雨樹一期のトイカメラの教科書 第34回「多重露光をやってみよう」

こんにちばんは、雨樹一期です。早速ですが今回は、そういえばやっていなかったコラム。「多重露光」です。トイカメラといえば多重露光ですからね。僕も昔はあまりやっていませんでしたが、最近は撮影の3割くらいは多重露光をしています。ほんとは一枚撮りで結果を出したいところですが、多重による新しい世界を作り出すのも面白いです。

ただ、多重露光はクロスプロセスと同じく、せっかく遠出して撮影したのに大失敗なんてこともあるので、抑えとして普通に撮っておくこともお勧めします。「何」と「何」を重ねたか分からないという、ごちゃごちゃ多重も僕の中では失敗ですが、明るくなり過ぎて色も像も飛んでしまうこともあります。

大化けもするけど、大失敗も待っている。それを博打性の高いトイカメラでクロスプロセスなんてしちゃったら、どうなっちゃうのって感じですが、撮影を重ねていくとある程度の予想も付いてきます。今回のコラムがそんな参考になれば幸いです。

いくつかのカメラで試してきたのですが、僕はLOMO LC-A(+)の多重露光が一番好きです。一眼だと全部がくっきり写ってしまいますが、LC-Aはいいボケ具合なんですね。

良く質問されるのが、感度設定です。フィルムの同じ場所に撮影する訳ですから、重ねていくほど明るくなります。でもLC-Aなら二重露光程度であれば、そこまで気にしなくても大丈夫です。感度100のフィルムなら、感度設定も100で。

ただLC-Aは露出に個体差があるので、普段から明るく撮れるようであれば、多重するときは感度設定を変えましょう。フィルムが100なら設定を200に。

二重露光ではなく、三重、四重と重ねていくなら、設定は400や800にと調整はしましょう。
自分的にこれまでで一番成功したかな、っていうのが以下の写真。もう随分前に撮ったんですけどね。過去の自分を越えることが出来ないのはもどかしいですが。
零れ落ちる花を手の平で受け止めているようなイメージで、4回重ね撮りしています。
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花が上から降って来るように、大きさを変えて三回、最後に手の平を撮影しています。使用したフィルムの感度は100ですが、重ねる度に当然明るくなってしまうので、感度設定は1600にしました。
イメージ通りに撮れたという意味では大成功。LC-Aは視差があるので、ファインダーを覗いて撮った写真と、出来上がりには多少のズレがあります。だから実際にコレをまた撮るとなると、かなり難しいんですよね。
僕はこうやって4回も重ね撮りすることって滅多にありません。たいていは二回、二重露光ですね。ややこしいので二重でも多重って言っています。


多重の基本ですが、以下の写真のように写真の暗い部分があれば、いい感じに絵が重なります。逆光で陰になる部分を作りましょう。太陽に手をかざして撮影、その後に花など撮影するだけです。撮る順番はどちらでも大丈夫です。
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さて、LC-A+は多重露光の機能がありますが、LC-Aにはありませんよね。一度シャッターを切ると、フィルムを巻き送らないと次にシャッターが切れません。そこで無理矢理多重露光する方法をお教えします。
過去にもサラッと書きましたが、先にフィルム36枚撮りきって、一度はじめまで巻き戻して、また撮り重ねていく方法です。
まずはいつも通りフィルムを装着します。一度シャッターを切って、フィルムを巻き送って止まったところに、写真のように印を入れます。そこからいつも通りに写真を撮っていきましょう。僕はここで多重の下地になるものを撮っています(たとえば花だけを36枚)。
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撮り終わったらいつも通りフィルムを巻き戻します。この時、最後まで巻き取らないように(フィルムの先端が少し残るように)しましょう。慣れた方なら感覚で分かりますね(グリグリと巻き取っていって、最後に一瞬引っかかる場所)。
でも、まだ途中だったのに裏蓋あけてしまったら元も子もないので、不安な方は全部巻き取っても問題ありません。巻き取ったフィルムを出す「フィムピッカー」というアイテムもあるので、それを使えば簡単に先端を出すことが出来ます。
多重に関係なく、巻き取ってしまうこともあるので、むしろ購入しましょう。にしてもこのネーミング。ピッカーって。
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多重する時は、そのフィルムをまたカメラに装着します。この時に、「フィルムを巻き送って止まる場所」と、「はじめに付けた印」を合わせます。上手く合わないようであれば、一度取り出してまた装着を。カメラの底面にある巻き戻しボタンを押すと、ギアが空回りするので、簡単に合わせることが出来ます。
この多重の利点は、その場で重ねるわけではないので、被写体を選べることです。花を撮ったフィルムを持って行けば、花のない場所に咲かせることも出来ますし、桜とコスモスという風に季節を越えた多重をすることも出来ます。


さて。僕はこれまでいろんな被写体で多重露光をしてきましたが、やはり相性ってあります。
先ほども書いたように、僕は下地として同じ被写体を36枚撮るのですが、そのオススメの下地をご紹介します。

■ 花
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最も無難で失敗も少ないです。それでいてどんな被写体とも相性が良く、メルヘンちっくに。クロスプロセスよりも、ネガ現像の方が合いますね。まずはここから試していきましょう。

 

■ 空
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カッコイイですね。死後の世界みたいで怖さもありますが。クロスプロセスの相性が抜群。LomographyのLomochrome Purpleで撮るのもオススメです。

 

■ カモメ
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これはもうテッパンですね。コダックのエクタクロームのクロスプロセスが超絶にカッコイイです。問題はカモメがいつでも撮れないのと、そのフィルムがもう生産されてないってことです。変わりに、富士の「PROVIA 100F」で撮ってもいい感じになりそうです。コントラストが強いフィルムがおすすめ。

 

■ 水族館
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これも成功率は高めですね。カモメと違って、ネガ現像で柔らかく撮る方がいいですね。

 

■ 色紙
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色紙をグラデーション風に壁に貼付けて撮影しました。上手く色がでないこともあるので難易度はやや高めですが、成功すると面白い写真が出来あがりますね。

 

■ 影絵
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名古屋の地下に、壁に影絵が描かれてる場所があるのですが、それを下地にしました。影絵がしっかりと表現されます。

 

■ イラスト
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2012年に絵描きの中川貴雄君とコラボした時の作品。中川くんの絵を下地に、通天閣や観覧車など撮り重ねていきました。

 

■ ポートレート
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多重のポートレートも面白いです。左に花を、右に人物という風に分けて撮ることでスッキリしますね。
モデルはジャミーメローのMEMIさん。

 

■ Splitzer(スプリッツァー)
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スプリッツァーとはLC-A+専用のアクセサリーです。これを装着すれば、レンズの一部分だけを隠して撮影することが出来ます。たとえば、下半分を隠して上半分に観覧車を撮り、上半分を隠して下半分に花を撮るなど。工夫次第で多重の幅はぐんと広がります。
これまでに紹介した多重よりもメインの被写体をしっかりと撮ることが出来ます。
僕は上を隠して、下に花だけを36枚撮って巻き戻し、次は下を隠して上に観覧車などを撮ったりしています。


全体的に言えるコツですが、二回撮るなら片一方はシンプルなものを撮るなど、被写体同士が重ならないようにすればスッキリとします。
僕は下地を撮る時にメモを取ることもあります。一枚ずつ取る必要はありません。1〜5枚目は左に花、6〜10は下半分に花など。そして重ねていく時に、1〜5枚目は右に観覧車を撮っていきます。
コツさえつかめばある程度は思い描いた写真が撮れるようになります。まずは「花」からチャレンジしていきましょう。
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以下、展覧会の告知です。
今年で第3回目となる「ボダイジュエキスポ」。またまた参加させて頂きます。
今回の参加は企業などとのコラボが条件。僕はいつもお世話になっている、
「SORA Synesthetic Design Studio」とコラボ致します。

コラボといっても、お互いの作品を飾るものではなく、僕の写真展をプロデュースして頂き、より良く見せて頂くコラボです。
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以下、概要。

ホテルの各客室に、50組の様々なアーティストが入り、2日間に渡りそれぞれが個展を開催します。出場者は全てプロの方々となります。
全アーティストは、開催当日に各お部屋内で在廊。作品のご購入や、お仕事依頼も可能です。  ホテル1Fでは、水森亜土ちゃんの特別展も開催決定! 現在、Bodaiju Cafeで前売り券発売中です。 前売り券1枚900円

□日時 11月29日(土)10時~19時
11月30日(日)10時~20時 NEW OSAKA

□会場 HOTEL心斎橋 (大阪府大阪市)にて。
一般入場料 ¥1000 ※中学生以下無料(※学生証持参)

BODAIJU EXPO 3
http://expo.bodaiju-cafe.com/italy2014/detail.php?oid=amaki15

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今回は自分の中の「写真」に真っすぐに向かった展示になります。僕は、撮影と写真って別物だと思っています。 撮影ってシャッターを切った瞬間に、その時間、その空間を閉じ込めるもの。 それを写真という形にして見ることで、その閉じ込めた時間が再び動き始めるものだと。 これまでに僕の写真を見た方からいろんなご感想を頂きましたが、見る人によってそれはさまざまでした。 僕が閉じ込めた物語の続きを見てくれる方もいれば、新しい別の物語を想像する方、過去の出来事に重ね合わせる方もいました。 僕は主に発信する側ではありますが、いつもの展示はどちらかというと、伝えたいことをメインに作品を選んでいましたが、ある意味ではそれは一方的なもの。 今回は受け取る側に全てをゆだねるような展示になります。 どんな物語が生まれるか。そこにどんな音や香りを感じるか。見る人の心にどんなリズムが生まれるか楽しみです。


キミが目を閉じた瞬間、ボクは生まれる。

「アマキリズム」

カメラが瞬きをする
それは「時」を閉じ込める魔法

鮮やかな色彩 賑やかな音
静かな空気 季節の香り

一瞬の光の中に
閉じ込められた

1枚の写真

ボクが瞬きをする

「時」は解放され
またまわりはじめる

鼓動のリズムに乗せて


■ プロ・トイカメラマン雨樹一期オフィシャルサイト
http://www.amaki15.com/

■ トイカメラ日和
http://amaki15.blog90.fc2.com/

■ ネットショップ
http://amaki15shop.biz/

■ 猫レシピ
http://cat.amaki15.com

■Twitter
http://twitter.com/amaki15

■Facebook pages
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雨樹 一期(あまき いちご)
1977年生まれ。大阪出身のプロ・トイカメラマン。観覧車写真家。トイカメラならではの色彩と、淡く鮮明な表現を自在に操り、写真を通してどこか懐かしくポエティックな視覚世界を表現する写真作家。東京ドーム『SPA LaQua』にて環境映像作品「心の観覧車」の上映。WEBや雑誌にてトイカメラコラムの連載。携帯のきせかえツール、スマートフォンのきせかえカレンダーへのコンテンツ提供。電子書籍の出版。東京、大阪、パリで写真展の開催。トイカメラ講師など、幅広い活動を展開中。書籍に「しあわせの観覧車」「一期一会」など。

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