トイカメラの教科書 第67回「期限切れフィルムの楽しみ方」

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 こんにちは、雨樹一期(あまきいちご)です。まだまだ暑い日が続いていますね。大阪は夏らしい夏です。さて、今回はフィルムのお話をします。
先ずフィルムには期限があります。食べ物の賞味期限と同じように考えて頂くと分かりやすいかと思います。
僕は写真をはじめる前、フィルムの現像所で働いていました。はじめはただの仕事として作業をしていたのですが、社員割引でコンデジを購入したのをきっかけに、写真がどんどん好きになっていきました。そしてフィルムをはじめてからは職権乱用的な感じで(笑)、自分の撮ったフィルムも現像をするようになりました。
現像は様々な液を使うのですが、とてもデリケートです。たとえば1〜6の液に順番に浸していくとして、2の液が1に混じるだけでも1の液がダメになります。少し大袈裟かもしれませんが、そう教わって作業をしていました。普通に作業していれば大丈夫ですが、地震で揺れて混じってしまうことはありますよね。
次に現像機は機械です。いろんなトラブルがあります。機械が止まることもあれば、フィルムを送るギアが破損することもあります。メンテナンスは大変です。
そんなトラブルの後はテスト現像をします。実際にフィルムを現像機に流していくのですが、そこで期限切れのフィルムを使います。その為、現像所にはたくさん置いていました。300本くらいはあったかもしれません。いま思えばめちゃくちゃ貴重です。トラブルも頻繁にあるわけではないので、その期限切れも減りません。だからたまに期限切れ間もないフィルムを拝借して撮影することもありましたが(笑)、基本的には期限切れフィルムはテスト用です。昔はそんな認識でした。
長い余談ですいません。ここから本題に入ります。今更ながらですが、それを実際に使ってみるのがとても面白いのです。


フィルムの期限とは?
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フィルムには期限があります(制作から2年ほど)。期限は箱の裏面などに記載されているので、箱から出してしまうと分からなくなります。

さて、その期限内に撮らないとどうなるか?その主な特徴は以下です。
1、カラーバランスが崩れる
2、コントラストが落ちる
3、感度が落ちる
4、ザラザラになる

【カラーバランスが崩れる】
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青いものが赤く写る、ということはありませんが、全体的なバランスが崩れてしまいます。基本的には色が薄くなります。

【コントラストが落ちる】
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明暗差がなくなり、全体が薄くなります。締まりがない写真になります。

【感度が落ちる】
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フィルムの感度に合わせて撮影すると全体的に暗くなります。

【ザラザラになる】
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粒子が荒い状態です。期限切れが進むほどザラザラ感は強まります(期限内の感度100のフィルムはザラザラになることはありません)。

と、主な特徴(欠点)を書いてみましたが、やや矛盾してくる部分もあります。これまでに使用した期限切れフィルムでは、逆にコントラストが強まることもありました。暗い部分はより暗く、明るい部分は白飛びをする。色が薄くなるのではなく、どっしりとのってくることもありました。以下は期限から5年ほど過ぎたフィルムです。
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感想は「めっちゃええやん!」です(笑)。
フィルムによっての違いかなと思っていましたが、同じフィルムでも濃くなることもあれば薄くなる事もありました。もう訳が分かりません(笑)。
唯一共通しているのはザラザラになることです。それがデジタルにはないノスタルジーを感じさせてくれます。まれに想像以上の写真を撮れることもあるので、期限切れフィルムは捨てていたという方はぜひ一度試してみて下さい。

保存状態によっても変わる
フィルムは高温多湿の場所を嫌います。炎天下の車の中に置いておくと、期限内でもどんどん劣化していきます。逆に冷蔵保存をしていると少しくらい期限が切れても普通に撮れます。冷凍保存をしていると半永久的に撮ることが出来ます。
フィルムの種類でも少し変わります。リバーサルフィルムは劣化が早いですが、モノクロはあまり劣化しません(リバーサル→ネガ→モノクロの順)。なので、リバーサルフィルムを購入したら冷蔵庫で保存することをオススメします。また、富士よりもコダックの方が劣化は早いと言われています。
保存状態により、5年切れより、1年切れの方が劣化していることもあります。とにかく撮ってみるまで分かりません。

□モノクロ(5年期限切れ)
少しザラっとしている程度で劣化している感じはありませんでした。
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□ネガ(7年期限切れ)
明るめに撮影したつもりだったのですが、かなりアンダーになっていました。
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□リバーサル(不明)
コダックのタングステンフィルムです。どこで手に入れたのか、いつからか家に転がっていました(笑)。色味は薄くなりましたが、めっちゃ好みの発色。この色味で写るフィルムが欲しいくらいです。
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期限切れのリバーサルフィルムはクロスプロセスしてみよう
どうせバランスが崩れているのなら、いっそもっと壊してみようってことでクロスプロセス現像してみるのも面白いです。
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最後の2枚は奇跡の写真です。昼間、晴天の中で撮影したものですが、カラーバランスが壊れて青になり、フィルムの膜が剥がれている部分が星のようになりました。
期限切れフィルムで撮影する。これもまたフィルムならではの楽しみ方ですね。デジタル加工でここに近付けることは出来るかもしれませんが、そもそも自分では想像もしない色彩になっていますからね。加工では出せない色(この色にしようとは思わない)です。
楽しみ方は無限大ですね。やっぱりフィルムは面白いです!


【名古屋WS】
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【日程】9/24(日) 13時〜16時
まるで幼い頃に撮ったかのような、懐かしくどこか暖かい雰囲気で撮れるフィルムを使い、名古屋市政資料館〜文化の道などを撮影するワークショップを開催します。その他、ノスタルジーに撮れるフィルムを紹介します。
詳細・お申込みはコチラ

【大阪WS】
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大阪では毎月(木・日曜)、フィルムをより楽しんで頂けるようなちょっぴりマニアックなワークショップを開催中です。ぜひチェックしてみて下さいね。

【日程】
・9/17(日) フィルムで操る色彩(神戸異人館)
・9/21(木) フィルムで操る色彩(神戸異人館)
・10/ 9(月) 光漏れフィルムorレッドスケール制作
・10/10(火) 日本未発売のフィルム
・10/11(水) 使い捨てカメラからモノクロをはじめてみよう
・10/12(木) 写真をずっと続けていく秘訣(淀屋橋)
・10/13(金) ゆるふわ写真の撮り方(和泉リサイクル公園)
・10/14(土) 多重露光の基礎とコツ
・10/15(日) 雨樹一期とフィルムスワップ(万博記念公園)
・10/19(木) 雨樹一期とフィルムスワップ(万博記念公園)
・11/16(木) カメラシャッフル(中之島バラ園)
・11/19(日) カメラシャッフル(中之島バラ園)
・12/17(日) 被写体の捉え方(淀屋橋)
・12/21(木) 被写体の捉え方(淀屋橋)
詳細


さて、ここからは七月に開催した名古屋ワークショップの参加者様の写真になります。光漏れやレッドスケールフィルムの制作、いろんな特徴のあるフィルムを使って撮影して頂きました。いやー、面白い。ご参加ありがとうございました。
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雨樹 一期(あまき いちご)
1977年生まれ。大阪出身のプロ・トイカメラマン。観覧車写真家。トイカメラならではの色彩と、淡く鮮明な表現を自在に操り、写真を通してどこか懐かしくポエティックな視覚世界を表現する写真作家。東京ドーム『SPA LaQua』にて環境映像作品「心の観覧車」の上映。WEBや雑誌にてトイカメラコラムの連載。携帯のきせかえツール、スマートフォンのきせかえカレンダーへのコンテンツ提供。電子書籍の出版。東京、大阪、パリで写真展の開催。トイカメラ講師など、幅広い活動を展開中。書籍に「しあわせの観覧車」「一期一会」など。

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