わたしのカメラ三昧 第36回 「リコー ハイカラー」


1.はじめに
 写真を受け取るため,帰宅途中立ち寄ったカメラ店のワゴンの中にジャンクカメラがあった。あまり期待せずに中を覗いてみるとリコーのハイカラーがあった。このカメラにはあまり興味がないのであるが,レンズキャップがついていたので何となく親近感がわいた。300円。まずはその外観を写真1でご覧いただきたい。
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写真1.リコーハイカラー35S

 興味がないと言ったのは,このカメラは電池を使うからである。しかし,帰宅してよく調べると電池がなくても使えることがわかった。つまり,わたしの定める「クラシックカメラ」に該当する。

 

2.仕様と特徴
 まず,このカメラの仕様を確認しておこう。リコーからインターネット上に仕様が公開されているのでそれを参考にした。ただし,表現の統一や,項目を追加したことによって間違いが発生したかも知れないことをあらかじめお断りしておく。

(1)名称 : Ricoh Hi-Color 35S
(2)型式 : 35ミリレンズシャッターカメラ
(3)感光材料 : 135判フィルム(適合感度: ASA25~400)
(4)フィルム送り : スプリングモータによる自動巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数 : 自動リセット順算式
(6)画面寸法 : 24×36 mm
(7)レンズ : リコー35 mm F2.8,3群4枚構成
(8)ファインダー : ケプラー式
(9)距離調節 : 前玉回転式目測手動設定(最短撮影距離1.0 m)
(10)露出調節 : シャッター速度優先CdSメータ針押さえ式AE絞り手動設定可: f2.8~22
(11)シャッター : 30/60/125/300,セルフタイマー付き
(12)シンクロ接点 : あり
(13)電池 : MR44(LR44で代用可)
(14)質量 : 475 g(電池を含む実測)
(15)概略寸法 : 110W×80H×52D 〔mm〕
(16)発売(製造)年 : 1970(昭和45)年
(17)発売価格 : 本体17,300円,ケース1,300円
(18)製造・販売元 : リコー

 このカメラの特徴は何と言ってもスプリングモータによるフィルムの自動巻き上げであろう。スプリングモータを使ったこの種のカメラを時系列的に整理すると下の表のようになる。

表1.ハイカラー35Sの誕生まで(スプリングモータカメラの系譜から)

発売年 機 種 名  備 考
1962.11 オートハーフ ハーフサイズカメラ,ぜんまいによる巻き上げ,セレン光電池搭載
1964.4 オートショット

オートハーフのフルサイズ化。

1965.11 スーパーショット フルサイズ,電子シャッター搭載,CdS搭載。
1968.9 ハイカラー35 オートショットのセレンをCdSに変更。
1970.10 ハイカラー35S セルフタイマー付き。

 まず,オートハーフが世に出た。それをフルサイズ化したのものとしてオートショットが開発された。ついで,そのセレンをCdSに置き換えたのがハイカラーということになろう。
オートショットとハイカラーの間にスーパーショットという機種が製品化されているが,これはどういう位置づけだったのだろう?レンズを明るくしたことに伴って,カメラ本体が大型化した。また,初めて電子シャッターを採用したとのことであるが,それに続くハイカラーには採用されていない。
 いずれにしても,ゼンマイ仕掛けによるスプリングモータを使ったカメラはこのハイカラーが最後の機種になったようだ。

 

3.初期状態の確認と問題点

 帰宅してさっそく状態検査。
まず,電池室を見た。古びた水銀電池が収まっていた。それを取り出すと内部に青い粉が溜まっているのが認められた。写真2をご覧いただきたい。このような状態では電気回路の腐食が心配になる。

写真2.軍艦部

 気になるスプリングモータは健全なようである。
しかし,裏ぶたを開けたとき劣化したモルトに驚いた。写真3をご覧いただきたい。いつも思うのだが,リコーはなぜこのように大量のモルトを使うのだろうか?
このカメラはシャッターを開放状態にできないのでレンズの汚れ状態は判然としないが,それほど汚れてはいないようである。また,ファインダーもそこそこ綺麗(我慢できる程度という意味)である。

問題点を要約すると,
(1)電池室が汚れており,電気的な機能は不明
(2)モルトが劣化している
ということになる。

写真3.裏ぶたを開けたところ(モルトの劣化状況)

 

4.手入れ
 まず,電池室の掃除が必要。とにかく,綿棒にアルコールを含ませて丁寧に拭った。青い粉はほとんど取り除けた。底にある電極には弾力がなく,やや腐食しかけているようであるが,そっと使えば大丈夫だと判断した。
 電池は本来MR44という水銀電池らしいが,今では手に入らない。電圧が少し違うが,アルカリ電池のLR44で代用しよう。形状は全く同じなようで電池室にぴったり納まった。
 ファインダーを覗きながら明るい方を向くと,ファインダーの中の赤○が緑の○に変わった。CdS露出計が働いている証拠である。よかった!CdSは生きていた。もちろん,回路部品の腐食もないということになる。(正確に言うと,腐食があるかもしれないが,致命的な損傷はないということである。)

以上で問題(1)が解決した。

 つぎはモルト。
モルトの貼り替えに関しては,自分ながら最近腕が上がったと思う。今回も習字に使う下敷きを適当に裁断して両面テープで貼り付けた。結果を写真4でご覧いただきたい。写真3と比較すればその違いは歴然としている。
 ところで,わたしが使っている習字用の下敷きであるが,これはフェルトの布の片面にビニル状の膜を貼りつけたものである。数年前に100円ショップで1枚買ったのだが今ではもう手に入らないようだ。当初1枚あれば一生使えるだろうと目論んでいたが,リコーのカメラを修理するたびに大量に消費するので今となっては少々心細くなっている。

写真4.モルトの張替え結果

 

5.使い方
 特に難しいことはない。
裏ぶたを開け,フィルム室に135フィルムを装填する。フィルムの端を適量引き出してフィルム巻き上げ軸の隙間に差し込む。フィルムの下側の穴(パーフォレーション)を歯車に噛みこませてスプリングモータチャージ用のノブを少しだけ巻いて裏ぶたを閉じる。
 裏ぶたを閉じたら2~3枚空打ちする。このときはレンズキャップを被せるなりして,フィルムが露光しないようにした方がよかろう。(レンズキャップをかぶせるとCdSには光が当たらないのだが,このカメラはこれとは無関係にシャッターが切れる。)
 フィルムの巻き上げが正しく行われているかはいつも気になることである。このカメラの場合,先に述べたフィルムのパーフォレーションで歯車を回し,これでシャッターをチャージする仕組みになっているので,万一フィルムが巻き上げられなかったらシャッターは切れない。したがって,空打ちのときシャッターが切れて直後にジャーという音とともにフィルムが巻きあがれば正常である。
 つぎに,フィルム感度を設定する。もちろん,これは最初に行っておいても構わない。軍艦部の左端にある円盤にASAとDINの数字が表示されている。(写真2参照。)今ではISOで規定されていて,ASA/DINのように表示するらしい。たとえば,100/21というように。結局何も変わってはいないのである。
 レンズ鏡胴の付け根部分に絞りの設定リングがある。自動露出で撮りたいときはAUTOに合わせる。手動で撮りたいときはAUTO以外のそのときの明るさ等に応じて絞りを2.8から22の間のいずれかに設定しなければならない。

写真5.カメラ前面

 AUTOのとき,このカメラはシャッター速度優先である。そのシャッター速度は本体の底のレンズ鏡胴に近いところに一部が出ているダイヤルで設定する。(写真5参照。)設定値は正面から見て鏡胴の左やや下に表示される。通常は1/125秒に設定するのであろう,その数字だけ緑色になっている。
 ファインダーを覗くと上部に赤または緑の○が見える。赤は露光不足,緑はOKということである。
 ところで,AUTOでなくても表示が赤になったり緑になったりする。しかし,これはそのときの設定が

不適正/適正ということではない。

距離は鏡胴先端にある設定リングで設定する。目測で距離を測ってメートルまたはフィートで設定する。この目盛りはファインダーの中の下の方にも表示されるので,ファインダーを覗きながら設定(変更)できる。しかし,レンジファインダーではないのでそのような使い方はできない。確認用であろう。
 撮り終わったフィルムを巻き取るにはぜんまいチャージ用のノブの中央にある突起を押して巻き戻しクランクを回せばよい。

 

6.試写結果
 カメラの手入れがうまくいったかどうかは写してみればわかる。
さっそくフィルムを込めて写してみた。フィルムは過日リサイクルショップで買いだめしておいた富士フィルムの業務記録用カラーネガ。感度(ASA)100だからわたしにはうってつけ。
まず,遠景を撮ってみた。距離設定は∞遠。写真6をご覧いただきたい。
時期は秋たけなわの頃。桜の葉も負けじと紅葉している。まあまあ綺麗に写っているのではなかろうか?発色もそこそこだと思う。遠くの建造物が何となくぎこちなく感じられるが,これはフィルムをスキャナでデジタルデータ化した結果であろう。
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写真6.遠景

 つぎに中距離景。写真7である。4~5 mの距離からだったと思う。画面の大半(右側)はやや暗く,左側が明るいのでコントラストが際立っている。ここでは中央に露出を合わせた。その結果はご覧のとおりである。押せば写るカメラとしては申し分ないと言えよう。

写真7.中距離景

 さて,今度は近景。距離は1.5~2 mほどであったと思う。写真8をご覧いただきたい。
道路工事現場の一場面を撮ったものであるが,お姫様の群れがなかなか可愛らしく撮れた。一番手前のお姫様に紐が垂れ下がっているのに気付かずにシャッターを押してしまった。秋の日差しの柔らかい感じが出ていると思うのであるが,どうだろうか?

写真8.近距離景

 最後に最短距離での描写力を見てみよう。距離は1 m未満だったと思う。写真9をご覧いただきたい。何の木だったかは覚えていないというか,知らないのだが,幹の肌を間近にとらえてみた。やや露出過多のような気がするが,背景の明度(暗さ)を勘案すると平均的な露出になっているのであろう。何よりパララックスの影響が出ていないのが嬉しい。

パララックスと言えば,このカメラのファインダーはちょっと凝った感じがする。対物側の窓はレンズの真上にあるのに接眼側の窓は正面から見て左に変位しているのである。写真1で対物側を,写真4で接眼側の窓をそれぞれ確認できるであろう。つまり,光軸が折れ曲がっているのである。軍艦部を開けていないので詳細はわからないが,プリズムか鏡が置かれているのであろう。機構はともかく,ファインダー対物窓が撮影レンズと左右方向で一致しているのがポイントだろう。こうすることによって,少なくとも左右方向のパララックスは回避しているのである。仕様には表れないこのようなところに設計者のこのカメラに込めた熱意が感じられる。

 

7.おわりに
 モルトを貼り替えたほかはごみ掃除をした程度の手入れしかしなかったが,試写結果は満足であった。意外によく撮れたというのが正直な印象である。
 ここに紹介した作例はいずれもトイラボさんに現像・スキャナによるデータ化をしていただいたそのままを示したもので,トリミングその他の加工は一切していない。

■2013年12月24日   木下亀吉

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