わたしのカメラ三昧 第12回 蛇腹を作る (その3) 蛇腹の作製


 設計が終わったので,いよいよ作製となる。
ここでまず問題となるのは蛇腹にする素材。亀吉は素人ながら,皮革が最高ではないかと思う。つぎに合成樹脂などではなかろうか?しかし,このような素材には縁遠い。そのつぎに思いつくのは布と紙である。布は耐久性に優れていると思われるが,加工性に疑問が残る。結局,亀吉には紙が一番ということになった。
 早い話が,最初から素材としては「紙」しかなかったのである。ただし,紙といってもいろいろある。具体的にどのような紙を使えばいいのだろうか?

蛇腹の素材としての条件はつぎのようなことであろう
①遮光性に優れていること
② 耐久性(防滴性を含む)があること
③加工性のよいこと

 上記①は最も重要な条件だと思う。不可欠な条件であろう。②は蛇腹特有の特性であって,頻繁な伸縮に耐えなければならない。また,多少の水滴の付着にも耐えなければならない。これらに対し,③は一般的な条件であるが,素人にとっては重要でもある。
 以上のほかに安価なこととか,入手しやすいこととか,さらに有害でないことなどといったことが挙げられよう。
 正直に告白しよう。最初,亀吉は身近にある素材として普通の「白の画用紙」を使ったのである。
 ご存知のとおり,画用紙は遮光性も耐久性も劣る。そこで,遮光性と耐久性の増強策として,蛇腹の外側には黒のスプレーゴムを塗布した。そして内側には墨を塗布して乱反射を防ぐとともに遮光性の強化を図った。
 こうするとそこそこに耐久性が得られた。スプレーゴムは黒であり,内部は墨で黒く塗ってあるので遮光性も問題なしと判断したのである。外見上もそこそこに良かった。
 しかし,それで作った蛇腹をBaby Suzuka IIに取り付けて撮影したところ,すべて露出過多であった。
 蛇腹にはピンホールなどの光線漏れは見られない。使ったフィルムに問題があったのか?絞りは目で見る限り特に問題なさそうである。すると,シャッター速度に問題があったのか?たしかに,このカメラはシャッター速度の設定を変えても速度は一定のように思える。亀吉の勘ピュータによればおよそ100分の1秒から50分1秒程度である。
 そこで念のため蛇腹を作り替え,フィルムのロットと感度も変えて再度試写した。それでも結果は同じだった。前回の記事で「シャッターに問題がある」と書いたのはこのことである。
 しかし,あるときふと思いついて蛇腹の内側にペン型懐中電灯を挿入して点灯させ,周囲を暗くした。すると,蛇腹が薄明るく見えるではないか!仔細に調べると,蛇腹の全面に亙って無数の小さな薄暗い光の点が確認できた。愕然としたが,「これで解決するぞ」という確信を得た一瞬でもあった。
 それでもまだ画用紙に固執したのであるが,充分な遮光性を得る方法が見つからなかった。
 そこで,近所の文房具店に走り,黒い紙を買って帰った。カラーシンフォニーという商品名で,画用紙よりちょっと堅めで表面片側に,何と言おうか,しわのようなものがある。絞りと言うのだろうか?
 家で光源を遮蔽してみると,黒い紙はほぼ完璧に光を遮蔽しているようである。参考用として買って帰った同じ種類の赤い紙は光が透けて見えた。黒い紙に決めた。
 では,なぜこれほどまでに「白い」画用紙にこだわったかと言うと,展開図の作図のし易さを考えたからである。蛇腹の素材として黒い紙がいいということは最初からわかっている。しかし,これでは展開図を描いたり印刷したりするのが難しい。だから,白い紙に印刷して,裁断し,成形した後で塗装しようと考えたのである。
 しかし,こうなったら仕方がない。線の幅を広くし,赤で印刷してみた。2度重ねて印刷すると写真1のように何とか判別できる程度の展開図が描けた。展開図は前回の記事で紹介したものである。

写真1.黒い紙に赤で印刷した展開図

 印刷した展開図の線の上からボールペンで強くなぞって折り目をつける。そして,上下に余白を確保して鉛筆で線引きしておく。(写真2参照)
写真2.ボールペンで折り目の付けられた展開図

 この余白は,レンズ側にあってはレンズを固定するための座金(ざがね)を包み込むために,カメラ本体側にあっては固定枠を取り付けるために必要である。これらの余白は事前に寸法を決めにくいので現物合わせで作業するためやや広めにとっておく。
 さて,余白を含めて展開図を鋏で切り取り,ボールペンで癖をつけた折り目に沿って,山折り・谷折りで折り曲げてゆく。その結果,写真3のようなものが得られる。ジグザグ部分はすべて山折りである。
写真3.折り曲げられた蛇腹

 つぎに,のりしろ部分に糊をつけて円錐台状の筒にする。このとき,のりしろの重なり具合を正確にしないと形状がいびつになる。なお,この段階までは蛇腹の素材はまだ紙のままであるから糊は普通の糊(でんぷん糊?)でよい。
 糊が乾いたら折り目に合わせて折ってゆく。慣れないとこれがなかなか大変。根気よく折ってゆく。写真4をご覧いただきたい。この写真でカメラ本体側の余白部分は4つの稜線の延長線上で切断されているが,レンズ側はそのままであることにご注意願いたい。亀吉は以前この部分も切ったことがあるが,

写真4.のりしろ部分を接着した展開図

そうすると座金を包み込んだとき四隅に隙間ができ,そこから光が漏れたのである。
写真5をご覧いただきたい。座金を包み込んだ状態である。座金が見えるだろうか?包み込んだら糊づけする。

写真5.レンズ側の座金を包み込む

 糊が乾いたらスプレーゴムを塗布する。液状ゴムスプレー ”PLASTI DIP” なるものを使った。文字どおりスプレーで吹き付けると,吹き付けムラが起こるし,気泡が沢山できて具合が悪い。亀吉は別の容器にとって,それを筆でとって蛇腹に塗布する方法をとった。もっとも,防滴性を必要としないのであればスプレーゴムは不要かも。
 さて,スプレーゴムが乾いたらいよいよカメラに組み込む。ちょっときついが,カメラのフィルム室側から強引に蛇腹をはめ込む。このとき,蛇腹の「のりしろ」部分がカメラの蓋側になるように配置する。こうすると糊付けしたところが外から見えない。
 写真6のような状態になる。レンズがついていないので向こう側が丸見えなのがよくわかろう。

写真6.カメラに装着

 つぎにレンズ室側の蛇腹の余白部分を必要と思われる幅に切りそろえる。注意して切らないと切りすぎてしまう。と言っても厳密な寸法管理が必要と言うわけではない。取り付け枠からはみ出さない程度にすればよい。写真7のとおりである。

写真7.カメラ本体側の余白の余分を切った

 特に順序がどうと言うことはないのだが,つぎにレンズを取り付ける。レンズとシャッターが一体となったものを前面から金具を通して蛇腹に挿入し,蛇腹の内部から座金を介してナットで締め付ける。その結果写真8のような形になる。この作業では蛇腹を破らないようにくれぐれも注意。

写真8.レンズを取り付けた

 つぎにフィルム室から枠をはめて4箇所ねじ止めして蛇腹を固定しなければならない。亀吉はこの作業を同一カメラで何度も行なったため,とうとうネジの溝がくずれてしまった。しかたがないのでジャンク品の中から適合するねじを探して代用とした。
 写真9をご覧いただきたい。蛇腹を枠で固定し,蛇腹を収納した状態である。蛇腹のひだがちょっと崩れているが,手作り品のゆえだとご勘弁願いたい。
写真9.カメラ側の固定枠を取り付けた

 以上で,蛇腹の移植手術は終了した。斜め前方から見たカメラの様子を写真10に示す。本物の蛇腹と遜色ないであろう。

写真10.完成

 では,蛇腹が正しく機能しているか検証するために試写するとしよう。
試写するには127フィルムを用意しなければならない。亀吉は120フィルムを127フィルムの幅に裁断して127フィルム用スプールに巻き替える方法をとっている。この作業も何度か繰り返しているうちに,ごく普通に行えるようになった。今回使ったフィルムは感度100のカラーネガである。
 試写するときいつも気になるのは天気と撮影場所(被写体)である。幸い天気も悪くなかったので石楠花(しゃくなげ)の花を撮るつもりで近くの山に登った。
 写真11をご覧いただきたい。残念ながら石楠花はすでに盛りを過ぎていて色あせていた。距離は3~5フィートほどだったと思う。(Baby Suzuka IIはフィート表示。)心配した露出過多もなく,きちんと撮れているではないか?蛇腹自作成功!
写真11.石楠花の花

 しかし,よく見ると周辺部分,特に上部は焦点が合っていないようだ。にじんでいるように見える。
 つぎに距離を無限遠にして遠景を撮ってみた。
 写真12をご覧いただきたい。絞りは11か16だったと思うが見事に周辺の光量が落ちている。絞りを開けば光量低下はある程度防げるのではないかと思うが,何しろシャッター速度が100分の1秒から50分の1秒程度に固定されているからどうしようもない。
 実はこの風景の遥か遠方には1,500 m級の高峰が聳えているのであるが,それが見えない。よく目を凝らして見ればそれらしいピークが中央付近に認められないこともないが,気のせいのような気もする。このカメラのレンズの性能の限界であろう。

写真12.遠景

 新緑の季節の尾根歩きは気持ちがいい。写真13は縦走路の一部を撮ったものである。上部中央付近の白けが少し気になるが,まあまあの出来ではなかろうか?亀吉は撮影術に関しては稚拙である。この場合フードを装着すれば改善されたのであろうか?
写真13.縦走路

 やっと「蛇腹が終わった」という気がしている。この数か月間常に蛇腹のことを考えてきた。また,試行錯誤を繰り返した。
 しかし,フィルムの巻き替えが普通にでき,蛇腹の修復もできるようになったのでクラシックカメラで遊ぶ領域が格段に広がったのは間違いない。

(蛇腹を作る 完)

■2012年5月29日 木下亀吉

(関連サイト)
2012.1.31 わたしのカメラ三昧 第7回 「Baby Suzuka IIと127フィルムの作製」
2012.4.11 わたしのカメラ三昧 第10回 蛇腹を作る (その1) 蛇腹方程式
2012.5.10 わたしのカメラ三昧 第11回 蛇腹を作る (その2) 蛇腹の設計

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