トイカメラの教科書第63回「無料で撮ってくれと頼まれた時はどうすればいいか?」

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こんにちは、雨樹一期(あまきいちご)です。連休も終わりましたね。僕は特に遠出することもなく、娘に貰った風邪と暮らしていました。感染力が強烈、抵抗力が貧弱です。困った弱った。

さて、前回のコラムは「写真をやめようと思った、撮れなくなった時の対処法」でした。やっぱり「あるある」なのか共感してくれる方も多かったです。真剣にやっているからこそ訪れる悩みですね。僕は撮り方を教えることが多いですが、実はこっち側の精神論みたいなのを説くことも好きです。てことで、今回は次なる悩みのお話。
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身内も含めて、知人や友人に写真好きとして知られるようになると、「写真を撮って欲しい」なんて頼まれることがあります。これは嬉しいことかもしれませんが、気になるのは報酬です。のっけから、がめつい話ですいません。でもこれも「あるある」だと思います。
最初から安くても提示してくれたらいいのですが、無料で撮って貰えると思っている方がいます。「なんだったら撮らしてあげる」、みたいな感じで頼んでくる方もいます。これは写真に限らず、絵の世界にもありますよね。「ちょっとイラスト描いてよ」って。
僕はプロとして職業にしているのでそういうことは少ないですが、元々はトイカメラがメインの作家志望です。しっかりと〝プロ〟と名乗る以前ですが、披露宴などを頼まれることはありました。撮っていない人からすると、『写真を撮っている人=何でも撮れる』と思いがちです。
ただの趣味で、お金の為に撮っているわけではなくても、実際に頼まれて撮るとなると、プレッシャーもかかりますし、準備も必要です。撮れる自信がなくて不安かもしれない。場合によっては新たな機材が必要になるかもしれない。交通費もかかります。フィルムならフィルム代や現像費などの経費もかかります。「適当でいいから」みたいに言われても、適当になんて撮れません。アマチュアだろうと責任感があります。
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先に書いておきますが、披露宴の撮影を頼まれたら断りましょう。何度か撮ったことがある方ならいいのですが、花や風景写真を趣味で撮っている方には難しいです。
フィルムの方もやめておきましょう。色温度を理解していたとしても難し過ぎます。他にプロのカメラマンがいない状態となると、失敗出来ないですからね。僕も披露宴を撮影するとなれば、、デジタルがメインで、フィルムはおまけ程度です。
披露宴は照明の色も変わりますし、突然逆光になることもあります。新郎新婦は動きまくります。シャッタースピードが遅くなってブレます。ただ主役の二人を撮るだけでもダメです。慣れていないと名場面を見逃してしまいます。集合写真もかなり難しいです。デジタルなら、SDカードの容量やバッテリーなどが無くなったら終わりです。フィルムなんて36枚撮ったら交換ですからね。10本持っていっても360枚しか撮れません。いつもの撮影とは違います。マイペースになんて撮れません。
逆に言うと、頼む方もやっぱりちゃんとプロにお願いするべきです。知人・友人に頼む一番の理由はお金の節約でしょうけど、「あの子、写真やっているし頼んでみる」という考えは双方の為に避けるべきでしょう。
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ピカソの逸話です。ファンの方に絵を描いてと頼まれました。30秒ほどで描き終えて、手渡す時にピカソは言いました。『この絵の値段(価値)は100万ドルです』と。ファンの方は「たった30秒で描いたのに?」と驚きました。ピカソは笑って答えます、『30年と30秒ですよ』と。本当に言ったのか分かりませんが、、描くのにかかった時間は一瞬だろうとも、これまでに積み上げて来た経験(時間や努力やお金など)があるということですね。それがあるからこその、30秒です。大袈裟かもしれないけど、短距離の選手なんてまさにそう。ほんの数秒のために膨大な時間、過酷な練習をします。
だから、自分の中で、これまでの経験に価値があるというのなら、無料でやるべきではないと思います。逆に、それを撮ってあげることで経験になるというのなら、積極的にやるべきです。箔がつく、とかでもいいですね。いつもお世話になっている方なら無料でもいいと思います。


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友達から頼まれると、お金の話ってちょっとしにくいです。はじめからその話をしていないと後から「あの、それで料金なんだけど…」なんて言えなくなります。友人関係にもヒビがはいります。
イラストも絵も写真も技術が必要です。確かに、『技術』は『モノ』ではないので価値をはかるのは難しいです。でも、無料で頼むということは、買い物に行って「これタダでちょうだい」と言っているのと同じようなことです。
ちょっと話はズレますが、デジタルで撮っても、それで終わりではありません。一時間で撮影したとして、編集時間はその倍くらいはかかります。「一時間でその料金は高くない?」なんて思われがちですが、実際は三時間以上かけています。そこにさっき書いた『これまでの経験』もあります。準備、撮影、編集、機材、経験、知識、センス、いろんなものが必要です。
それでも、「別に無料でもいいよー」と思っている方なら何の問題もないのですが、心に少しモヤモヤがあるのなら(ここが大事)、勇気を持って断るか、料金を伝えるべきです。それで「え?お金取るの?」なんて嫌な顔をされるくらいなら、断って問題ないでしょう。時間は有限です。そんな不安をわざわざ抱えて、我慢するには勿体ないです。
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これもまた、前回のコラムに書いた「写真を撮らなくなる理由」に繋がることがあります。どちらかというと、フィルムよりもデジタル寄りの話かもしれませんね。外部の要因などがあって、心のどこかで面倒くさくなってしまう。サラっと流していければいいんですけどね。好きを続けるのも一苦労です。
と、ネガティブかポジティブか分からないコラムになっていますが、普通に趣味で撮り続けていくと遭遇する悩みかもしれないので、書いてみました。
本当に好きならどんなことも乗り越えていけると思いますので、とことん写真好きになれるのが一番ですね。


さて、もう期日はせまっていますが、5月27日と28日に横浜でフィルムカメラのワークショップを開催いたします。27日は「多重露光」、28日は「光漏れフィルム、もしくはレッドスケールフィルムの制作(当日に選択)」です。
フィルムならではの楽しみ方を詰め込んだワークショップになります。トイラボさんの無料現像券やフィルムも付いてきます。
初心者の方のご参加も大歓迎です。フィルムの入れ方もレクチャーいたしますよ(カメラのレンタルも可)。詳細、お申込みはコチラ
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雨樹 一期(あまき いちご)
1977年生まれ。大阪出身のプロ・トイカメラマン。観覧車写真家。トイカメラならではの色彩と、淡く鮮明な表現を自在に操り、写真を通してどこか懐かしくポエティックな視覚世界を表現する写真作家。東京ドーム『SPA LaQua』にて環境映像作品「心の観覧車」の上映。WEBや雑誌にてトイカメラコラムの連載。携帯のきせかえツール、スマートフォンのきせかえカレンダーへのコンテンツ提供。電子書籍の出版。東京、大阪、パリで写真展の開催。トイカメラ講師など、幅広い活動を展開中。書籍に「しあわせの観覧車」「一期一会」など。

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