わたしのカメラ三昧 第26回 「Yashica Half 17(ソーラー電卓の光電池を移植)」

1.はじめに
所用で隣の県に赴いた。その帰途,久しぶりに行きつけのリサイクルショップに立ち寄った。カメラや時計などの精密機械を陳列した売り場の一角のごみ箱のような容器の中にハーフサイズカメラが見えた。取り出して見るとヤシカのハーフ17であった。
写真1をご覧いただきたい。レンズ周りはサークルアイと呼ばれ,一時期かなり流行したデザインである。レンズ周囲のモザイク調のリングにはセレン光電池が組み込まれていて露出計の一部を構成している。
元来,中古品・ジャンク品を売っている店である。その中でさらにごみ箱のような容器に入っていたカメラであるから,外観は汚れ・錆びが目立ち,もちろんシャッターも切れなかった。


写真1.前面からの外観

 これはもしかしたらロハ(只=ただ)かもしれないと思いながらも,念のため聞くと100円だとの返事。少しばかり失望したが,まあ100円ならたとえモノにならなくても智的遊びの代償として文句はあるまいとのことで買ってしまった。

2.仕様など
 このカメラの仕様などの「素性」を知ろうとしたが,なかなか見つからなかった。「日本の歴史的カメラ」をひもとくと,ヤシカハーフ17EEラピッドとヤシカハーフ14は出ていたが,ハーフ17は見当たらない。前者が1965年,後者が1966年の発売であることから,このカメラは1965年以前の製造販売だと推定できる。インターネットで調べたところ,1964年という記事がありこの推定を補強する。東京オリンピックの開催された年である。
 一方,「国産カメラの歴史」にはヤシカハーフ17デラックスとヤシカハーフ17ラピッドの2機種が載っている。前者の記事は1964年の広告。デラックスが何を意味しているか不明だが,広告の表現では17の下に小さく書かれている。とすると,これは大した意味はなく,ハーフ17と同一ではなかろか?
 以上のような経緯を経てこのカメラの仕様のようなものをまとめてみた。例によって間違いがあるかもしれないことをあらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称:Half 17
(2)型式:35ミリハーフサイズレンズシャッターカメラ
(3)適合フィルム:135判
(4)フィルム送り:背面ダイアル巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:順算式
(6)画面寸法:24×17 mm
(7)レンズ:Yashinon 1:1.7  F=3.2cm
(8)ファインダー:逆ガリレオ?
(9)距離調節:手動・最短撮影距離0.8m
(10)露出調節:自動(AUTO)および手動(B,1.7~16)
(11)シャッター:自動(1/30~1/800秒?)および手動(1/30秒固定?)
(12)シンクロ接点:あり
(13)電池:不要(セレン光電池)
(14)質量:約470g(実測値)
(15)概略寸法:約70H×115W×55D〔mm〕(実測値)
(16)発売(製造)年:1964年?
(17)発売価格:14,000円(ヤシカハーフ17デラックス)
(18)製造・販売元:(株)ヤシカ

 

3.初期状態の確認と問題点
店で手にしたとき,
(1)シャッターが切れない
ことは確認していた。帰宅後,詳細に調べるとシャッターのほかにつぎの問題点が明らかになった。
(2)フィルム巻き上げが止まらない
(3)露出計が動かない
(4)セルフタイマーが動かない
 上記の問題のうち,(3)と(4)は最悪機能しなくても構わないが,(2)は困る。フィルムの巻き上げはカメラ背面の左下にあるダイアルを回して行うのであるが,これをいくら回しても止まらないのである。実際問題としては,ヤマ勘で1コマ以上に余分に巻き上げればよいのであるが,何とも心もとない話ではないか。これはやはり許せない!

 

4.修理(その1)

シャッターが切れないのはセルフタイマーが途中で止まっていたからであった。このようなことは多いのであるが,このカメラの場合,セルフタイマーのレバーの角度がちょっと特殊であるため,気づくのが遅れたのである。レバーをやや強引に戻してやるとシャッターが切れるようになった。
 シャッターを切るためにはフィルムを巻き上げなければならないが,ここで問題(2)が明らかになった。いくら巻き上げても止まらないのである。シャッターボタンを押すとカシャッと切れるのでシャッターチャージは行われている。もちろん,フィルム巻き上げ軸も回転している。要するに1コマ分巻き上げたことを検出できていないのだ。

写真2.底蓋を開ける

 底蓋を開けて動きを仔細に眺めた。しかし,どうしても原因がわからない。数か所に少量注油して蓋を閉めた。
 数日置いて再び底蓋を開けた。2度目ともなると,何か余裕のようなものができて前回より系統的に眺めることができた。その結果,「巻き止めが行われる機構はこの付近になければならない」というようなことまで思い浮かぶに至った。それは写真2の赤○で囲んだ部分である。そこに慎重に注油したところ確率1/2程度で巻き止めが行われるようになった。底蓋を閉じて巻き上げを何度も繰り返したが,やはり数度に1度は巻き止めに失敗した。
 一晩おいて,カメラを手に取って巻き上げを繰り返した。すると,どうだ?毎回必ず巻き止めが成功するではないか!油が行きわたったのであろう。問題(2)が解決した。

教訓: 行き詰まったら冷却期間を置くこと。(これは思考だけでなく物にも通ずる)
写真3.上蓋を開ける

つぎは問題(3)の露出計。
 絞りをAUTOに設定してシャッターボタンを押すと,ファインダーの中の指針が一番上に跳ね上がった。電球に向けて明るくしても同様でAUTOのときは常に指針が一番上に跳ね上がる。
 つぎに,AUTO以外の絞り値に設定(以下,「手動」という。)してシャッターボタンを押すと,今度はファインダーの中の指針は下の方で止まってしまう。どうも露出機構が壊れているようである。
 露出計の指針が正常に動かない理由としてはつぎの3つが考えられる: ①セレン光電池の故障,②メータの故障,③配線の異常(短絡または開放=断線など)
そこで,軍艦部を開けてみた。写真3である。
 取り敢えず,この段階で調べられることとしてメータに着目した。メータは写真3の中央部に見える円柱状の部分である。テスターを抵抗測定モードにしてこの電極にテスト棒を当てると針が振れた。つまり,メータは壊れていない。
 すると,原因は①か③ということになる。
そこで,止むなくセレン光電池を取り出した。写真4をご覧いただきたい。
この状態でセレンに光を充分当てながら電極間の電圧を調べたが,電圧は出ていなかった。つまり,セレンが壊れているあるいは機能が極端に低下しているということになる。
 念のため,セレンの電極からメータまでの配線を調べたが,異常はなかった。
写真4.セレンを外す

 AUTOを有効にするためにはセレンを取り換えるしかない。いろいろ考えた末,リコーのカメラのジャンク品を思いついた。これのセレンを取り外して移植することにした。それは写真5のとおりである。
 しかし,このセレンは曲率半径がヤシカのものより大きくて,そのままでは収まらない。そこで,仕方なくニッパーで切断した。そのような荒療治でもいいのか?念のためテスターで起電力を確認した。

図5.リコーオートショットから取り出したセレン

写真6をご覧いただきたい。光を当てると立派に電圧が出ているのがお分かり頂けるであろう。

写真6.起電力を確認

それをヤシカのカメラに接続したところが写真7である。
ここで注意1件。このカメラは+接地である。つまり,電圧の+側が接地すなわちカメラの筐体に接続されているのである。
 レンズを組み立てなおして完成!
しかし,AUTOにしてシャッターボタンを押すと指針の振れがか弱い。やはり,セレンを切断したため,あるいはこのセレンも古いため起電力が足りないのではないかという疑問が起こった。
 しかし,万一手動で撮影できないのであればAUTO以前の問題であるから,とにかく一度試写してみることにした。できるだけ大きく振れるようにするため,フィルムの感度設定をASA400とした。

写真7.リコーのセレンをヤシカに移植

 

5.試写結果(その1)
 コダックの感度100のカラーネガフィルムを装填した。移植したセレンがうまく働くかどうかを調べるため,すべての写真は同一の被写体に対して自動と手動の2通りで撮影した。
 比較的暗いところでは自動でもかなりいい写真が撮れたのであるが,明るいところでは露出過多になってしまった。写真8と9とを比較しながらご覧いただきたい。前者は自動で後者は手動である。
 自動ではセレンの起電力が足りないため,カメラは「暗い」と認識して絞りを開き,かつシャッター速度を遅くしているのであろう。
写真8.自動露出での試写結果

 一方,手動ではシャッター速度は1/30秒(?)固定であるから,絞りを最大の16にして撮った。晴れた日であったので本来絞りは22が適当なのだろうが致し方ない。やや露出過多気味であるが,まあ我慢できる程度である。
写真9.手動露出での試写結果

やはり光電池の発電電力が足りないのだ。

6.修理(その2)
 もともと小生は古いカメラ,手動カメラが好きなので自動露出などなくてもいい。しかし,ごみ箱のような容器の中から救ったカメラ,使う・使わないは別にして何とか健全にしたい。
 そこで思いついたのがソーラー電卓の光電池を移植することである。さっそく100円ショップで買ってきた。写真10である。

写真10.光電池の搭載された105円の電卓

裏蓋を外して中の光電池を取り出した。写真11のようなもので,大きさは約10×25mmである。


写真11.電卓から取り出された光電池

 長方形ではレンズの鏡胴に納まらない。そこで,ニッパーで3辺を円弧状に切り欠いた。それで起電力に問題がないか光を当てて電圧を計ったところが写真12である。何とか使えそうだ。


写真12.光電池の起電力を確認

 最初この電池を1枚組み込んでみたが,どうもセレンを移植したときと変わらないような気がした。そこで1枚追加した。それでもまだ不足のようなので,さらに1枚追加した。合計3枚である。その様子を写真13に示す。
 ところで,この光電池で一言ご注意。ニッパーで切り欠いたと言ったが,電池はガラス状のもので,かけらが飛散すると危険である。小生は実際このかけらが足に刺さって痛い思いをした。

写真13.光電池を3枚組み込む

 

7.試写結果(その2)
 今度もコダックの感度100のカラーネガフィルムを使った。
自動でシャッターを切るとき,ファインダーの中の指針がどうも振れすぎるような気がした。曇天の状況でシャッター速度が1/800秒程度を示すのである。このときの絞りがいくらかわからないので断定はできないが,露光不足ではないかと思われた。
 数枚写した後,光電池を1枚はずした。そして,数枚写した後さらに1枚はずした。つまり1枚になったわけである。以上の各場合における結果で光電池の適正な数を決定しようとしたのである。

では,その結果を以下に写真を交えて報告しよう。
写真14.光電池3枚による作例

まず,光電池が3枚のときに撮ったのは写真14である。朝日の当たっている時刻であるが,夕方のように暗く感ずる。ここには示していないが,手動と撮ったものはそこそこに写っている。
 光電池を1枚減らして, 2枚にして撮ったのが写真15である。
写真15.光電池2枚による作例

空に向かっているので桜に対して適正な露出が得られるかは疑問であるが,やはり露出不足は否めない。そうは言っても,本当は適正な露出かもしれないと心配になる。自信がないのだ。何しろ測定器がなく,すべて勘ピュータに頼るしかないのだ。
 しかし,つぎの写真を見たら疑念は一気に吹き飛ぶ。光電池を1枚にして撮ったものである。三毛猫の毛の色の諧調がよく出ていると思うが,どうだろうか?距離は1mほどであった。
 余談だが,この猫はノラである。それでも小生を怖がらずポーズまでとってくれた。只者ではあるまい。

写真16.光電池1枚での作例(近距離景)

 つぎによその家のチューリップを撮った。まあまあの写りではないだろうか?ただし,発色がいいとは言えない。チューリップとわかる程度である。


写真17.中距離景

 最後に遠景。写真18をご覧いただきたい。生憎の天気(曇りかつ夕刻)であったが,そこそこに写っていると思う。このカメラの実力一杯のところであろう。

写真18.遠距離景

結局,光電池は1枚で良かったことになる。
 では,なぜ実装するとき1枚では不足すると判断したのであろうか?まったくの素人考えであるが,電球の光による起電力と太陽光線による起電力には明るさに対して差があるのではなかろうか?つまり,電球から発せられる光と太陽光とのスペクトルの違いによるのではなかろうか?もし,そうであるとすれば,光電池1枚を組み込んだ最終形のカメラは,屋外の撮影では適正な露出が得られても,室内ではそうはいかないということになる。
 肝心の写真の写りであるが,どうも周辺(というより両短辺)が暗いようである。写真16と18が特に顕著である。いずれも雨の降りそうな曇り空だったので絞りは大きく開かれていたと思う。そのせいであろうか?つまり,太陽が燦々と輝くもとでは周辺の光量不足などなくなるのだろう。

 

8.おわりに
 実は,このカメラを手に入れた翌週に再び同じ店を訪れる機会があった。こんなことは非常に珍しい。そのとき,このカメラのレンズキャップと速写ケースを手に入れたのである。それぞれ100円。したがって今回のこのカメラは

100(本体)+100(レンズキャップ)+100(速写ケース)+105(電卓)=405円

 ということになった。ただし,余計に買った電卓2台分の210円をどのように処理するかという問題が残る。電卓自体は単三電池を装填すれば使えるので実質的には損失がなかったともいえる。もっとも,機能の単純な電卓が3台あっても使いきれない。

写真19.速写ケースとレンズキャップもそろって「完成」

レンズキャップと速写ケースの話にもどる。

カメラ本体を買って帰宅後,店内にカメラの付属品を入れた籠のあったことを思い出した。もしかしたらこのカメラのレンズキャップとか速写ケースなどの付属品がバラバラにして売られているかもしれないと思い至ったのである。実際,1週間後に行ってみたらそのとおりであった。レンズキャップを装着した状態のカメラと速写ケースを写真19でご覧いただきたい。速写ケースはやや厚みのある革製のソフトケースである。傷みが激しいが,まだまだ現役で使える状態である。

教訓: (裸の)カメラを見つけたら付属品を探せ!

また,今回のことでセレンの死んだカメラの修理にソーラー電卓の光電池が使えることがわかった。これで,今後セレン搭載カメラの修理での障害が少なくなったと言える。

参考文献
(1)歴史的カメラ審査委員会(編):「日本の歴史的カメラ」増補改訂版,日本カメラ博物館,2004
(2)アサヒカメラ(編):「国産カメラの歴史」朝日新聞社,1994

■2013年4月26日   木下亀吉

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