わたしのカメラ三昧 第25回 「Semi Prince」


1.はじめに
プリンスという名が気になって手に入れてしまった。「セミ」が付くからセミ判すなわち6×4.5cm判の中判カメラであろうことは直ちにわかる。写真1のとおりの蛇腹カメラ。ドイツのセミ・イコンタのコピー品だということである。

写真1.斜め前方からの外観

このカメラには速写ケースが付いていた。写真2である。昔ながらの分厚い革製であり,かなりくたびれてはいるがまだまだ使えそうだ。

写真2.速写ケース

2.仕様など
ここでこのカメラの仕様のようなものを整理しておこう。例によって間違いがあるかもしれないことをご承知おき願いたい。(自信のないところには疑問符をつけている。)

(1)名称:Semi Prince(セミプリンス)
(2)型式:セミ判レンズシャッター式スプリングカメラ
(3)適合フィルム:120判
(4)フィルム送り:ノブ(と言うのだろうか?)巻き上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数:赤窓式
(6)画面寸法:60×45 mm
(7)レンズ:Schneider Jsco 1:4.5 F=7.5cm
(8)ファインダー:折り畳み式
(9)距離調節:手動,最短撮影距離3.5ft
(10)露出調節:手動 f4.5~22
(11)シャッター:PRONTO T,B,100,50,25
(12)シンクロ接点:なし
(13)電池:不要
(14)質量:約440g(実測値)
(15)概略寸法:約90H×120W×40D〔mm〕(蛇腹格納時の実測値)
(16)発売(製造)年:1937(昭和12)年?
(17)発売価格:75円?
(18)製造・販売元:藤本製作所?/藤本写真工業?/プリンスカメラウアークス?・深田商会

セミプリンスにはたくさんの型があるようである。参考文献(1)には1935(昭和10)年の広告が収録されている。それによると,F4.5のレンズ付きで89円,65円,60円,55円のものがあり,さらにF6.3のレンズの付いたものが52円で発売されたようである。1936(昭和11)年と1937(昭和12)年の広告には仕様ごとに価格が示されている。前者には5機種,後者には6機種が紹介されている。そして,1937年の他の広告にはさらに1機種が追加されている。
 セミプリンスは,その後改良型(1937年),II型(1937年),III型(1939年)へと発展したようである。
 では,今回のこのカメラはどれだろうか?II型とIII型は「ボデーシャッター」とあるから,これには該当しない。すると,初期型か改良型ということになるが,決め手がない。このカメラのシャッターにはPRONTOと記されているが,広告にはこの型のシャッターが載っていない。(広告ではプロンター=PRONTORとなっている。)
 一方,参考文献(2)によると,レンズとシャッターはドイツ品であるが,国産品のものもあったということである。このことから推すと,どうもこのカメラのシャッターは国産品のようである。名称をプロントとしてそのことを曖昧にしたのではなかろうか?
 結局このカメラを同定することはできなかった。

3.初期状態の確認と問題点
 最初に手にして鑑定したところ,外観は比較的綺麗であり,蛇腹に破れはなかった。シャッターも切れている(ようだ)。絞りの動き,フィルムの巻き上げにも問題はなさそう。
しかし,つぎの事柄が問題点として確認された。

(1)蛇腹の伸長動作が粘っている。
(2)ファインダーが開かない
(3)レンズが曇っている。
(4)ファインダーが曇っている。
(5)セルフタイマーが粘っている。
(6)モルトが劣化している。
(7)革ケースが一部ほころびている。

4.対策
まず,問題(1)の蛇腹の開閉。
 そもそもこのカメラは「スプリングカメラ」であるから,ボタンを押したらポンと前に飛び出さなければならない。それが手で引っ張ってやらないと出てこない状態になっている。
 仔細に観察しても機構的な問題は見つからなかった。こんなときは注油に限る。ほこりを吹き飛ばした後,少量注油して開閉を繰り返しているうちに,滑らかとは言えないが,通常の使用には問題ない程度に改善された。

つぎに問題(2)のファインダー。
 これは蛇腹の伸長と同時に展開する機構になっている。機構はケースの中に隠れていて詳細はわからないが,上記の注油と同時にこれも解決した。

さて,問題のレンズ。
写真3でお分かりのとおりカビのようなものが認められる。また,全体に曇っている。このカビや汚れは内部にある。つまり,これらを取り除くにはレンズを分解しなければならない。

写真3.手入れ前のレンズ

 分解に自信がなかったのでフィルム側のレンズをはずし,絞りを全開にしてシャッターを開いたままでレンズの内側をアルコールで拭った。しかし,綺麗にならない。こんなときはハンドソープに限る。綿棒の先にハンドソープを少量つけて拭ったところほぼ綺麗に取れた。
 つぎにファインダーの汚れであるが,これは大した問題ではない。この種のカメラのファインダーはレンズがむき出しであるので汚れを取るのはたやすい。アルコールで拭うとすぐに綺麗になった。
 つぎは難しい問題。セルフタイマーの粘り。今回どのように解決したか詳細には覚えていないが,多分レバーの隙間に少量の油を注いだはずだ。そのうえで何度もレバーを倒してタイマーを働かせていると問題なく動くようになった。なんだかすっきりしないが,とにかく一応動くようになったのである。

モルトの劣化。
これは従来から習字に使う下敷き(フェルト)を貼り付けることで対応している。今回もこれで片づけた。

最後に速写ケースのほころびの件。
 縫おうとしたのであるが,狭い場所なので針が入らなかった。短い針を使えばよいのだろうが,小生は爪楊枝ほどの長さの針しか持っていない。そこで縫うのはあきらめて,ボンドで接着してしまった。
以上で問題はすべて解決した。

5.使用方法
120フィルムを使う赤窓式の蛇腹カメラとしては特に使用上問題になるようなことはない。ただ,あまり詳しくない人のために一点だけ注意しておこう。それは赤窓が2つあるといことである。

写真4をご覧いただきたい。カメラの背面に赤窓が2つ認められるであろう。その間隔は実測で47mmほどである。一方,120フィルムの裏紙にはこの位置に約93mm間隔で数字が印刷されている。以上のことから,裏紙の数字は6×9cm判のためのものであり,それを約47mm間隔の2つの赤窓で交互に送ることによってセミ判(6×4.5cm)の送り量を決めているのであろうということがわかろう。よって,撮影枚数は赤窓から読み取れる数字をnとすると,2nまたは2n-1となる。

写真4.背面

 

6.試写結果
では,フィルムを入れて実際に写してみよう。フィルムは買いだめしておいた感度100のカラーネガである。
 ところで,赤窓からの光の侵入が気になったため,両赤窓を黒のビニルテープで覆った。そして,フィルム巻き上げのときはできるだけ日陰の場所を選んでそのテープをはがし,短時間で巻き上げた後またテープで覆った。ただし,このような気遣いは不要だったかも知れない。
 さて,まず写真5をご覧いただきたい。これは至近距離(3.5フィート)から撮ったものである。完璧ではなかろうか?何しろポスト独特の朱色がかった赤の色がよく出ている。もちろん,ピントも申し分なかろう。背景のボケ具合もいい。

写真5.至近距離景

この手の古い型のポストは,小生の住んでいる町では既になくなっていると思っていたのだが最近発見した。少なくとも1基はあることが判明したのである。
つぎは近距離の撮影。写真6をご覧いただきたい。距離は5フィートほどだったろうか?これもよく写っている。写真全体の色合いもいい。もちろんこれは店舗側のセンスである。

写真6.近距離景

もう少し離れて撮ってみた。写真7である。距離は10~15フィートほどであったと思う。写りはまあまあといったところ。

写真7.中距離景

写真はともかく,その昔大分県の恵良(えら)駅から熊本県の肥後小国(ひごおぐに)駅までをつなぐ宮原(みやのはる)線という国鉄の路線があった。実際の始発/終着駅は豊後森(ぶんごもり)駅であったが,豊後森駅は久大(きゅうだい)本線に属していて,隣の恵良駅が久大本線と宮原線の分岐点ということになる。小生も20代のとき一度だけ乗ったことがある。1輌編成の気動車で,急勾配になると運転士がバケツから砂を取り出して床に開けられた穴から線路に撒いていたことを記憶している。乗客のほとんどは高校生であった。
調べたところ,宮原線は1984年に廃止されたということである。それから30年ほど経過した。路線のところどころに今でもその跡が残っているということである。
なお,写真に見える隣の駅名「きたざと」は北里柴三郎の出身地である。
最後に遠景をお見せしよう。写真8をご覧いただきたい。遠景とは言っても遠くに見るべきものもないごくありふれた田舎の風景である。鉄道のホームから撮ったものであるが,この路線は現役である。作品としていい出来とは思わないが,写真としてはそこそこの写りではなかろうか?

写真8.遠距離景

 

7.おわりに
正直言ってこのカメラにはあまり期待していなかった。第一,セミ・イコンタのコピー品ということ以外に特徴がない。しかし,レンズが綺麗になると何とも言えない愛着を覚えた。さらに,撮ってみるとなかなかである。
「カメラは美しく,且つ完璧でなければならない」とは小生の信念であるが,「美しく」の対象は何と言ってもまず「レンズ」である。レンズだから,美しいというよりは綺麗と言った方がいいかも知れない。このカメラのレンズは実に綺麗なのである。アサヒフレックスやキヤノンIV-Sbのレンズのように青みがかったレンズもいいが,このカメラのレンズのようにまったくの無色透明のレンズもいい。前者が薄化粧した娘さんなら,後者は化粧などまったくしていない清楚な少女にたとえられようか?
気障なことを言って申し訳ない。

参考文献
(1)朝日カメラ編集部(編):「広告にみる国産カメラの歴史」,朝日新聞社,1994
(2)全日本写真連盟(編):「カメラのあゆみ」,朝日新聞社,1976

■2013年4月12日   木下亀吉

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