わたしのカメラ三昧 第18回 手のりサイズのKodak Brownie-127

1.はじめに
知人から古いカメラを預かった。お父さんの形見だという大切な品である。何でも先の戦争で出征した際このカメラを携行し,そのとき撮った写真が残っているということである。
その外観は写真1のとおりである。長い間使われた形跡がなく,革はかなり劣化している。

写真1.革製の速写ケース

写真2はカメラ本体である。まさに手のひらに載るサイズである。

写真2.カメラ本体Brownie 127

レンズの下に見える金具はシャッターレバー。レンズの上に見える突起は,これを引っ張るとシャッターがB動作になる。カメラ全体がエボナイトのような合成樹脂でできている。

2.仕様
 レンズ枠に彫り込まれているBROWNIE 127という名でこのカメラのことを調べたが,情報は極端に少なかった。インターネットでもわずか1件しか該当記事が見つからなかった。しかも,その記事は単に所有しているという程度の内容であった。実際,情報は皆無だと言える。

したがって,このカメラに関する仕様のようなものは現物でわかる範囲である。
(1)名称 : Brownie 127
(2)型式 : ベスト判ギロチンシャッターカメラ
(3)適合フィルム : 127判
(4)フィルム送り : ノブ巻上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数 : 赤窓式
(6)画面寸法 : 4×6.5 cm
(7)レンズ : 単玉(?)
(8)ファインダー : 枠のみ
(9)距離調節 : 不要(不可),距離固定
(10)露出調節 : 不要(不可),絞りはf11程度に固定
(11)シャッター : ギロチン式,Bおよび固定時限(≒1/50秒?)1速
(12)シンクロ接点 : なし
(13)電池 : 不要
(14)質量 : 約200 g(実測)
(15)寸法 : 約65 H×80 W×71 D mm(突起物を除く実測値)
(16)発売(製造)年 : 1940年頃?
(17)発売価格 : ?
(18)製造・販売元 : Kodak

3.問題点
問題点などほとんどない。
ただ,長年使われなかったためか,シャッターの動きがやや鈍い感じがした。それにレンズがやや汚れている。また,大した問題ではないが,フィルム巻き上げノブのめっきが腐食して白い粉を噴いている。カメラ本体に対してはこの程度である。機構が簡単なので問題の発生のしようがないということだろうか?(機構は簡単に限る!)
以上のほか気になるのは速写ケースの傷みである。特に吊り革は使用できないほど劣化している。

4.手入れ
シャッターに少量注油したら動きが滑らかになった。また,レンズを無水アルコールで拭って汚れを落とした。カメラ本体の手入れはこれで終了。
速写ケースに対してはまず吊り革を取り換えた。写真3をご覧いただきたい。写真1と比較すればその違いは歴然としているであろう。吊り革は新品のように見えるかもしれないが,これは中古品の再利用である。実際はかなり疲れている。(新品だと不釣り合いになることを恐れた。)
吊り革のほかは内張りを補強したり,表面の汚れを落としてワックスをかけたりした程度である。

写真3.手入れ後の速写ケース

5.撮影方法
まずフィルムを装填しなければならない。
カメラ本体の底にレバーがあって,それを回すとトップカバーごとフィルムホルダを引き出すことができる。写真4のような状態になる。(この写真は手入れ前の状態である。念のため。)左側のフィルムホルダに127フィルムをセットして右のケースに挿入し,最後に底のレバーを回して抜けないようにすれば準備完了。

写真4.フィルムホルダを引き出したところ

撮影方法は至って簡単。何しろ設定箇所がない。
カメラのトップカバーについているファインダー枠を起こしてそこから被写体を覗いて構図を決め,レンズ下のシャッターレバーを捻ればよい。写真5でおわかりのようにファインダーとは言っても単なる枠である。こんなものがファインダーとして役に立つのか疑問であったが,結果は良好であった。試写結果の写真をご覧いただきたい。

写真5.ファインダー

5.試写結果
いつものように120フィルムを裁断して127フィルムのスプールに巻き替えたものを装填した。この作業にもずいぶん慣れた。
まず,住宅街の何の変哲もないところを撮った。写真6をご覧いただきたい。この写真ではピントがどの位置に合っているかを知りたかった。撮影場所から中央の電柱までは丁度20 mである。はっきりとはわからないが,およそ5 mほどのところに合っているようだ。

写真6.住宅街

つぎにまず遠景を撮ってみた。写真7である。この写真では手前は暗く,遠方は明るいという光のコントラストも勘案した。なかなかよく撮れているではないか?

写真7.遠景

最後に公園にあるライオン像をお見せしよう。写真8をご覧いただきたい。距離は5 mほどであったと思う。本物のライオンとまではいかないがかなり写実的(このあたり厳密な意味不明)に撮れているではないか?しかし,周辺の光量不足が明瞭になっている。また同様に歪も目立っている。

写真8.ライオン像

6.終わりに
70年ほど前のしかも単玉の手のりサイズのカメラでよくこれだけ撮れるものだと驚いた。本音を言うともっとひどい出来を予想していたのである。周辺の歪や光量不足が気になるが,普通に撮って楽しむ分にはほとんど問題にならない。
ただし,127フィルムが入手困難なこと,フィルムの生産縮小など不安材料は多い。つい最近のことだが,某メーカのカラーネガフィルムの一種が生産を終了した。非常に残念なことであるが,これが銀塩カメラを取り巻く実情である。

■2012年10月22日   木下亀吉

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