるが,最近インターネットのすごさを実感することが多い。今回のように調べものをするとき,インターネットは実に強力な道具なのである。パソコンとインターネットのない時代では,この調べものが大変な作業だった。どうしていたか?まず自分の身の周りにある,専門書,辞典などの図書を中心に調べる。もちろん,周囲の人に聞きまくる。つぎに,学校や職場の図書館(室)に行くということになる。その図書館も身近な図書館で駄目なときは大都市まで出向かなければならない。最後は新聞社や大学などに問い合わせるということになるが,ここまでに達する前にあきらめるのが普通だろう。
 20世紀の生活を大きく変えた事件としてインスタントラーメンが取り上げられることがあるが,小生など技術者・科学者にとっては,このインターネットともう一つ電卓を忘れてはならないと思う。電卓も画期的であった。まさに計算の苦痛から解放されたのである。今の若い人達には想像もできないだろうが,電卓が世に出るまでの計算手段としては,そろばん,計算尺,それに筆算しかなかった。(手回し式計算機などもあったが,大型計算機と同様大衆向きではなかった。また,計算の範囲も限られていた。)学生実験の最小二乗法の計算で一晩徹夜した経験がある。理論にではなく,単なる計算に時間を費やしたのである。さらに,加減乗除だけでなく各種関数も一発で・・・。いや,余談はこの程度にしておこう。余談か本論かわからなくなりそうである。
 さて,このカメラは完全手動式なので距離,絞り,シャッタースピードは自分で設定しなければならない。距離は二重像合致式ファインダーで合わせればよい。絞りは単独露出計が備わっているのでそれから絞り値を読み取って絞りリングで設定すればよい。問題はシャッタースピードの設定。問題というのはちょっと大袈裟であるが,これはフィルムを巻き上げてからでないと設定できないのである。まあ,そんなものだと思えばそれだけのことである。
 撮り終わったらフィルムを巻き戻さなければならない。これがちょっと曲者なのである。多くのカメラでは底に突起があって,それを押すとフィルム巻き上げ軸がフリーになり,巻き戻し軸を回すとフィルムをパトローネの中に巻き戻すことができる。この底の突起の代わりがシャッターボタンの周囲にあるギザギザの入った円筒形のものである。これを押しながら時計方向に(Bの方に)回すとそのまま固定される。写真3でB←という表示がお分かりいただけるであろうか?この状態で露出計の下のカメラ側面にあるダイアルを矢印の方に回してフィルムを巻き上げるのである。写真1で向かって右側の側面に円弧上のダイアルが確認できるであろう。
 

6.試写結果
 コダックのカラーネガフィルムを装填した。感度は100と思っていたが,撮影後取り出して見たら200であった。したがって,露出過多であるのはやむを得ない。

写真4.近距離景

 まず,近距離景をご覧いただきたい。写真4である。距離は1メートルかせいぜい1.5メートルほどであったと思う。露出はまあまあだろう。綺麗に写っている。
 つぎに中距離景。写真5をご覧いただきたい。距離は3~5メートルほどであったと思う。露出過多のようだが,ちょっとかすみがかかったような写りである。レンズ前面の拭き傷が原因だろうか?
 ところで,このうどん屋,行列ができるほどの人気である。当地のうどんは「肉うどん」が主流だそうだが,ここのうどんも「肉うどん」に特化したうどんを提供している。
 実は小生は四国香川県の高松市に5年間住んでいた。その間讃岐うどんを食べ歩き,自慢ではないが讃岐うどんに関しては現地の普通の人よりはるかに詳しくなったと自負している。現地のうどんツウの人達と対等にうどん談義ができたのである。――その讃岐うどんの評価基準からすると,ここのうどんははっきり言ってまずい。麺がよくないし,出汁も関東風でいただけない。

写真5.中距離景

 しかし,何度か食べているうちに讃岐うどんとは違ったおいしさを感ずるようになった。麺と出汁と肉が絶妙に調和して何とも言えないおいしさを醸し出しているようである。今何気なく「絶妙」という言葉を使ったが,まさにこのようなことを表現するためにある言葉ではなかろうか?
 さらに,肉の量が2倍(?)の肉肉うどんが有名で人気だ。これには小・中・大とあり,「肉肉うどんの大」ともなれば小生はとても食べきれない。そもそも小でも量が多いのである。それなのに,肉肉うどんの大のほか,おにぎりや稲荷寿司をほおばる人がいるのには驚く。
 また,ここの副菜が実にいい。一年を通じて干し大根を調理したものが提供されているのだが,これが実においしい。はっきり言って,この干し大根を食べたいがためにここのうどんを食べに来ているのではないかと疑いたくなるほどである。もちろん,干し大根のほかに,菜の花とか高菜とかの季節の野菜が提供される。時期になると生の唐辛子も出されるが,これも鋏で刻んでうどんに加えるといっそうおいしくいただける。
 また,脱線してしまった。
 最後に遠景をお見せしよう。写真6である。このサイズでははっきりとは認められないかも知れないが,やはり全体に白けている。露出過多のためだろうか?それとも,レンズの拭き傷のせいであろうか? それでも手すりや川面の様子はよく出ていると思う。

写真6.遠距離景

 

7.おわりに
 はっきり言って,大きくて重い!鈍重である。外観は無骨である。
 また,これほど重いのにストラップを掛ける環がない。速写ケースとともに使うのを前提としているのであろう。店頭でこのカメラを見つけたとき速写ケースも探したのであるが見つからなかった。もちろん,レンズキャップもなかった。
 操作に関しては,ピント調節リングの動き(回転)が滑らかではないのが気になった。ちょっと引っかかるところがあるのだ。この個体だけの問題かもしれない。
 写りは試写結果でご覧のとおりである。フィルム感度を勘違いしたのは全く小生の手落ちである。フィルム感度のためか,レンズ(の拭き傷)のせいかはっきりさせるためには再度新しいフィルムを装填して試写し直せばよいのであるが,その気にならない。
 異文化のカメラに初めて触れて少々戸惑ったというのが正直な感想である。■

■2013年6月28日   木下亀吉

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