わたしのカメラ三昧 第48回「短命に終わったオリンパスの一眼レフFTL」

1.はじめに
オリンパスのOMシリーズの系譜を調べたとき,M/OM-1の発売前にFTLという機種があったことを知った。それからFTLが気になり,ついにインターネットオークションで手に入れてしまった。不具合品ということで2,100円であった。もちろんレンズ付きである。まずは写真1でその外観をご覧いただきたい。どっしりとした貫禄がある。メッキも悪くない。
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写真1.オリンパスFTLの外観

FTLは非常に短命であったということである。また,何一つ特徴のないカメラであったという評価である。本当にそうか?実際に手に取って扱った感触を報告したいと思う。

 

2.仕様と特徴
マイナーな存在というのは本当だろう。わたしの蔵書の中にもこのカメラに関する記事は載っていない。オリンパスがインターネット上に公開している記事と使用説明書を参考にまとめた仕様を下に示す。
(1)名称:オリンパスFTL
(2)型式:35ミリフォーカルプレンシャッター式一眼レフカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:レバー巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:自動復元順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ(付属品):プラクチカマウント,フランジバック42mmねじ込み式,
定位置ロック装置付Olympus F.ZUIKO AUTO-S 1:1.8 f=50mm
(8)ファインダー:ペンタプリズムファインダー 0.92倍(標準レンズ)
(9)距離調節:手動(最短撮影距離=0.4 m)
(10)露出調節:手動(CdS露出計内蔵),f1.8~16
(11)シャッター:フォーカルプレーンシャッター,B, 1~1/1000秒
(12)シンクロ接点:X/FP切り替え式,ホットシュー装備
(13)電池:水銀電池H-D型(1.3V)
(14)概略質量:840 g(1:1.8, 50mmレンズ付き実測)
(15)概略寸法:140 W×90 H×80 D mm(1:1.8, 50mmレンズ付き実測)
(16)発売(製造)年:1971年
(17)発売価格:32,500円(本体のみ)
(18)製造・販売元:オリンパス

特長は何もないということだが,一つだけ挙げるとすればそれはレンズマウントの工夫であろう。
このカメラのレンズの規格はM42が基礎になっている。しかし,ご存知のとおり,M42レンズはねじ込み式なので最終的な位置(角度)を一定に保つことができない。このカメラではそれを可能にしたのである。
その仕組みを言葉で説明するのは難しい。とにかく,レンズをねじ込んでいくと,カチッと音がして定位置(角度)で止まって固定されるのである。
一般のM42レンズは,装着はできるが絞りの指針が連動しない。つまり,露出計の針は正常に動いてもそれに絞りの指示を重ねることができないのである。完全マニュアル機として使うほかない。
なお,使用説明書にはフィルムの「イージーローディング」も特徴として掲げているが,説明を読んだり,実際に使ってみたりした限りでは何がイージーローディングか理解できない。少なくとも,キヤノンのクイックローディングとはまったく異なる。

 

3.初期状態と問題点
巻き戻しノブが欠損していることはオークション入札時点で承知していた。
つぎに,気になるシャッター。フィルムを巻き上げ,シャッターボタンを押すと「シュッ」という音はするが,一眼レフ特有のミラーが跳ね上がる「カシャン」という音がしない。レンズを外して内部を見るとシャッター幕は動いているが,ミレーは上がったままである。もっとも,シャッター幕の動きは不完全である。
また,電池室の中には激しく腐食した水銀電池が納まっていた。それをVartaの電池に交換したが,露出計は動かなかった。
レンズは歳相応に汚れている。しかし,撮影に特別支障があるとは思えない。

以上の鑑定から,問題点はつぎのとおりに決定した。

(1)巻き戻しノブ欠損(致命的)
(2)シャッター・ミラー不動(致命的)
(3)露出計不動
(4)ミラークッション劣化
(5)モルト劣化

 

4.手入れ・修理
オークションで入札するとき,巻き戻しノブが欠損していることは承知していたが,正直言って裏蓋を開けることができないということまでは連想できなかった。(このカメラは巻き戻しノブを引き上げることで裏蓋をあけるのである。)したがって,カメラの手入れのためにはぜひとも巻き戻しノブが必要である。堂々巡りになるが,そのためにも裏蓋を開けなければならないのである。
まず,トップカバーをはずした。この作業は比較的簡単であった。(写真2参照。)
ただし,巻き戻し軸と同軸のスイッチの下にあるねじははずす必要がなかった。これはスイッチのノッチ機構(スイッチを回すとカチッと音がして所定の角度で停止する)のための金属ボールを押さえつける板バネを固定するものである。最初それがわからず,トップカバーを開けたとき電気接点のようなものが落下し,しかもその本来の位置がどうしてもわからなかったので一時は修復不可能とあきらめたものである。(分解するとき,この直径0.5mmほどのボールを失くさないようにくれぐれもご注意を!)
さて,トップカバーをはずして裏蓋を引っかけている金具を押し上げると裏蓋は開いた。(実は,そこに至るまで紆余曲折があった。)中にフィルム巻き取り軸が転がっていた。
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写真2.軍艦部の内部

ねじの合う巻き取りノブをジャンク箱の中から探して取り付けた。再度写真1をご覧いただきたい。ちょっと格好が悪いが取り敢えず問題(1)は解決したとしておこう。
つぎにシャッター不動の問題。これが一番重要である。
初期状態のところで書いたとおり,シャッター幕は不完全ながら一応動くのであるが,ミラーが上がったままなのである。いろいろ調べているうちにシャッタースピードを高速(500分の1秒とか1,000分の1秒とか)にするとミラーが落ちた。つまり,ミラー駆動機構に致命的な故障があるわけではない。
底板を外して歯車などの機構部に注油してシャッターを繰り返し,繰り返し動作させてみた。しかし,回復しない。すると,問題はシャッター制御部にあることになる。その制御部はミラーの下とセルフタイマーレバーの後ろあたりにあるはずである。
分解すればいいのだが,一眼レフは難しい。恥ずかしながら分解したら組み立て直す自信がない。
そこで思い切ってベンジンをふりかけてやり,それでも駄目なら分解しようということに決めた。専門家からしたらとんでもないやり方だろうが,気にしないことにする。何でもできるのが素人の強みではないか?

ベンジンはカメラの底からと,マウント部分からの2方向から注入した。すると,どうだろう?快調に動き出したではないか?フィルムを巻き上げ,シャッターボタンを押す。この操作を,シャッタースピードを変えながら何回となく繰り返した。すると,徐々にではあるがうまくミラーが落ちない場合が出てきた。ベンジンの蒸発とともに潤滑作用が低下したのであろう。

再度ベンジンで洗浄した結果,完璧に動くようになった。
しかし,やはり時間の経過とともに
① 60分の1秒でミラーアップの状態になることがあり,また
② 500分の1秒以上ではシャッター幕がうまく動かなくなってしまった。

こうなると原因ははっきりしている。油切れであろう。ベンジンで洗浄した後しばらくうまく動作するのはベンジンの濡れが残っているためであるに違いない。
注油するためには分解しなければならない。これは先述のとおり難しい。取り敢えず,60分の1秒と500分の1秒以上を使わななければいい。
中途半端だが,問題(2)にはこれ以上立ち入らないことにする。
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写真3.カメラの底部

露出計不動であるが,バッテリーチェックでも針が振れない。すると,まず確認しなければならないのは電源(電池)回路の状態である。
底板を外して,電池ホルダーの取り付けねじを外すと緑の電線がはずれていた。(写真3参照。)はんだ付けすればいいのだが,電極の材質のためかなかなかつかなかった。電線も錆びがひどく,そのままでははんだ付けが難しかったので新しい電線を継ぎ足した。
何とかしてはんだ付けに成功し,電池を入れてスイッチをバッテリーチェックにすると針が大きく振れた。また,ONの位置で明るい方を向くと針が振れた。露出計回路は一応動き出した。電池はとりあえず水銀電池と外形の同じVartaを使った。
ところで,この作業の後の組み立てが大変であった。
言葉では説明しにくいのであるが,フィルム感度・シャッター速度の設定と露出計との連動の調節である。フィルム感度・シャッター速度設定軸と露出計メータとは糸で連結されている。これを適正な相互関係に固定しなければならない。試行錯誤で調整した。(別の信頼できるカメラで電球を見たときの絞りに一致するように合わせた。)かなり面倒な作業であったが,振り返って考えると,このことによってアルカリ電池で測光できるように較正されたということになる。つまり,電源として1.33Vの水銀電池が必要だったのが,1.5Vのアルカリ電池または酸化銀電池が使えるようになったのである。OM-1の場合のようなショットキーバリヤダイオードは不要である。
ミラークッションの劣化については,特に重大な支障になるとも思えない。面倒だから当面このままとした。ただし,ミラーが跳ね上がったときの音は大きい。
最後にモルトの劣化対策。これはいつものことであるが,習字に使うフェルト製の下敷きを切って両面テープで貼りつけた。

 

5.試写結果
ASA100の36枚撮りフィルムを装填した。
通勤の行き帰りと昼休みに職場の近くで撮影した。幸い,当日は珍しく晴れた一日であった。何の脈絡もなく気ままにシャッターを押した。露出は内蔵露出計の指示に従った。
電車から降りていつも歩く道を撮った。写真4をご覧いただきたい。分類上は一応遠景としておく。まあ,特に問題のない写りではなかろうか?露出計の調整は問題ないようだ。
遠くの空が何となく不自然な気がする。これはスキャナでデジタルデータ化したためであろうと勝手に決めつけている。
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写真4.遠距離

しばらく行くと,民家の庭先に芙蓉のような花が咲いていた。ちょっと失敬!ということで1枚撮った。写真5である。これは至近距離である。レンズ鏡胴の距離調節を最短にして,カメラを前後させてピントを合わせたものである。背景もボケていい感じに写っている。朝日があたって,花びらはやや露出過多気味であろうか?この辺の微妙な出来具合は現像してみなければわからない。
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写真5.至近距離

民家を離れて大通りに出た。車道が広い分,歩道も広い。ふと足元を見るとマンホールが目に付いた。立ったままの位置で一枚撮ってみた。首をかしげたので距離は1.5メートルほどだろうか?写真6をご覧いただきたい。たまにはこういう無機質な被写体もいい。無機質ながらいい色合いだと思うが,どうだろうか?
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写真6.近距離

昼休みカメラを首にさげて外に出た。工事中の道路で重機が目に付いた。このような被写体は構図が難しい。全体を撮ったら何となく様にならない。部分を撮りたいのだが,どの部分をどの角度で撮ったらいいかがわからない。とにかく撮ったのが写真7である。
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写真7.中距離

これも人工物であるが,写りはそこそこだと思う。しかし,背景もかなり鮮明に写ってしまった。被写界深度を浅くしたかったのであるが,何しろ500分の1秒以上の高速が使えない。当日は晴れていたから,1/125秒f11が適正値である。1/1000秒が使えたら絞りは3段階開いた5.6に設定できる。シャッター速度の制約がこのような場合に出てくる。もっとも,ごく普通に撮るのなら何の問題もないことは上の写真を見ればわかるであろう。
帰宅途中民家の玄関先に寝転ぶ猫を発見した。カメラを構えて近づいても逃げない。しかし,一応こちらの動きを警戒しているようだ。目玉がきょろきょろ動いている。
露出を決め,ピントを合わせてシャッターボタンを押した。「カシャン!」と鳴ると同時に猫は消えうせた。やはり,ミラークッションの劣化のためもあって音が大きいのだろう。写真8を見ると猫の両足がややボケている。これは猫が逃げ出すまさにその初めの瞬間を捉えたのだろうか?
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写真8.おまけ

 

6.おわりに
何の特徴もないカメラと言うことだったが,結構楽しく撮影できた。500分の1秒以上と60分の1秒以上が使えないのが残念であるが,通常の使用には大した制約にはならない。サイズ的には叶わないが,そのほかのことではOM-1と大差ないのではなかろうか?

カメラは一応その機能を果たすことが確認できたので,近いうちに本格的に分解してみようと思う。そして,シャッターが完全に復旧したら続編として公開したい。もし,1年ほど経ってもその記事が載らなければ失敗してオシャカになったと思っていただいて差支えない。
ところで,FTLとはどういう意味なのだろうか?いろいろ調べてみたが結局わからなかった。

余談になるが,参考にした使用説明書の中に面白い記述があった。
巻き上げレバーの1回の操作でつぎの仕事をしている:
①フィルムが1コマ分巻き上げられ,
②フィルムコマ計数が1コマ分進み,
③シャッターがセットされ,
④ミラーが作動開始状態になり,
⑤自動絞り機構が準備され,
⑥二重巻き上げや二重露光が防止される。

――ということである。

ついでにわたしがシャッターを押したとき一瞬のうちに行われるたくさんの仕事を下に掲げよう:

①絞りを設定値まで絞り込むと同時にミラーを跳ね上げ,
②シャッターの先幕を走らせてフィルムの露光を始め,
③シャッター速度設定時間経過したら後幕を走らせて露光を終わらせ,
④絞りを開放状態にすると同時にミラーを下す

いやはや,一眼レフはまったく忙しい。

参考文献
(1)オリンパスの歩み「カメラの歴史」http://www.olympus.co.jp/jp/corc/history/camera/om.cfm
(2)「OLYMPUS FTL使用説明書」,オリンパス光学工業,1972(?)>

■2014年9月26日   木下亀吉
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