雨樹一期のトイカメラの教科書 第28回 「個展をやってみよう」

こんにちばんわ、雨樹一期(あまきいちご)です。過ごしやすい季節になりましたね。まさに撮影日和。すぐに暑くなると思いますが、これから半年は僕の好きな季節。暑さに負けず写真を撮り歩きたいと思っています。

さて、今回は個展について書いてみます。前回のコラムで書かせて頂いたグループ展は、やっぱりグループ展です。って当たり前ですが。写真友達は出来るけど、自分の写真をしっかり見てもらうという点では劣ります。在廊はもちろんする方がいいけど、「参加者でワイワイ」になりがちなので、来場してくれた方は少し入りにくかったりします。僕みたいに人見知りな人間はそんな展示部屋はスルーします。仮に参加していたとしても、そのみんなでワイワイに入っていくのも苦手なので、友達をつくるのもなかなか出来ない困った人間です。

僕のことはどうでもいいとして、グループ展に参加するのは楽しいかもしれないけど、「もっとじっくりと色んな方に見てもらいたい」という方は個展、という流れになるんですね。
てことで、今回のコラムは個展のやり方です。文章がメインになっちゃうので、今年撮った桜の写真を少し。メインは屋形船ですね。懐っこい猫ちゃんがいて、一緒に散歩しながら撮影してました。
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さて、ここからはあくまで僕の個展するまでの流れを書いていきます。展示については額装はあまりせず、壁に直貼りなので参考になるかどうか分かりませんが。
まずは大雑把な流れです。前後しても構いません。3ヶ月〜1年後に開催を目指します。

ギャラリーを探す

実際に訪れて予約、採寸する

展示のテーマを決める。

DM、名刺の制作

DMの配布

作品制作

プレスリリース

ブログ、Facebookなどで告知

個展開催

さて。まずはギャラリー探しですね。詳細な日程を決めても空きがないことがあるので、だいたい三ヶ月後以降に出来ればという程度でいいと思います。準備期間はかなり必要ですからね。
ギャラリー探しはネットでもいいですが、出来れば自分の足で。それか詳しい人に聞くのもいいですね。
ギャラリーが決まれば視察をします。その場で予約してもいいと思います。部屋全体や壁ごとの写真を撮って、詳細な寸法を測ります。たいていギャラリー側がHPに載せていますし、他の方の展示中で測れないこともありますが、出来れば自分の手で。壁には変な出っ張りとかコードがあることも多々あるので、そこに大判写真を展示する予定だとえらいこっちゃです。額装だとしても等間隔で飾るなら、その障害になるものがあったりしますからね。目で確認するだけでも違います。

次に肝心なのがテーマです。先にそれを考えてからギャラリーを選ぶのもありですね。僕は個展をすると決めて、ギャラリーを決めてから、詳細なテーマを決めています。
このテーマが難しいです。「なんでもあり」、だとやはり見た方の印象が薄くなる可能性があります。伝えたいことが曖昧で、記憶に残りにくいんですね。
被写体で縛るのもいいと思うし、漠然としたもの、たとえば「幸せの形」なんかでもいいです。
ま、そうはいいつつ僕はそこらへんいい加減です。以下、参考までに最近のDMと展示テーマです。


■ トイカメラによる遊園地写真展『モダン・タイムス』
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■ キャッチフレーズ
僕らが歩んできたのは、なんだかんだで価値のある、ステキな道だった

■ コンセプト
モダンとは現代的・近代的、いわゆる今風という意味だが、その『今』は過去に流れてゆくものである。すなわち、モダンには、『当時の今=過去』という意味も含まれる。
当時の今=僕らが少年・少女だったころ。親に連れられて訪れた遊園地。オモチャ箱をひっくり返したかのような世界に、僕らは心を躍らせた。当時を想い出すと、懐かしさと共に胸がちくりと痛むこともあるが、それは決して嫌な痛みではなく。そのココロの痛みがあるからこそ、きっと、僕らは今を頑張れるんだ。
そんな懐かしいあの頃へタイムスリップする。これはあなたの記憶の世界の物語。


■  トイカメラ教室写真展『恋するカメラ〜しあわせのカケラ』
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■ テーマ
写真をはじめて、何気ない日常がとても大切に思えるようになりました。
そんな日常の中にある幸せのカケラを大好きなカメラで集めました。


■  観覧車写真展『追憶』
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■ キャッチフレーズ
夢の世界は儚くて 記憶の世界は切なくてだけどそこにはいつも 優しさが潜んでいる

■ テーマ
現在から記憶の世界へと、現実から夢の世界へと繋ぐ、観覧車写真展。


■ フォトポエム写真展『明日撮る写真が一番素晴らしい』
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■ キャッチフレーズ
今もしもあなたが迷っているなら、それはきっと自分なりの道を歩んでいるからなんだ。どこにでもある真っすぐな道なら誰も迷わない。

■ コンセプト
明日撮る写真が一番素晴らしい。ニュアンスは違えど、チャップリンもピカソもそう言いました。そう言った、というか僕が勝手に引用したわけですが、いい写真が撮れても、もっといいものが撮れる。これまでの作品を否定しているわけではなく、常に向上心を持っていようという意味です。
そんな偉人の名言みたいなものが好きで、写真を撮る傍らで一言詩や散文詩も書いています。悩み多き時代。写真だけでなく言葉でも何か出来ないかなと思い、写真に言葉をそのまんまプラスして展示致します。一粒で二度美味しいではありませんが多くの方に楽しんで頂けるかと思っています。


■ 『雨樹一期のトイカメラ遊園〜ひまわりファンタジーランド』
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■ キャッチフレーズ
ファンタジック・レトロチック・ドリーミーな写真遊園地

■ コンセプト
個展のサブタイトルは「ひまわりファンタジーランド」ですが、向日葵の写真ばかりを展示するというわけではなく、もちろん数十枚程度は飾るんですが、花の写真はむしろコスモスの方が多いです。
ひまわりの花を見たときって、人の脳はきっとプラスの方へ向いていて、元気・幸せ・希望、そんなものが享受されるんですね。展示に来てくれた人たちにそんな気持ちになってもらいたい、そんなイメージもあって「ひまわり」に致しました。
生きているといろんなことがあります。たとえ自分で決断した答えだとしても逃げ出したいって思う時があるし、たとえ自分で望んだ仕事だろうと辛くって辞めたい時もあります。たとえ好きな人と結ばれたとしても切ない想いをめぐらす夜だってあります。
傍からみたらほんの些細なものに見えるかもしれないけど、どうしようもなく辛く悲しいことがあります。でも希望だってどこかには潜んでいる。それを写真で伝えたいと思っています。
コスモスってどこか寂しげで、レトロな遊園地って胸がチクチクと痛みます。桜の花は奇麗だけどどこか儚くて、空の青さやひまわり(=太陽)は、そんなものを包み込んで元気にまわっている。グルグルと観覧車のように。


■  トイカメラ教室写真展『過去と未来』
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■ テーマ
トイカメラの描写は、若い方からすると新鮮で新しく、ご年配の方からするとノスタルジーで懐かしいもの。そんな、新しいけど懐かしいというトイカメラの魅力を伝えたく、「過去」と「未来」をテーマに組写真を制作しました。私たちそれぞれの感じた「カコトミライ」を、「現在」の位置から眺めて下さい。


■  「雨樹一期の虹色遊覧舎」art Link 上野-谷中
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■ キャッチフレーズ
見て、感じて、写して、あじわう。五感で遊覧するトイカメラ写真展

■ ストーリー
この「虹色遊覧舎」は、 トイカメラ写真に夢を託した、雨樹一期一座が企てる、 ファンタジック・レトロチック・ドリーミーな遊覧写真座。
ある時は、トイカメラ写真の芸術小屋。ある時は、活動写真の豆劇場。ある時は、トイカメラ探検隊の基地。ある時は、まちなかのほっこりカフェ … まるで千変万化、虹色の如く彩り鮮やか。
この秋、一座が谷中にやってくる… これは、巧妙に仕掛けられたドラマツルギーなのか!?
とにかく、ご期待あれ!!


テーマが決まれば上記に載せたように、DMの制作ですね。メイン写真はタイトルやテーマ通りのものを選びましょう。写真が先でテーマやタイトルが決まる時もあります。そこらへんは人ぞれぞれでいいかなと思います。
名刺がない方は絶対に作っといた方がいいです。僕はギャラリーで見かけると持って帰ります。ない時は「名刺もDMもないのに個展?」と思っちゃいます。いまはFacebookやTwitterで情報をばらまけますが、それは基本的には自分を知ってる人たちに、です。
偶然来場された方に対しても疎かにしない方がいいと思うんですね。せめてどちらかは準備したいところです。そこから繋がりが生まれることもあります。
DMの制作をしつつ、テーマに合わせた写真を集めましょう。既存のものも含めて新たに撮影していきます。撮影は季節や天候にも左右されるので、開催までの期間は長い方がいいかもしれませんね。ちなみに僕の初の個展は、既存のもの中心でした。これだけ作品が集まったからやってみようと思ったんですよね。
作品がある程度完成したら、プレスリリースですね。芸術関係の雑誌編集部などに、開催情報やコンセプト、プロフィールを載せた書類を作成、封書に「プレスリリース在中」と書いて郵送します。初個展でここまでやらなくてもいいとは思いますが。ここまで出来れば完璧です。
同時にブログやSNSなどでも告知していきましょう。
次にいよいよ搬入です。忘れ物のないようにしっかりと確認しましょう。何かが足りなかったってことも多々あります。必要なものは余分に買っておきましょう。物販をするなら、ちゃんとお釣りや商品を入れる袋の準備はしておきましょう。
遠い場所なら荷物を郵送するかと思いますが、ちゃんとギャラリーが指定した時間以降に送りましょう。たとえば2日から展示だとしたら、1日の夕方以降など指定があると思います。
肝心なのはどうやって展示するか、ですね。基本は採寸した壁に写真を埋め込む感じです。僕は前回のコラムで紹介したパネルをたくさん作ります。同じく、ねり消しを使って展示します。額装するなら天井から吊り下げます。
あまり低すぎたり高すぎる位置にならないように。色のバランスも考えつつ、といった感じでしょうか。
昨年、渋谷のルデコで開催したトイカメラ遊園では壁ごとにテーマを分けました。空、花、遊園地、大判、動物、猫、フォトポエム。暗室を作ってLOMO KINO ムービーも流しました。基本的に僕はたくさん貼ります。隙間なく埋めて写真の壁を作ったりもします。
ルデコは広いギャラリーだったので、自分の世界を余すことなく見てもらえるように、テーマを分けてたくさん飾りましたが、スペースのないギャラリーだともっとちゃんと絞った方がいいですね。
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「この個展で何を伝えたいのか」が明確であるべきです。来場者にはそんな質問してくる方もいます。
褒めてくれる方や、感動してくれる方もいれば、「あれ、冷やかし?」って方もいます。ギャラリーを徘徊しながら、結局自分の写真を見せてくるおっちゃんもいます。大昔に載ったボロボロの新聞記事も出てきたり。話が尽きないので、他のお客さんがいたらちょっと困る時もあります。
でもどんな出会いも一期一会。出来る限り在廊して、多くの方とお話出来ることが一番です。感想ノートを置いておくのもいいですね。書いてくれるかどうかは展示の内容よりも、ギャラリーの大きさに左右される可能性もありますが、僕にとってこのノートは宝物です。この個展でどんな風に感じて貰えたかって直接は聞けなかったりもしますからね。必須です。僕はちょっと元気ない時や、なんだかやる気出ない時に引っ張り出して読み返します。


自分の思い描いた世界を感じてくれていたら嬉しいし、新しい視点で見てくれていても勉強になる。とにかく自分を客観視出来るノートです。
搬出についてです。ギャラリーにもよりますが、基本的にゴミは持ち帰ります。搬入に比べると早い時間で終わりますが、ギャラリー閉館時間には間に合わせましょう。郵送するなら、事前に宛名書きはしておきましょう。段ボールに詰めて、宛名を貼って終了です。梱包用のガムテープをお忘れなく。
あと、展示中の写真はしっかりと撮っておきましょうね。意外と忘れがちです。

最後に。個展をするということはある程度の自信があるか、挑戦する勇気があるかのどちらかだと思います。お金も時間もかかります。簡単なことではないと思います。でも個展をしたことはきっと自信にもなります。たとえどこかに失敗があったとしても、それは確実に次に繋がります。やらなきゃ良かったなんてことはないです。思い出作りでもいいかもしれません。またやりたくなるかもしれない。
カフェギャラリーなどなら無料で出来るところもあります。ギャラリーを借りるには一週間で10万円とかかかっちゃいますからね。初個展ならカフェギャラリーの方が無難かもしれませんね。審査などがあるかと思いますが、ダメもとでも何でもいいので、思い切って申し込みましょう。展示は他のお客さんもいたりでじっくりと見てもらえないかもしれませんが、それは逆に、カフェに訪れたお客さんに偶然見てもらえることでもあります。僕も初の個展がカフェでした。
あくまでカフェなので規約などあります。友人やお知り合いの方に来て頂いても、ワンドリンクの注文は必要だと思います。注文しないで帰ってしまう方もいるので、しっかりと告知にて注意書きはしておきましょう。
カフェにいる方が、ただのカフェのお客さんなのか、作品を見に来てくれた方かの判断は難しいのですが、興味ありそうに見てくれている方には勇気を持って話しかけましょう。
今もし、この記事を読んでる方で個展をしてみたい方はぜひチャレンジしてみましょう。きっと自分の中の大きな財産になると思いますよ。


さて、ということで私事のコーナー。個展の告知です(笑)。
トイラボさん主催で、熊本県で個展の開催します。「雨樹一期のトイカメラ遊園〜ひまわりファンタジーランド」の巡業展です。
新作も加えて内容も一新します。ぜひぜーひお越し下さい。

「雨樹一期のトイカメラ遊園Vol.2〜ひだまりの記憶」
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過去を巡るような、
夢の続きを見ているような、
レトロでファンタジックな世界。

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■ 日時 2014年5月23(金)〜25日(日)
■ 時間 23~24日:11時〜19時  / 25日: 11時〜17時
24日(土)の終了後に「トイカメラの集い」なるものを開催します。
参加費と場所は未定ですが、ギャラリー側の居酒屋かどこかでの開催です。
写真のことなどなど、お話しが出来れば嬉しいです。

■ 場所:ギャラリーでんでん舎(熊本県熊本市中央区練兵町45早野ビル1階)
■ TEL:096-335-7388
■入場料:無料

あの頃は良かった良かったと
思える今があることは
きっと幸せなこと…

主催:トイラボ
演出:SORA Synesthetic Design Studio
写真:雨樹一期
協力:FILM LOVERS

Facebookイベントページ
http://www.facebook.com/events/510293329081965/


■ プロ・トイカメラマン雨樹一期オフィシャルサイト
http://www.amaki15.com/

■ トイカメラ日和
http://amaki15.blog90.fc2.com/

■ ネットショップ
http://amaki15shop.biz/

■ 猫レシピ
http://cat.amaki15.com

■Twitter
http://twitter.com/amaki15

■Facebook pages
http://www.facebook.com/amaki15

雨樹 一期(あまき いちご)
1977年生まれ。大阪出身のプロ・トイカメラマン。観覧車写真家。トイカメラならではの色彩と、淡く鮮明な表現を自在に操り、写真を通してどこか懐かしくポエティックな視覚世界を表現する写真作家。東京ドーム『SPA LaQua』にて環境映像作品「心の観覧車」の上映。WEBや雑誌にてトイカメラコラムの連載。携帯のきせかえツール、スマートフォンのきせかえカレンダーへのコンテンツ提供。電子書籍の出版。東京、大阪、パリで写真展の開催。トイカメラ講師など、幅広い活動を展開中。書籍に「しあわせの観覧車」「一期一会」など。

「トイカメラの教科書」に掲載されているすべての画像・文章は著者の雨樹一期様が所有しています、許可無く無断で複製・配布することはご遠慮下さい。