わたしのカメラ三昧 第6回 ボルタ判フィルムカメラ 「MEISUPII-35J」

MEISUPII-35J

 近くのリサイクルショップの隅にこのカメラがあった。革製のようなケースに収納されていたが,薄汚れてみすぼらしい感じがした。
取り出してみると,軍艦部にMeisupiiJと刻印されている。以前からその存在を知ってはいたが,実物を見るのは初めて。不思議な名前のカメラである。
 Meisupiiは何と読むのだろう?一般にはメイスピイと呼ばれているが,果たしてそれが正しいのかどうか。一体何語だろう?どんな意味があるのだろうか?Meisupiという機種もあった。それとの関係は?
東郷堂からはほかにMeikaiというカメラがあった。両者にはMeiが共通する。すると,ユニークな部分はkaiとsupiiである。一方,Meikaiは元Meikaだったらしい。Meisupiというカメラもあったことからすると,Meikaの語尾にiを付加してMeikaiに改称したのにあわせてMeisupiにもiを付けてMeisupiiに改称したのだろうか?もしそうだとしたら,なぜ?いきなり名称の議論にはまり込んでしまったが,とにかくまずはその外観を写真1でご覧いただきたい。

写真1.Meisupii-35Jの外観

外形は意外に小さい。使用フィルムはボルタ判と呼ばれ,その幅は35 mmである。したがって,今の135判と実質的には同じである。それなのにそのカメラの大きさは後のコニカC35とかオリンパス35DC並みである。もっとも,フィルムを巻いてシャッターを切る機能のほかには,シャッター速度のBとIの切り替え,それに絞りは8と11の切り替え機能しかない。
今のトイカメラの大先輩に相当するカメラであったろうが,外観はなかなかしっかりした印象を受ける。張革は硬化してボロボロになっていたので思い切ってすべてはがしてしまった。張り替えようと思ったのであるが,内部の金属板が黒く塗装されているのでこのままでも違和感はない。

写真2はカメラの背面である。

残念ながら,こちらは錆がひどく,張革を剥ぎ取ったらご覧のような痛々しい状態となった。しかし,光線漏れもないし,赤窓の開閉にも支障がないので当分このまま使うことに決めた。(多分,永久にこのまま放置されるであろう。)
写真1でも写真2でも軍艦部の上に赤くJと表示されているのがわかるだろうか?Meisupii Jは最も初期の型らしい。

写真2.Meisupii-35Jの背面

写真3は速写ケースである。かなり草臥れてはいるが茶色の立派な革製である。(本物の革ではないかも知れない。)乾燥してかさかさになっていたので汚れを拭き取った後,登山靴に塗布する栄養クリームを摺り込んだ。
写真3.速写ケース

では,このカメラの仕様をまとめておこう。現物を見てもわからない項目はインターネットのお世話になった。間違いがあるかもしれないことをあらかじめご承知置き願いたい。(1)名称      MEISUPII-35J
(2)型式      35 mm固定焦点レンズシャッターカメラ
(3)適合フィルム  ボルタ判
(4)フィルム送り  ノブ巻上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数  赤窓式
(6)画面寸法    24×36 mm
(7)レンズ     単玉f8
(8)ファインダー  素通し(?)
(9)焦点調節    固定(約3m?)
(10)露出調節    手動,絞りf8,11
(11)シャッター   ロータリ(?): B,I(約1/100秒?)
(12)シンクロ接点  なし
(13)電池      不要
(14)質量      180 g(実測)
(15)寸法      約72H×108W×59D(実測)
(16)発売年     1951(昭和26)年
(17)発売価格    ?
(18)製造・販売元  東郷堂(?)

 特徴を一言でいえば,「ボルタ判フィルムを使い,固定シャッター速度で固定焦点レンズを搭載したトイカメラ」ということになろうか?
さて,このカメラのレンズは写真1でもお分かりのように傷が入ってすりガラスのようになっているが,その他の機能には異常がないようである。ただし,シャッター速度は正しいのかどうか判断できない。そもそも,本来の速度が不明である。
試写するためにはフィルムを何とかしなければならない。ボルタ判フィルムはすでに製造が終了して久しいとのことである。
ボルタ(Bolta)判フィルムは幅が35 mmであるから,現在普通に手に入る35 mmフィルムすなわち135判フィルムが利用できるはずである。残念ながら,寸法上の問題からパトローネに入ったままでは装填できない。その適用方法としてつぎの2つが考えられる。

(1)裏紙を用意して135判フィルムと重ねてボルタ判用スプールに巻き替える
(2)裏紙は使わずに135判フィルムをボルタ判スプールに巻き替える

上記(1)ができればそれはボルタ判フィルムそのものであるから理想的である。しかし,裏紙を用意することと暗箱の中で135フィルムと重ねて巻き替える面倒な作業が必要になる。一方,上記(2)は暗箱の中での作業はなくならないが,裏紙がないだけ簡単になる。しかし,カメラ裏蓋の赤窓を塞がなければならないし,そうすると巻上げ量がわからなくなる。また,撮影枚数もわからなくなる。フィルムの装填・取り出しも暗箱の中でしないといけない。いや,もっと大切なことはフィルムを巻き上げるとき傷が付くのを防ぐ対策を講じなければならないということである。
 いろいろ悩んだ末,(1)の方法を採ることにした。120フィルムの裏紙を35 mm幅に裁断し(これが結構気を使う),それに赤窓から見える位置に40 mmピッチで0から12までの数字を記入した。巻き替え作業は意外に簡単であった。
 このような半分手作りのようなフィルムのゆえ現像のことが気になった。幸いトイラボさんが請け負ってくださるということで安心して試写に臨んだ。
 最近は晴天が少ないのが悩みである。写真は何と言っても光を記録するものであるから,あふれる陽光が欲しい。
 このカメラはピント調節が不要である。いや,できないのである。するとピントがどこに合っているかが気になる。写真4は生垣を撮ったものである。写真中央やや右あたりにピントが合っているようである。その距離はおよそ3 mであろうか?ポートレートなどに適した妥当な距離といえよう。

写真4.生垣

 また,このカメラには絞りが2つしかない: f8とf11。話は前後するが,この絞り値は曇りと晴れを意識したものであろう。するとシャッター速度を100分の1秒程度とすればフィルム感度は100となる。そこで,感度100のフィルムを使ったのである。


写真5.有名なカメラ店(絞りf8)

写真5および写真6はそれぞれ絞りを8および11に設定して撮ったものである。この日も曇り空で,時折雲の切れ目から太陽がのぞいた。極力光の強いときを見計らってシャッターを切ったのであるが,2枚の写真には差がほとんど見られない。強いて言えば,絞った写真の方が明るい画面になっている。不可解であるが,その瞬間の光の強さに違いがあったのではなかろうか?(もしかしたら,絞りの記録が逆かも?)
写真6.有名なカメラ店(絞りf11)

 以上の結果から,このカメラは遠景撮影には向かないし解像度には不足が感じられるが,普通のスナップ写真用トイカメラとしては今でも通用すると思う。一番驚いたのは画面周辺に歪と光量不足のないことである。写真4~写真6をそのような目で再度ご覧いただきたい。


写真7.フィルム面の曲線

 このカメラは単玉という最も簡単なレンズを使用している。そのため歪が心配になる。亀吉は光学系には弱いのであるが,写真7を見るとフィルムガイド面が曲線を描いていることがわかる。これで歪を補正しているのであろう。たしか,フジペットもこのような曲面を採用していたと記憶しているが,得られた写真は周辺に歪があった。

往年のトイカメラとはいえ,なかなか侮れないものがある。

■ 2012年1月11日 木下亀吉

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