わたしのカメラ三昧 第39回「ヤシカエレクトロX」


1.はじめに

 わたしと同世代,あるいは近い世代の人なら「ヤシカエレクトロ35」というカメラをご存知だろう。少なくともその名前ぐらいは聞いたことがあるに違いない。一世を風靡したカメラである。
 わたしは少年時代カメラにほとんど無縁であったが,テレビなどで繰り返し宣伝されたカメラの名前はよく覚えている。オリンパスペンEED,OM-1,ピッカリコニカ,ジャスピンコニカ,リコーオートハーフ,ペンタックス・ペンタックス♪,コダック・インスタマチック・カーメラ♪,それにヤシカエレクトロ35などである。宣伝に登場した井上順や市川染五郎の姿が今でも思い出される。
 今回ご紹介するカメラは,このヤシカエレクトロ35の一眼レフ版と考えていいのではなかろうか?
 ジャンク品ということで,f1.4のレンズ付きで1,721円であった。革製の速写ケースも付属していた。
 実際に手にしたとき,その大きさと重さに驚いた。写真1でその外観をご覧いただきたい。
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写真1.斜め前方からの外観

 ご覧のとおり典型的な一眼レフの外観である。
一つ「おや?」と思うことがあるとすれば,それはフィルム巻き戻しクランク軸のそばにある赤と緑の丸い突起であろうか?赤い突起はスイッチであり,これを押すと,電池が正常なら緑のランプが点灯する。この赤と緑がヤシカエレクトロ35を思い起こすのである。

 

2.仕様と特徴
 このカメラに関しては資料が極端に少ない。わたしの手許の書籍にはまったく収録されていない。インターネットで検索しても,中古品販売や修理,撮影に関する記事はあっても,仕様とかその生まれ,生い立ちに関する記述が見られない。ただ,取扱説明書が見つかったのでこれを援用して仕様と特徴をまとめてみた。価格はついにわからなかった。

(1)名称:Yashica TL Electro X
(2)型式:35ミリフォーカルプレンシャッター一眼レフカメラ
(3)感光材料:135判フィルム(適合感度: ASA 25~800)
(4)フィルム送り:レバー巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:自動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:M42規格,Auto Yashinon-DX 1:1.4 f=50mm(付属品)
(8)ファインダー:一眼レフペンタ式(倍率0.87倍),ミラーアップ機能あり
(9)距離調節:手動(最短撮影距離0.6 m)
(10)露出調節:CdS内光式 TTL絞り込み測光(絞り優先,シャッター優先可能)絞り手動設定: f1.4~16
(11)シャッター:縦走金属膜フォーカルプレン電子シャッター,セルフタイマー付きシャッター速度手動設定: B,2,1~1/1000秒
(12)シンクロ接点:X,FP
(13)電池:4LR44(6V)
(14)質量:1,050 g(電池を含む実測)
(15)概略寸法:150 W×95 H×95 D 〔mm〕(レンズ込み実測)
(16)発売(製造)年:1969(昭和44)年(?)
(17)発売価格:?
(18)製造・販売元:ヤシカ
取扱説明書ではこのカメラの特徴をつぎのように説明している:(以下,『 』内原文のまま)

『①電子シャッター使用のTTL方式 ②シャッター速度無段階変速可能のため中間スピードが使用できる。③メーターを使用しないため,耐久性,耐衝撃性に優れ,姿勢差を生じない。④ファインダー内に矢印の赤ランプが表示される。ICリードアウトシステムの採用。ランプのつかないときが,適正露出範囲となる。⑤トランジスター8石と,ICユニットを使用している。』

メーカが唱える特徴は以上のとおりだが,はっきり言って特徴と言えるほどのものはない。また,特徴④の中の「ICリードアウトシステムの採用。」の意味が分からない。しかも,これは内部構成の話であってこのこと自体には使用者には何の利点もない。

わたしが自信をもって言える特徴は「大きくて重い」ということだけである。何しろ1㎏を超えている。さらに付け加えるとすれば,③の「メーターを使用しないため・・・」であろう。ヤシカ独自のものかどうかは別にして,当時としては画期的だったのかも知れない。

 

3.初期状態と問題点
現物を手に取って眺め,いろいろ操作して得た初期状態での問題点は以下のとおりである。
(1)レンズを含め,全体的にやや汚れている
(2)測光レバーの動きが鈍い
(3)遮光材が劣化している
(4)速写ケースの蓋が一部切れている

重大乃至致命的な欠陥は見られなかった。上記(2)が取り敢えず現実的な問題と思われた。

 

4.手入れ・修理
 まず,レンズであるが,表面に出ている面をアルコールで拭ったところ,ほぼ問題ない程度に綺麗になった。内部に少しばかりカビが見られるが,この程度ならよかろう。問題(1)はこれでよしとした。
 つぎに測光レバーの動きの問題。ここで,「測光レバー」というのはわたしが勝手にそう呼んでいるもので,カメラを構えたとき右手のレンズ付け根の部分にある。写真1を再度ご覧いただきたい。セルフタイマーレバーの隣である。これを押し下げると絞りが絞り込まれ,露出計のスイッチが入ってファインダーの下の方に赤い矢印が現れる。
 このレバーを繰り返し押しながら動きを観察した。観察しながら少量注油した。何度か繰り返すうちにレバーの動きはかなり改善された。完璧に滑らかとは言えないが,実用上はほぼ問題なくなった。問題2が解決したことにしよう。
 あとの遮光材と革ケースの問題は大したことではない。

 

5.使い方
フィルムの装填はごく普通である。
 フィルムを装填したらフィルム感度を設定しなければならない。もちろん,この作業はフィルム装填前でも構わない。感度はASAとDINの数字である。フィルム巻き上げレバーの左にあるシャッター速度設定ダイヤルの周辺をつまんで引き上げて回して合わせる。
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写真2.軍艦部

 このカメラは電池が必要。撮影前に電圧を点検しておこう。巻き戻し軸の右側にある赤いボタンを押したとき,その上の緑のランプが点灯すれば良好である。
 万一,電池が切れたときの対処方法が取扱説明書に記載されていた。
 それによると,シャッター速度は約1,000分の1秒に固定されるので,それに合わせて絞りを決めればよいとのこと。ASA100の場合,たとえば晴れた日の屋外では125分の1秒・f11であるので,1,000分の1秒では絞りをf4に設定することになる。(シャッター速度が125→250→500→1,000と3段階速められているので,絞りも11→8→5.6→4と3段階開く。)被写界深度が浅くなるが,止むを得ない。
 さて,通常の使い方。このカメラは基本的に完全マニュアル機である。シャッター速度,絞り,ピントはすべて手で設定しなければならない。ただ,露出計が組み込まれているだけである。もちろん,この露出計は機能的に独立しており,使わなくても構わない。

しかし,それでは書くことがないので露出計の使い方をご説明しよう。

カメラを構えてファインダーを覗きながら測光レバーを下に押すと,ファインダーの下の左か右に赤い矢印が現れる。そして,左側に右向き矢印が出たらその矢印が消えるまで絞りを絞り込む。右側に左向きの矢印が出たらその矢印が消えるまで絞りを開く。これで適正露出が得られたことになる。もし測光レバーを押しても矢印が現れなければ,それはたまたま適正な絞りになっていたことになる。  
 なお,さきほど露出計は完全に独立していると書いたが,シャッター速度の設定値とは連動している。

 

6.試写結果 
 例によって買いだめしておいた業務用カラーネガフィルム36枚撮りを装填した。その日は近くの山に登るのでその風景を写そうと目論んだのである。
 久しぶりに自家用車に乗らず,電車とバスを利用した。
国鉄が分割民営化されて,国鉄ではなくなった列車に乗った。1時間ほどで旧国鉄の駅に併設された駅に到着。ここで乗り換えなければならない。
 ホームの端の方に行くと懐かしい洗面台があった。写真3をご覧いただきたい。ほとんど使われていないようであり,鏡も曇っていた。
 昔は鉄道で旅行する人が多く,夜行列車で着いたときなどこの洗面台で顔を洗ったのだろう。何しろ,昔は蒸気機関車だったので,列車で旅行すれば石炭の煤で顔や手が汚れたものだ。
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写真3.駅ホームの洗面所

 朝のやわらかい斜めの光を受けてやや力のない描写になった。
それから旧国鉄の列車に30分ほど乗って登山口最寄の駅に着いた。駅前には登山口まで行く町営バスが待っていた。十数人の登山者と思しき人たちがいそいそと乗り込んだ。
 駅舎のそばに古いポストがあった。わたしはこの形のポストが好きで,これを発見したら写真に撮らずにいられない。写真4である。色合いもなかなかいい。
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写真4.駅前の郵便ポスト

 ポストを撮っている間に町営バスは出発してしまった。
一人歩いて駅を出発すると間もなく踏切を渡る。そして南側を見ると二又の山が見え,その間を線路が通じている。その昔二又トンネル爆発事故のあったところであろう。写真5をご覧いただきたい。

写真の突き当たり付近で線路は右に曲がり,左右の小高い山の間を縫って向こうに抜けているのがわかるであろうか?わたしの認識に間違いなければ,この2つの山はもともと一つの山であって,その真ん中が爆発で吹っ飛んだのである。(あくまでわたしが子供のときに得た知識なので事実とは違うかもしれない。というのは,「二又トンネル」という言葉に疑問を感じていたからである。二又は爆発後のことであり,トンネルは爆発前のこと。両者が結合するのは時間的に無理がある。)終戦直後だと聞いた。もちろん,わたしの生まれる前の出来事であった。詳しいことは知らないが,戦時中火薬庫があって,戦後間もなくそれが爆発したということであったと思う。小学生の頃,その補償問題がラジオで放送されていたことを覚えている。もう70年近く昔のことになってしまった。知っている人は少ないだろう。
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写真5.二又トンネル爆発事故跡(?)

 とにかく,この日は登りが苦しかった。体調がすぐれないのだと思う。こんなときは無理せずに早めに下山するに限る。
 そう思いながら雪の登山道を撮ったのが写真6である。色気がなくて,写真撮影の対象としては面白くない。撮影の上手な人が撮ればあるいは素晴らしい写真が得られるのかも知れない。
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写真6.雪の登山道

 この写真を撮ってほどなく別の道をとって山を下りた。
そこで思い切り被写界深度の浅い写真を撮ってみた。写真7である。神社(正確には神宮)の手水場である。そのそばに「アイゼンなど洗うな」と言った意味のことが書かれていたのに苦笑した。
 さて,その手水場であるが,手前の右から2番目から3番目あたりの柄杓にピントが合っている。青竹の色がいいし,苔も青々と鮮明に写っている。もちろん,背景は申し分なくぼけている。
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写真7.手水場

 7.おわりに
 さすがに重い。何しろ1 kgを超える重さだから肩と首がだるかった。肩の方はザックの影響かも知れない。この日は普段より多くの荷を背負っていたのである。
 写真の方は,ヤシカエレクトロ35の一眼レフ版ということで期待したのであるが,正直若干失望した。写真はどれも普通に撮れているが,何というか,張りがない,輝きがないのである。朝の光の少ないときとか,曇り空とかのあまり好ましくない条件のためかもしれない。光あふれるもとで撮ればいい写真が得られるのかも知れない。いつかもう1度このカメラで撮ってみたいと思っている。

参考文献
(1)「TLエレクトロXの使い方」,ヤシカ,1974(?)

 

■2014年3月14日   木下亀吉

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