わたしのカメラ三昧 第46回 「Ikonta B」


1.はじめに
日曜日,近郊の山に登る前に馴染みのリサイクルショップに立ち寄った。最近はなかなかカメラが出ないのであるが,その日は珍しく「ある」と言う。
拝見すると小西六のパーレットとツァイスのイコンタであった。いずれも蛇腹式の古いカメラである。パーレットは傷みが激しいが,イコンタはレンズが白濁しているほかは割に良い状態であった。いずれも革ケースに納まっていた。2台まとめて2,000円でいただいた。
イコンタの外観を写真1でご覧いただきたい。
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写真1.Ikonta 520/16の外観

軍艦部の,向かって左側にシャッターボタンが,右側に蛇腹とファインダー展開用押しボタンがある。また,鏡胴の上にやや傾いたレバーが見えるが,これはシャッターチャージ用のレバーである。シャッターを切る前にこのレバーを向かって時計方向に回してやらなければならない。

 

2.仕様と特徴

まずはここで仕様を眺めてみよう。例によって間違いがあるかも知れないことをあらかじめご承知おき願いたい。

(1)名称:Ikonta 520/16(Zeiss Ikon B)
(2)型式:ブローニー判フォールディングカメラ
(3)感光材料:120判フィルム
(4)フィルム送り:ノブ(?)巻き上げ(巻き戻し不要)
(5)フィルム計数:赤窓式
(6)画面寸法:60×60 mm
(7)レンズ:Tessar, f3.5/75mm,3群4枚?(レンズ番号から1936年製と判明)
(8)ファインダー:逆ガリレオ式?
(9)距離調節:手動(最短撮影距離=1m)
(10)露出調節:手動(f3.5~22)
(11)シャッター:Compur Rapid, T,B,1~500
(12)シンクロ接点:なし
(13)電池:不要
(14)概略質量:545 g(実測)
(15)概略寸法:135 W×88 H×43 D(蛇腹収納時の実測)
(16)発売(製造)年:1937年(この個体は1937年から1939年の間に製造された。)
(17)発売価格:?円
(18)製造・販売元:ツァイス(ドイツ)

イコンタと言えば,スーパーイコンタ,セミイコンタ,ベビーイコンタなどが特に有名であるが,ここで紹介するオーソドックスなカメラはなぜか影が薄い。わたしの蔵書の中の1冊にわずかな記事があるだけ。発売価格もわからないままであった。

このカメラに付属していた速写ケースを写真2に示す。厚めの革でしっかりと作られており,今でも充分使用に耐える。
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写真2.速写ケース

昔のカメラは皆このような立派な革製のケースに納められていた。もちろん,カメラ本体とは別売り,今で言うところのオプションであろうが,ほとんどの人がケースを買っていたように思う。それだけ,カメラにかける意気込みというか思い入れというかそのような思いが強かったのである。財産と言ってもよかったのである。

 

3.初期状態と問題点
この種のカメラで最初に気になるのは蛇腹の状態である。外観は綺麗。灯りに透かして見ると蛇腹にピンホールなどはなさそう。

絞り,シャッター速度,ピントリングなどはほぼ滑らか。シャッターボタンとシャッターとの連携も問題ない。問題点は以下のとおりと判定した。

(1)ボタンを押しても蛇腹が展開しない。(ファインダーは展開する。)
(2)レンズが曇っている。
(3)シャッターの低速(10分の1秒以下)が不良。

 

4.修理・手入れ

蛇腹の開閉は,要所要所に注油することでほぼ滑らかになった。問題(1)解決。
つぎに,レンズの曇りの問題。
レンズ前玉の内側が全面的に曇っていた。綺麗にするためにはレンズを外さなければならない。
このレンズは回転ヘリコイド式なので,ストッパーの突起ねじを外せばよい。∞の位置で突起ねじをはずし,反時計方向に1回転まわし,さらに回すと1.5mの表示のところで外れた。これを記録した。(これはレンズを元に戻すときに必要なのである。これが狂ってしまうとピント設定ができなくなる。)
さっそくレンズの内側をアルコールで拭った。しかし,汚れがなかなか取れなかったのでハンドソープで拭った。これでも完璧とは思えなかったが,初期状態からすれば雲泥の差である。
また,前玉を外したついでに内部のレンズも綺麗に拭っておいた。ただし,外側だけである。
前玉レンズを元に戻し,フィルム室側からレンズを透かして見ると,レンズ後ろ玉の内側に黴が少しだけ認められた。さっそく,フィルム室側から後ろ玉を取り出してカビを拭った。
レンズ系は格段に綺麗になった。問題(2)が解決した。

最後にシャッターの件。
これは手入れの最初から悩んでいた。原状でも25分の1秒以上であれば問題なく使えそうだ。低速まで正常に使えるようにしようとシャッターを分解したら元に戻せなくなる可能性がある。そうなれば元も子もなくなる。
ぐずぐずと悩んだ末,とにかく分解できるまで分解してみようということに決めた。
前玉はレンズのほこりを払うときに外した。シャッターを見るには中玉を外さなければならないが,これが外れなかった。プライヤーで挟んで力いっぱい回しても(正確には「回そうとしても」)金輪際回らなかった。
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写真3.取り外した鏡胴

仕方がないので鏡胴を外して(写真3参照),裏側からシャッターに迫ろうとしたが駄目であった。
シャッター速度の10分の1以下に関しては使用することがないのでこのままとした。
しかし,数日考えた末,やはりもう少し挑戦しようということになった。

再度鏡胴を取り外し,前玉を外した後,プライヤーを使って中玉を前回よりさらに力を込めて回したところ,外れた!取り出したシャッターを写真4に示す。
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写真4.シャッター

シャッターをベンジンで洗い流した。細かい金属のかけらのようなごみが沢山出てきた。ベンジンが乾いた後少量注油して元に戻した。
ところが,低速は動くようになったが,BとTが利かなくなってしまった。(注)
また,1日置いて低速を試したところ,うまく動かないことがあった。カメラは完璧でなければならない。100回シャッターボタンを押したらシャッター羽根は100回開閉しなければならない。1,000回押したら1,000回開閉しなければならない。それが数回空打ちしただけでシャッター羽根が開閉しないようでは話にならない。
再度シャッターを取り出した。今度はレンズもばらばらにした。よって,まだ汚れていたレンズも綺麗にした。写真5をご覧いただきたい。
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写真5.レンズの分解

どうも注油した油が多すぎてシャッター羽根に回ったようだ。こうなれば根気よく油を拭い去るしかない。ただ単に油を拭うだけでは能がないのでBとTの機能回復にも努めた。
上の作業を1週間ほど毎日続けて終えた。シャッターは完璧になった。ただし,BとTは結局回復しなかった。

注.シャッターのBとTは,それぞれバルブ(bulb)とタイム(time)の頭文字である。バルブではシャッターボタンを押している間シャッターが開き,タイムではシャッターボタンを押すとシャッターが開き,離してもシャッターは開いたままの状態を維持し,再度押すとシャッターが閉じる。わたしは,個人的にはタイムではなくトグル(toggle)だと思っている。いずれも長時間の露光に適している。

 

5.使い方

蛇腹カメラを使ったことのある人にとっては特別なことは何もない。
念のために,フィルムの装填方法を写真で順を追って示そう。
まず,カメラの裏蓋を開ける。写真6である。前回撮り終わったときのフィルムのスプールが右側に残っている。裏蓋の中央には赤窓が見える。
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写真6.前回撮り終わった後の状態

フィルムは右側に装填して左側に巻き取っていくので,まず巻き取りのためのスプールを左側に用意しなければならない。それには右のスプールを外して左に付け替えればいい。写真7をご覧いただきたい。
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写真7.スプールを右から左に付け替え

このカメラで使うフィルムは120判である。これはブローニー判とも呼ばれ,幅61.5mmのフィルムが裏紙とともにスプールに巻かれている。この裏紙には数字が印刷されていて,フィルム送りはこの数字を見ながら行うのである。このために設けられている覗き穴が赤窓である。

写真8をご覧いただきたい。フィルムの巻かれたスプールを右側に取り付け,裏紙を引き出してその先端を左側の巻き取り用スプールの溝に差し込んだところである。
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写真8.フィルムの裏紙を巻き取りスプールに固定

この状態で少しだけ巻き上げて,巻き上げが確実に行われそうなことを確認してから裏蓋を閉じる。そして,数字1が現れるまでひたすら巻き上げる。親切にも,1が現れるまでいろいろな文字や図形が現れ,フィルムが確実に送られているということが確認できるようになっている。
数字1が現れたところを写真9に示す。赤窓の中に1という数字が2列並んでいるのがお分かりいただけるであろうか?
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写真9.フィルムの空送り

この状態で裏蓋を開けて見たところが写真10である。(実際の撮影に際してのフィルム装填では開けてはいけない。)
フィルムの裏紙のほぼ中央に1の文字が2つ縦に並んで印刷されている。これが,写真9で赤窓から見えていたのである。
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写真10.フィルムの巻き上げ状態

裏紙には3行に数字が印刷されている。それぞれピッチが違うので計ってみたらつぎのようであった。(実測だから正確な数字ではないかもしれない。)

①上の行の数字は47.5 mmピッチで16まで
②中の行の数字は64.0 mmピッチで12まで
③下の行の数字は92.5 mmピッチで8まで

120フィルムを使った場合の画面寸法には,6×4.5,6×6,6×7,6×8,6×9〔cm〕の5種類がある。上の数値は①が6×4.5 cm用,②が6×6 cm用,それに③が6×9 cm用に対応している。すると,6×7と6×8に対しては赤窓式に対応していないことになる。これらの画面寸法で撮るカメラの場合は赤窓式によらないのであろう。

以上でフィルムの装填が終わった。

後は,被写体に合わせてピント,絞り,シャッター速度を設定してシャッターをチャージした後シャッターボタンを押せばいい。シャッターチャージレバーは写真1で鏡胴の先端上のほうに出ているのがお分かりいただけるであろう。
なお,このカメラは二重露光防止機能がないので,1枚撮ったら必ず巻き上げなければならない。
また,赤窓はフィルムを巻き上げるときのみその扉を開け,用が済んだらすぐに扉を閉めておく。もちろん,赤窓は直射日光などを避けて開けることが肝要である。

 

6.試写結果
120フィルムを使うのは久しぶりだ。買いだめしておいたカラーネガフィルムを装填した。富士フイルムのREALA ACE 120という品種で,感度はASA100である。買いだめの残りはあと6本になってしまった。
当日は近郊の港に帆船の日本丸が寄港しているとのことで,見に出かけた。
途中,安産にご利益があるという神社に立ち寄った。まず,この神社を撮ってみた。

写真11は最初に写したものである。シャッターを切った後に絞りを設定し忘れたことに気付いた。手入れしたときのままであるから,絞りは開放状態であった。写真11を再度ご覧になれば屋根など白飛びしそうなほど白けているのがお分かり頂けるであろう。最近,日常的には完全自動のデジタルカメラを使うことが多いので,絞りの設定などついつい忘れるのである。
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写真11.露出過多の作例

しかし,この被写体の場合,明るいところと暗いところが混じっているので,暗いところはそれなりに写っている。それで,全体としては我慢できる程度に仕上がっているといえる。つまり,平均測光による自動露出ではこのようになるのかも知れない。
神社正面の階段の下を右に曲がると針塚というのがあった。今度は絞りを確認してシャッターを切った。ところが,シャッターを切った直後に今度は距離を設定し忘れたことに気付いた。写真11を撮ったときに距離を∞に設定したのだが,そのままになっていたのである。
われならが自分のおっちょこちょいに腹が立った。距離を合わせて再度撮ったのが写真12である。距離は3~5メートルほどだったろうか?まあまあの出来ではなかろうか?石の色合いも悪くない。
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写真12.中距離景

この写真を撮った後,階段を上っていると拝殿前にいる若い男女がシャッターを押してくれと言う。見ると一人は赤ん坊を抱いている。もう一人がわたしにスマートフォン(と思う)を差し出した。全面液晶画面兼タッチパネルになっており,その端の方を押せばいいとのこと。明るい屋外のもと,良く見ないとわからないが,確かにシャッターボタンの位置を示す描画がある。

<承知した>とばかりにカメラ(スマホ?)を2人に向けて構図を決めようとしたが,モニターの画像がよく認められなかった。それでも,<このへんか?>という見当をつけてシャッターを指で押したが,何の反応もない。シャッターが切れたらカシャッという電子音がするはずである。指で何度も強く押したがシャッターは切れない。こうなったらもう構図どころではない。
このとき,ふと頭に浮かんだことがあった。最近の機器は静電容量か何かの変化を検出しているため,指が乾燥していると感知されないという。わたしの指は乾燥しているのであろう。こんなときは指を舐めたらいいのだろうが,持ち主の目の前ではそうはいかない。
結局,何度もしつこく押していたらそのうちカシャッと切れた。あせっていたので冷や汗が出て指が湿ったのかも知れない。
階段を下りると手水場があった。竜の彫り物がなかなかいい。屋根があって暗いのだが,何とかなりそうだ。最短距離に近い距離まで近づき,絞りを全開にしてシャッターを押した。写真13である。
ピントは竜の口あたりに合わせたつもりだが,写真を見るとどうも柄杓あたりに合っているようである。目測による誤差であろう。柄杓のアルマイトの色と艶がよく出ていると思う。背景はほどよくボケている。
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写真13.近距離景

それから1時間ほどして日本丸の停泊している場所に着いた。ちょうど祭が催されているらしく,多くの人でにぎわっていた。
日本丸を写真に撮ろうという人が群がっており(わたし自身もその中の一人),なかなか自分の望みの構図が得られなかった。数枚撮った中の1枚を写真14でお見せしよう。なかなかいい感じの写真が撮れたと一人満足している。もっとも,構図は今一だし,空がもう少し青かったらよかったと残念に思う。
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写真14.遠距離景

 

7.おわりに
ツァイスといえば有名な光学メーカであるが,戦前に作られたカメラでうまく写真が撮れるか若干不安であった。ファインダーも写真1でご覧のとおりで,これで構図がうまく決められるか疑問であった。しかし,心配は無用であった。描写は悪くないし,構図もほぼ狙ったとおりに撮れた。
いつまでも使いたい一品であるが,120フィルムの現状を思うと気分は沈みがちになる。時間は限られている。じゃんじゃん撮ろう!

参考文献
(1)Hanlontown: http://www.wctatel.net/web/crye/z-i120.htm
(2)Zeiss Ikon AG Camera Information Page:http://home.sprynet.com/~stspring/Zeiss%20Ikon.html
(3)上野千鶴子ほか:「写真用語事典(改訂版)」,(株)日本カメラ社,1997

■2014年7月31日   木下亀吉
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