わたしのカメラ三昧 第43回 「ペンタックスSL」

1.はじめに
行きつけのリサイクルショップで過日ペンタックスSPを見つけた。レンズも革ケースもそろっていた。もちろん,外観は綺麗でシャッターもきちんと切れた。「買おうかな?」と思いながらも「電池を使う」「一眼レフ」ということにためらいを感じ,買わずに店を出た。
しかし,帰宅してからそのカメラが気になり出した。翌週行ったのだが,すでになくなっていた。
その後ペンタックスSPのことをそれとなく調べているうちに,ペンタックスSPから露出計をなくした型が出ていたことを知った。ペンタックスSLである。
ペンタックスSLはいわば廉価版として登場した訳でたことによる故障発生確率の低下だけでなく,さらに堅牢化が図られたということである。もちろん,電あるが,単に廉価版というにとどまらず機構的な改良も加えられていたという。つまり,露出計部分を省いたことによる故障発生確率の低下だけでなく,さらに堅牢化が図られたということである。もちろん,電池も不要。また,ペンタックスSLはペンタックスSVの後継機という見方もできるそうである。
pentax_sl1
写真1.正面からの外観

困ったときのインターネットオークション。運よく手に入れたのが写真1に示す個体である。革ケースが付属して1,000円であった。残念だが,レンズキャップはついていなかった。

 

2.仕様と特徴
ここでPENTAX- SLの仕様を確認しておこう。インターネットで調べた結果に自分なりの判断を加えたものを以下に示す。間違いの可能性をご承知おき願いたい。
(1)名称:PENTAX-SL
(2)型式:横走り布幕製フォーカルプレンシャッター一眼レフカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:レバー巻上げクランク巻き戻し
(5)フィルム計数:自動復元順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:M42レンズ,付属レンズはSuper-Takumar 1:1.8, 55mm
(8)ファインダー:ペンタプリズム固定,クイックリターンミラー
(9)距離調節:手動(付属レンズの最短撮影距離45 cm)
(10)露出調節:手動(付属レンズの絞り1.8~16)
(11)シャッター:横走り布幕製フォーカルプレンシャッター,B, 1~1/000秒
(12)シンクロ接点:X, FPの2つ
(13)電池:不要
(14)概略質量:815 g(上記レンズを含む実測値)
(15)概略寸法:90 H×140 W×85 D(上記レンズを含む実測値)
(16)発売(製造)年:1968(昭和43)年
(17)発売価格:23,000円(本体のみ)
(18)製造・販売元:旭光学工業(後のペンタックス)

特徴は何だろう?何もないのが特徴ではなかろうか?そのためもあって,外観はすっきりしている。
シンクロ接点が2つ用意されている。わたしの持っているOM-1だとコネクタ1つで,XとFPはスイッチで切り換えるが,このペンタックスSLにはスイッチがなくてコネクタが2つ出ているというわけである。スイッチがない分故障確率が低下する。
pentax_sl2
写真2.ペンタックスSL(左)とSV(右)

なお,外観に関して先行する機種と比較すると,このカメラにはいわゆる「エプロン」がない。写真2をご覧いただきたい。エプロンがお分かり頂けるであろう。人によっては,このエプロンを非常に好ましく思っているらしい。わたしとしてはいずれの意匠もいいと思うが,強いて言えばエプロンのある方が古めかしく堅牢に感じられる。

 

3.初期状態
出品時の説明ではレンズの先端に打ち傷・変形があるということであった。わたしはこれをフィルタ部分のみの損傷とみていた。果たして,現物を見るとそのとおりであった。そこで,フィルタを強引に取り外したところ無傷なレンズとなって現れたのである。
以上のほかは特に問題となるところはなさそうである。シャッターは低速から高速まで切れているようだし,音もいい。レンズもシャッター幕も綺麗。(写真3参照。)
ただ一つ,フィルム巻き戻しクランクがふらふらしているのが問題と言えば問題である。

pentax_sl3
写真3.フィルム室とシャッター幕

 

4.手入れ・修理
巻き戻しクランクのねじを外し,クランク部分をばらしてみると,ばねの取り付けが妙な具合になっていた。言葉では説明しにくいが,これを正常と思われる状態にして組み立てると良くなった。
ただ一つの問題は解決した。

 

5.使い方
このカメラは非常に基本的な構成であるので,取扱いに関しては特筆すべきことはない。
フィルムを装填して巻き上げ,シャッター速度と絞りを選択したのち,被写体に向かってファインダーを覗きピントを合わせてシャッターボタンを押すだけである。露出設定は手動であるから,別に露出計を携行したほうがよかろう。
巻き上げ軸の周囲にあるリングを回してフィルム感度を設定しておこう。(写真4参照。)ただし,これは単なるメモであって,これを怠ったからと言って写真の出来具合が変わるものではない。
セルフタイマーは本体前面向かって左側にある。再度写真1をご覧いただきたい。多くのカメラの場合と同じ位置である。この点,先行するペンタックスSVとは異なる。(SVのセルフタイマーはフィルム巻き取り軸の周囲にある。)
余談だが,ペンタックスSVのVはタイマーを表すらしい。何でもドイツ語の頭文字ということだ。
では,SLのLは何を意味するのか?調べてみたがわからなかった。SPから露出計をなくしたのだから~lessのLだろうか?つまり,Light Meter-lessであろうか?
pentax_sl4
写真4.軍艦部

 

6.試写結果
例によって業務用カラーネガフィルム36枚撮りを装填して試写に臨んだ。ASA感度は100である。
今回は珍しく晴天に恵まれた。近くのまちで郷土芸能祭なるものが催されるというので出かけた。
駅を降りてしばらく歩く。道路わきの植木をまず1枚。写真5である。距離は2メートルほどであっただろうか?赤い実が綺麗だった。
pentax_sl5
写真5.近距離景

芸能祭を撮ろうと目論んでいたのだが,会場は暗くとても撮れるものではなかった。また,カメラを持ってうろうろできるような状況でもなかった。何人かの人がデジタルカメラを抱えて出演者を撮っていたが,多くの場合観客の邪魔になった。
さて,芸能祭を見終わって,会場を出ると小さな犬の置物が目に付いた。最短距離で撮ってみた。写真6をご覧いただきたい。背景もほどよくボケていい感じに写っている。置物の色がいいのか,光の当たり具合がいいのか,犬達が輝いて見える。
pentax_sl6
写真6.最短距離景

商店街に入ってみた。がらんとしている。写真7をご覧いただきたい。
ここは私が少年の頃しばしば訪れた場所である。当時は通路に人が多く,歩くとき気を付けないと他の通行人とぶつかるほどであった。それがこのような状態になろうとは,当時は夢にも思われなかったことである。
それはともかく,勘で設定した露出も適正であることがわかる。
pentax_sl7
写真7.遠景(?)

商店街を出て旧国鉄の駅に行き,電車に乗った。いや,電車ではない。ディーゼルカーだ。この付近はまだ電化されていない。1輌編成なので列車とも言えない。
1時間足らずで自宅近くの駅に着いた。ホームに降りて,遠ざかるディーゼルカーを撮った。写真8である。自然の色もいいが,このような人工的な色(車体の塗装)もたまにはいい。いつの間にか曇っていた。
pentax_sl8
写真8.中距離景

出来の悪い写真もお見せしよう。写真9をご覧いただきたい。至近距離で菜の花を撮ったもの。背景を思い切りぼかしたいと思ってシャッター速度を最高速の1000分の1秒にしたと記憶している。(わたしは撮影条件をほとんど記録しない。また,至近距離なら何も1000分の1秒にしなくても背景は充分ボケよう。1000分の1秒を試してみたかったのも理由の一つ。)
結果はご覧のとおり写真の右側が黒くなってしまった。当初これは手か速写ケースなどがレンズの一部にかかったためだと思っていた。しかし,冷静に考えるといずれも解釈が難しい。
結局のところ,これはシャッターの不良であろう。このカメラは横走りフォーカルプレンシャッターなので2枚の幕の動きが適切でなければ画面の左側または右側が露出過多とか不足とかになるであろう。精密な測定が必要だが,このカメラは1000分の1秒では使えないということになる。残念だが今のところ修理する自信はない。
pentax_sl9

写真9.最高速撮影

 

7.おわりに
やはり一眼レフはいい!カシャンという音や外観はともかく,ファインダーを通して被写体を見つめ,きちんと構図とピントを定めてシャッターボタンを押すと,「自分のこの手で撮った」という実感がわく。パララックスがないという安心感がある。
わたしはカメラを選ぶとき,ファインダーとマニュアルフォーカスの機能に注視する。茎が細く,花弁の小さな花などを撮るとき,オートフォーカスでは不安なのである。(わたしの技量不足もあろう。)
わたしもデジタルカメラを持っているが,オートフォーカスでは何枚も撮る。その中にいいのがあるかも知れないという期待からだが,多くの場合失望する。
また,マニュアルフォーカス可能というデジタルカメラも持っているが,ピント合わせがやりづらい。今のカメラはオートフォーカスが基本になっているので,ファインダーもそれに合わせて明るく作り,ピントの確認の難易などは二の次らしい。
また,ピントリング(ダイヤル)もロータリエンコーダを使っているのか,いつまで回しても止まらない。したがって,ピントの合った点を見過ごしても気づかないでいつまでも回し続けることになる。
カタログの記載方法も変である。フォーカスに関する記述はまず「オートフォーカス」欄に分類され,その中にフォーカスモードとしてマニュアルフォーカスが載っている。論理的に変だと思うのだが,メーカ側は何とも思わないのだろうか?
話が長くなってしまったが,マニュアルフォーカスに優れたデジタルカメラを探したところ,ペンタックスのK-7という機種に行き着いた。すでに生産中止品であったので中古品を手に入れた。
実際使ってみるとマニュアルフォーカスに関してはわたしの要求どおりであった。大きくて重いのが難点だが,パララックスもないし大満足である。
銀塩カメラの記事がデジタルカメラの話で終わってしまった。

■2014年5月6日   木下亀吉
「わたしのカメラ三昧」に掲載されているすべての画像・文章は作者の木下亀吉様が所有しています、許可無く無断で複製・配布することはご遠慮下さい。