わたしのカメラ三昧 第23回 「Asahiflex IIA」

1.はじめに
 このカメラを見たときの印象は,とにかく「すごい」としか表現のしようがない。何がすごいのか?まずは写真1をご覧いただきたい。
写真1.斜め前から見る(ファインダー展開)

小生の撮影術が貧弱なのか,この写真を見ても「すごい」とは思えないかもしれない。しかし,見る人が見ればわかっていただけるのではなかろうか?アサヒフレックスは一眼レフカメラであるが,特徴の山伏の頭襟(ときん)のような出っ張りがない。写真2もご覧いただきたい。

写真2.正面から見る

山伏の頭襟(ときん)のような出っ張りがない。写真2もご覧いただきたい。――そう,このカメラにはまだペンタプリズムは搭載されておらず,ウエストレベルファインダーなのである。しかし,それだけでは不便と思ったのだろうか,その横にアイレベルファインダーが慎ましやかに鎮座している。実際,縦長に撮るときはウエストレベルファインダーは使いづらい。

写真3はこのカメラを専用速写ケースに収納したところである。当時としては珍しくソフトケースで仕上がっている。古いがまだまだ使えそう。

写真3.速写ケース

このケースのジッパーは(ジャンパーの場合のように)外れるようになっていて,カメラとケースとを(当然だが)完全に分離できる。もちろん,ジッパーを外さなければカメラとケースは離れない。つまり,ケースを失うことがないというわけである。

2.仕様など
ここでこのカメラの仕様のようなものを整理しておこう。発売年や価格など実物を見てもわからない項目は参考文献のお世話になった。
(1)名称 : Asahiflex
(2)型式 : 35ミリフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
(3)適合フィルム : 135判
(4)フィルム送り : ノブ巻き上げ,ノブ巻き戻し
(5)フィルム計数 : 順算式(手動リセット)
(6)画面寸法 : 24×36 mm
(7)レンズ : Takumar 1:2.4 f=58mm (本機に装着のもの)
(8)ファインダー : ウエストレベルおよびアイレベル
(9)距離調節 : 手動,最短撮影距離2 ft
(10)露出調節 : 手動 f2.4~22
(11)シャッター : フォーカルプレーンシャッター,T, B, 1/2~1/500秒
(12)シンクロ接点 : FP, X接点あり(アクセサリシューなし)
(13)電池 : 不要
(14)質量 : 約770 g(上記レンズを含む実測値)
(15)概略寸法 : 約72H×145W×85D〔mm〕(レンズを装着しての突起物を除く実測値)
(16)発売(製造)年 : 1955(昭和30)年
(17)発売価格 : 39,500円(f2.4レンズ付き)
(18)製造・販売元 : 旭光学工業

このカメラの名称は本体に表示されているのでAsahiflexということはわかるが,さらにその系譜を調べるとIIA型であることがわかった。(インターネットのお世話になった。)その系譜を下の表に示す。このカメラはスローシャッターが付いていて,それはIIA型だけなのである。

表1.Asahiflexの系譜

名 称 発売年 特 徴
Asahiflex I 1952年 B・1/20~1/500秒,エバーリターンミラー,完全手動絞り
Asahiflex IA 1953年 B・1/25~1/500秒,エバーリターンミラー,プリセット絞り
Asahiflex IIB 1954年 B・1/25~1/500秒,クイックリターンミラー,プリセット絞り
Asahiflex IIA 1955年 T・B・1/2~1/500秒,クイックリターンミラー,プリセット絞り

写真1または写真2で,レンズの左上,つまりシャッターボタン近くの前面にダイヤルのあるのがお分かり頂けるだろうか?それが低速シャッター設定用であり,I型からIIB型までの機種にはないのである。
ところで,IIAとIIBの順序を奇異に感ずるであろう。このシリーズのカメラは,まずI型が世に出て,次いでIA型が出て,その次にII型が出て,さらにIIA型が出た。IIA型が出たとき,先行するII型を区別するためにIIBとしたようである。小生に言わせれば,そんなことをするから後で訳がわからなくなるのでる。そもそも,I型も本来は何もなかったのではあるまいか? ついでに表1の特徴欄の中の2点だけ見てみよう。
まず,エバーリターンミラーとクイックリターンミラー。このカメラはクイックリターンミラーを装備している。クイックリターンミラーを搭載したのはこのAsahiflexが実質最初だそうだ。その後,一般の一眼レフも現在に至るまでミラーはすべてクイックリターンミラーである。つまり,シャッターボタンを押す前のミラーは45°傾いており,入射光はすべてファインダーに導かれる。シャッターを押すとミラーが跳ね上がって入射光はすべてフィルムの方に導かれる。当然ファインダーの方へは光が届かないので真っ暗になる。シャッターを開く時間だけ経過するとミラーは元の角度に戻ってファインダーから被写体を見ることができるようになる。以上の動作が一瞬のうちに行われるのである。 一方,エバーリターンミラーというのはシャッターボタンを押している間ミラーが上がっているそうである。シャッターボタンに連動してミラーを跳ね上げるので力が要る。その分,手振れを起こす可能性が増すのではなかろうか?小生はこのようなカメラをまだ実際に見たことがない。
つぎに完全手動絞りとプリセット絞り。
このカメラはプリセット絞りであるから,プリセット絞りについてはよく理解できる。しかし,完全手動絞りについては完璧にはわからない。言葉どおり完全に手動で設定しなければならないのだろう。逆説的になるが,プリセット絞りでの絞り開放リングがないのであろう。
一方で,プリセット絞りでは,通常の絞りリングのほかにもう一つリングがあり,これを回すことで絞りを開放状態にできる。つまり,あらかじめ絞りを絞っておいても,絞りを開放状態にして(ファインダーを明るくして)ピントを調整できるのである。もちろん,シャッターを押す前にはこのリングを回して絞りを設定値に戻しておかなければならない。これを忘れたら絞り開放状態での撮影となる。 正直言って,完全手動絞りに対するプリセット絞りの利点が理解できない。大して便利とは思えない。

3.問題点
このカメラの状態はかなり良いと言える。レンズは綺麗だ。ほとんど完璧だが,シャッター速度が変わらないように感じられる。
裏蓋を開けてシャッター速度を変えながら何度もシャッターを切って幕の動きを観察した。しかし,幕の動きを正確に捉えるのは難しい。そもそも,幕の動く速さは1/125秒程度らしい。つまり,これ以上の速度になると先幕が行き着く前に後幕が動きだし,結局スリットが移動する感じになるということだ。このことを考えながら幕の動きを観察した結果,どうもシャッター速度は1/50秒乃至1/25秒程度で一定しているように感じたのである。ただし,低速はねばっているものの機能しているようである。しかし,最低速の1/2秒はねばりが甚だしくて一度開いたシャッターが閉じないことが多い。
その他些細なことも含めて,このカメラの問題点はつぎの2点と判定した。
(1)シャッター速度不変(?)
(2)レンズキャップがゆるい

4.対策(修理・手入れ)
一眼レフは構造が複雑で修理は難しい。だからできるだけ手を加えたくないのであるが,とにかく底蓋を開けてみた。写真4をご覧いただきたい。歯車とレバー(と言うのだろうか,そのようなもの)が詰まっている。フィルム巻き上げ動作とシャッターボタンを押すことを繰り返しながら内部の動きを観察した。しかし,特におかしな動きは認められなかった。このまま蓋を閉めてしまうのも癪に障るのでいくつかのポイントに少量注油した。
その結果,シャッター速度が変化し始めたように感じられた。
あくまで「感じ」であって,何ら変化しなかったかもしれない。 歯切れが悪いが,一応これで問題(1)を終えよう。

写真4.底蓋を外す

つぎに,問題(2)。これはカメラの機能には何ら関係ないのであるが,せっかくの「かっこいい」レンズキャップだから有効に使いたい。
原因はキャップ周辺の内側に貼られていたパッキンが劣化したことにある。
まず,劣化したパッキンの残骸をきれいに取り除き,パッキンの代わりとして習字用の下敷き(フェルト)を裁断して貼り付けてみた。駄目であった。
つぎに100円ショップで買っておいたブックカバーを裁断して貼り付けた。これも駄目。
最後に,数か月前DIY店で買っておいた人工皮革を裁断して貼った。今度はうまく行った。ゆるからず,きつからず,ちょうどいい感じに仕上がった。問題(2)は気持ちよく解決した。

5.操作方法
このカメラは完全マニュアル機なので,その操作を知っている人にとってはそれほど難しいことはない。ただし,一つだけ注意が必要。それは,絞りを開閉するリングの操作である。この件についてはすでに述べたのでここで改めて説明するまでもあるまい。
写真5.拡大鏡

なお,ピント調節は目測でもよいが,ウエストレベルファインダーを使って正確に合わせることができる。さらにこのファインダーには拡大鏡が付いているのでこれを利用すると便利である。写真5をご覧いただきたい。拡大鏡を起こしたところである。これでピントを合わせたら,この拡大鏡を格納して今度は構図を決める。もちろん,この時点でアイレベルファインダーに切り替えることも可能である。ただし,近距離ではパララックス(視差)防止のためウエストレベルファインダーを使うほうが良いであろう。

6.試写結果
別のカメラにASA100のコダック製カラーネガフィルムを装填して12枚撮ったところでこのカメラに詰め替えた。24枚撮りであるから残り12枚とゆきたいところだが,詰め替えによる(重複防止策としての)余裕を1コマみて11枚撮影した。
まず,至近距離で撮影。写真6をご覧いただきたい。もうこの写真1枚を見ただけでこのカメラ,レンズの性能が明らかである。発色がどうとか言う議論はできないが,きっちり写っているではないか?まさに写真である。

写真6.至近景

ところで,被写体であるが,これは缶ビール(発泡酒かも?あるいはノンアルコールかも?)の空き缶を加工して作った風車(?)であり,知人からいただいたものである。風が吹くと勢いよく回転する。この写真を撮ったときは風が吹いていなかった。
さすがにこの距離では被写界深度は相当浅くなっており,背景がぼけて風車が浮き出て見える。
つぎに近距離から撮った写真をお見せしよう。写真7である。この場面は以前コダックのカメラで撮ったことがある。小生の行動範囲は狭いので再び同じ対象を撮った次第。距離は3~4フィートだったと思う。

写真7.近景

道標の色もいいし,背景の枯れたすすきもよくその雰囲気が出ている。どのような条件で撮ったかは記憶がないが,被写界深度は比較的深い。
最後に遠景であるが,これはちょっと被写体に問題がある。写真8をご覧いただきたい。お分かりのように山の頂上付近が吹雪で霞んでいる。試写の場面としてはふさわしくない状況であった。しかし,遠景はこれ以外にないのでご容赦いただきたい。
写真8.遠景

上記3枚の写真はいずれもウエストレベルファインダーでピントと構図を決めた。アイレベルファインダーがあるが,パララックスが気になったのである。にもかかわらず,いずれも構図が下にずれている。ここに提示した写真ではわかりづらいが,実は人物を撮った写真が数枚あって,それらの構図がいずれも下に偏倚しているのである。写真6と7にもそれが認められるであろう。一眼レフのファインダーなのになぜ?小生の癖だろうか?それともファインダーに問題があるのだろうか?

7.終わりに
以前から気になっていたカメラであった。今回はインターネットオークションで手に入れた。幸運にも比較的安く落札できた。
ペンタックスの元祖のようなカメラである。古いので正直写りはあまり期待していなかった。それが今回の試写で考えを改めた。いつまでも使いたいカメラとなった。

参考文献
(1)朝日カメラ編集部(編):「広告にみる国産カメラの歴史」,朝日新聞社,1994
(2)上野千鶴子ほか:「写真用語辞典(改訂版)」,(株)日本カメラ社,1997

■2013年2月15日   木下亀吉

「わたしのカメラ三昧」に掲載されているすべての画像・文章は作者の木下亀吉様が所有しています、許可無く無断で複製・配布することはご遠慮下さい。