わたしのカメラ三昧 第32回 やっと手に入れたライカ ― Leica IIIc ―

1.はじめに
この有名なカメラについて今更何を話すことがあろう?カメラに興味のない人でも知っているライカ。24×36 mmサイズをライカ判と言っていたが,その元になったカメラ。
さすがにライカはリサイクルショップではお目にかかれない。仮に業者が手にすることがあったとしても,すぐに高値で専門業者に転売されるのではなかろうか?
今回はインターネットオークションで手に入れた。レンズとセットであった。写真1をご覧いただきたい。

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写真1.ライカⅢc,斜め前方から(レンズを伸長したところ)

バルナック型レンジファインダーカメラである。この姿が何とも言えない。めっきにも艶があり,60年以上経過しているとは思えない。さすが,ドイツの製品である。
軍艦部に彫り込まれているシリアル番号をもとにインターネットで調べると,このカメラは1943年から1946年の間に作られたらしい。IIIcである。
さらに調べると,この期間に作られたカメラは2つに分類されるそうである。戦前型はフィルム巻き戻しレバーの取り付け場所が少し高くなっており(段付き),またファインダーの視度調節のレバーに突起があるという。
このカメラは段付きであり,レバーに突起がある。(写真1に2つの特徴が写っているが,おわかりいただけるであろうか?)ということは戦前(戦中)型ということになる。戦前型のほうが価値があるのかどうか知らないが,古いカメラを探し求める者としては何となく得したような気になる。

2.仕様と特徴
まず,このカメラの仕様を確認しておこう。
例によって,間違っているかもしれないことをあらかじめお断りしておく。
(1)名称:ライカIIIc
(2)型式:フォーカルプレンシャッター式レンジファインダーカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:ノブ巻き上げ,ノブ巻き戻し
(5)フィルム計数:手動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:Leitz Elmar f=5cm 1:3.5,3群4枚構成,沈胴式,レンズ交換可
(8)ファインダー:二眼式(透視ファインダー,レンジファインダー)
(9)距離調節:手動(二重像合致式),最短撮影距離1m
(10)露出調節:手動(絞りの目盛り3.5,4.5,6.3,9,12.5,18)
(11)シャッター:横走り布幕式フォーカルプレンシャッター
(シャッタースピード T, B, 2, 4, 10, 15, 20, 30, 40, 60, 100, 200, 500, 1000)
(12)シンクロ接点:なし
(13)電池:不要
(14)質量:約520 g(上記レンズ装着)
(15)概略寸法:約68 H×135 W×38(60) D〔mm〕
(レンズを含む実測値,ただし突起物を含まない)
(厚みの(60)はレンズを伸長したとき)
(16)発売(製造)年:1943年
(17)発売価格:?円
(18)製造・販売元:Ernst Leitz,ドイツ

このカメラに関しては特徴がたくさんあるのだが,ここでは2つだけ取り上げよう。
まず,沈胴式レンズ。
 写真1はレンズを引き出したところであるが,レンズを収納すると写真2のようになる。「カメラは美しくかつ完璧でなければならない」のであるが,付帯条件がある。それは①小さく軽く,②取扱いが簡単であることである。このカメラはレンズを沈胴式にすることによって「小さく」(薄く)を実現している。このアイデアは現在のカメラにも継承されており,コンパクトデジタルカメラは(ほとんど)沈胴式である。

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写真2.ライカIIIc,正面から(レンズを収納したところ)

つぎに,二眼式ファインダー
正直に言うと,小生は最初この二眼式ファインダーの意味が理解できなかった。二眼と言えば二眼レフを想起するのであるが,レンジファインダーカメラに二眼とはどういうことだろう?
それは,ピント調整のためのレンジファインダーと構図を決めるための透視ファインダーとが別々に装備されているということであった。写真3をご覧いただきたい。左の窓がレンジファインダーで,右の窓が透視ファインダーである。
カメラの発達の歴史からすれば,最初に透視ファインダーがあって,その後レンジファインダーが追加されたのであるから過渡期の製品としてこのようになったのだろうと理解した。
しかし,実際に手にしてみるとそう単純ではないことがわかった。レンジファインダーは倍率が高く,被写体が拡大されて見え,ピントを合わせやすいのである。このアイデアも現在のデジタルカメラに活かされている。マニュアルでピント調節のできる仕様のものに,被写体が拡大されてモニター画面に表示される機種がある。

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写真3.ライカIIIcを背面から見る

以上を要するに,現在のカメラに通用するアイデアがすでに戦前に確立されていたということである。

 

3.初期状態の確認と問題点
低速シャッターは粘っているということを承知で買った。実際に手にして確認したところ,まったく駄目ということではなく,1/10~1/30秒は正常に機能しているようである。つまり,1/4秒以下は使えないということになるが,このような低速は実際使ったことがない。つまり,実用上は問題ないということになる。
気になる布幕はちょっと疲れているようだが,何とかまだ使えそう。ピンホールがあるようにも感じられるが,これは試写してみないと何とも言えない。
つぎに,大切なレンズ。一見したところ良さそうであるが,レンズを光源に向けて透かして見るとやや曇っている。「まあ,この程度なら良かろう」と判断した。(←これが甘かった)
以上のほか,カメラ本体とレンズには特に問題はなさそうである。
このカメラには速写ケースが付属していた。革製の立派なケースであるが,さすがにくたびれは隠せない。縫い目が数か所ほころんでいる。

写真4はケースの内側のほころび。メモ紙か何かを挟み込むためのポケットだろうか?両側がほとんど外れてしまっている。

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写真4.速写ケース内側のほころび

ケースの外側には重大なほころびがある。写真5の楕円で囲んだ部分である。この部分は撮影のたびにたわむので縫い目にも頻繁に力が作用するのであろう。内側のポケットはどうでもいいが,この部分はぜひとも補修が必要である。

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写真5.速写ケース外側のほころび

 

4.手入れ
(1)ケースの補修
まず,内側のポケット。
糸で縫い合わせようと思ったが,針が長すぎてうまく行かなかった。仕方がないので接着剤で貼り付けた。実際使うこともないであろうから,この程度でごまかすことにした。

つぎに,外側の補修。
これは針が通るのでボタン付け糸で縫った。慣れない作業なので針を1本折ってしまった。それはいいのだが,折れた先端が行方不明になった。こういうことはあってはならないのだが。

ケースの補修のついでにストラップも付け替えた。写真5と6を比較してもらいたい。本来は写真5のとおり,ストラップの革紐はケースの下を通って紐全体でカメラの重みを支える構造になっている。しかし,重心が偏っているため紐がゆがんでしまい,また三脚取り付けねじが隠れて三脚に取り付けにくい。
そこで写真6のように改造した。革紐の強度にやや不安があるが,格段に格好よくまた三脚との相性も良くなったと思う。
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写真6.補修後の速写ケース

(2)レンズの掃除
第1回目の試写結果は散々だった。全体にモヤがかかったような写りだった。
レンズを外して改めて光に透かして見るとレンズ全体がうっすらと曇っている。――「これくらいならよかろう」と甘くみたのが悪かった。想像だが,光が埃で乱反射するのであろう。

内部に付着した埃は容易には取れない。分解しなければならない。
ちょっと躊躇したが,どうせこのままでは使えないのだから,飾りにでもするのならともかく,壊れても構わない。後玉は取り外し方がわからなかったし,汚れもそれほどではないようだったので,取り敢えず前玉だけを外すことにした。
レンズ前面の円環ナット(と言うのだろうか?)を回すと,そのナットは簡単に外れたが,肝心のレンズが外れない。かなり衝撃を加えたがそれでも外れない。
詳細に観察するとレンズの周りに黒い樹脂製のパッキンのようなものが邪魔していることがわかった。それをピンセットでやや強引に取り除くと,レンズは簡単に外れた。写真7をご覧いただきたい。
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写真7.レンズの前玉

レンズにはマジックインクでPと記しているが,これはレンズの向き(表裏)をはっきりさせるためである。(Pという文字に特別な意味はない。AやCなどの文字は裏表の区別がつかないので不適当。)
さっそく前玉の内側と中玉の対物側を無水アルコールで拭った。

 

5.使い方

(1)レンズの装着,伸長
このカメラのレンズは沈胴式である。したがって,撮影する前にレンズを引っ張り出してやらねばならない。実はこれを忘れたことがあり,何を撮ったかまったくわからないような結果を得た。
レンズは引っ張って右に回す。少し回せば止まるのでその位置で固定する。
収納するときは左に少し回して押し込めばいい。ただし,事前に距離を無限遠の位置に設定しておく必要がある。
また,レンズを外したり,装着したりするときは距離を無限遠に設定してレンズを引き出しておかなければならないとのことである。

(2)フィルムの装填
このカメラではフィルムを装填するに際してちょっと加工が要る。写真8をご覧いただきたい。36枚撮りは通常の状態である。もう一方の27枚撮りがこのカメラに装填するために施した加工である。長さ約10 cmほど幅を狭くしてやらなければならない。
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図8.フィルムの加工

テレホンカードを使えばこのような加工は不要らしいが,具体的にどのようにしたらいいのかわからない。そこで,今回そのことを試してみたら,案外簡単だった。以下,各場面の写真に沿ってその過程を説明しよう。
写真9 フィルムの先端を巻き取り用スプールの隙間に挟み込む。また,カメラのフィルムの通る隙間にテレホンカードを挿入する。
写真10 フィルムをテレホンカードと筐体の背面との間に差し込む。
写真11 テレホンカードを抜いてフィルムを巻き上げる。
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写真9.テレホンカードを挿入・フィルムセットを準備

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写真10.フィルムセットを差し込む

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写真11.テレホンカードを抜いてフィルムを巻き上げる

(3)シャッター速度の設定
シャッター速度はフィルムを巻いてから設定する。そうしないと合わせる位置がわからないのである。
――ということになっているが,小生は設定ダイヤルの下に黒い点をつけていて,フィルムを巻き上げる前はこの点に合わせることにしている。写真12をご覧いただきたい。これでほとんど問題なく合わせられる。(写真12では1/100秒に合わせている。)巻き上げた後はダイヤルの左側にある→に合わせる。
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写真12.シャッター速度設定位置

(4)三脚取り付けねじ
ライカのカメラには三脚取り付けねじの仕様が1/4インチのものと3/8インチのものがある。前者は細ねじ,後者は太ねじと呼ばれているらしい。今でも3/8インチのものが使われているのかどうか知らないが,普通の人が使うのは1/4インチであろう。インチはわれわれに馴染みがないのでメートルに換算すると,1/4インチは約6.4 mm,3/8インチは約9.5 mmである。
実は小生は最近まで現行の三脚取り付けねじはメートルの6 mm(=M6)だと思っていた。さらに白状すると,恥ずかしながらISOねじはすべてメートルねじで,インチ系は存在しないと長い間思っていた。その背景にはISO(国際標準化機構)ならSI(国際単位系)に基づくはずだという思い込みがあった。ご存知のとおり,SIではMKSを採用している。つまり,メートル・キログラム・秒である。長さはメートルなのである。
ところで,1/4インチねじの三脚に取り付けるための変換アダプタが用意されている。

(5)シャッターボタン
このカメラのシャッターレリーズボタンは太い。しかも,中央にねじ穴がない。したがって,通常の外付けタイマーやレリーズケーブルはそのままでは取り付けられない。かぶせ式というのがあった。今では新品はもう手に入らないと思うが,もしかしたらまだ取り扱っている店があるかも知れない。小生は10年ほど前,変換アダプタを買っておいたのでそれを使うことにしている。今回の試写でタイマーを使ってみたが,快調であった。

 

6.試写結果
本来なら最初の試写結果を載せるべきかもしれないが,結果を正確にお示しする自信がないので省略させていただく。以下の写真はレンズの汚れを除去した後の2度目の試写結果である。
フィルムはフジカラー100,24枚撮りを使った。
まず,逆光での撮影結果を写真13に示す。午前8時頃であったので,太陽はかなり低い位置から照りつけていた。フードを装着して撮ったのであるが,結果はご覧のとおり惨憺たるものである。フレアと言うのだろうか?
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写真13.逆光での作例

ほぼ同じ場所で,今度はカメラが建物の陰になるような位置で撮ってみた。写真14である。コントラストの強い写真が得られた。ほんのちょっとした工夫で結果が大きく変わることを改めて実感した。
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写真14.カメラを日陰に退避させた場合の作例

つぎは最短距離。
自宅近くの有名なお寺に行った。身近な存在なのでつい疎遠になるのであるが,今回も5~6年ぶりに行ったような気がする。付近の様子もかなり違っていた。
試写結果は写真15のとおりである。お百度石であるが,まあまあの出来ではなかろうか?背景も程よくボケている。もっとも,この距離(約1メートル)になると背景がボケるのは当然だろう。
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写真15.最短距離での作例

最後に遠景を。写真16である。いつもの山に登って頂上から南方向を撮ってみた。遥か向こうにかすかに連山が写っているのだが,お分かりいただけるであろうか?残念ながらこのカメラの,いやレンズの分解能の限界だろう。
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写真16.遠距離での作例

参考までに同じ位置からコンパクトデジタルカメラで撮った写真をお見せしよう。写真17である。発色・色合いに関してはともかく,遠方の描写力については歴然としている。
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写真17.デジカメでの作例

以上の試写結果から言えることは,このカメラのレンズは逆光には向いていないということである。そもそも,このレンズはコーティングされていないようなのである。
フレアを防ぐにはフードを使うことも重要だが,逆光で撮影しないことが最も確実な解決法であろう。

7.おわりに
「え?ライカを持っていないの?」と何度か言われたことがある。その疑問はたしかにうなずけるものがある。亀吉(=カメラ気違い)を自認しながらライカを持っていなかったのである。
やっと手に入れたライカ。これからも楽しませてもらおう

■2013年10月7日   木下亀吉

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