わたしのカメラ三昧 第37回 「リコースーパーショット」

1.はじめに

 最近リコーづいている。
今回のものは,ファインダー内の菱形部分に被写体人物の顔を収めたらピントが合うというのを面白く思って手に入れたものである。電池が必要であるが,たまには例外もよかろう。
 例によってインターネットオークションであるが,100円で落札した。しかし,送料が700円もかかり,さらに代金の振込手数料として210円を要した。商品単価のほぼ10倍近い余分な経費が掛かったということになる。
 愚痴はともかく,初めて手にしたとき「でかい」というのが第一印象であった。もちろん,重い。写真1をご覧いただきたい。
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写真1.スーパーショットの外観

 気になっていた菱型によるピント調節の機能を早速試した。しかし,ピントリングを回してもファインダー内の菱形の大きさには変化がなかった。大きさが変わらなければ距離を調整することができない。
 あとでわかったことだが,件(くだん)のカメラはスーパーショット2.4と言う機種であった。このカメラを手に入れた根拠がなくなったわけであるが,生来のおっちょこちょいに免じてお許し願いたい。
 このカメラには革ケースが付いていた。写真2をご覧いただきたい。肉厚の懐かしい作りである。左上の原子模型のような図案が何とも誇らしげではないか?電子シャッター,電子システムを高らかに謳っているのであろう。そのような時代にこのカメラが誕生したのだろう。

 

2.仕様と特徴
 まず,このカメラの仕様を確認しておこう。リコーからインターネットに公開されている仕様を参考にした。ただし,わたしなりに表現を統一したり,不足分を補ったりしたので間違いがあるかも知れない。あらかじめご承知おき願いたい。
(1)名称:Super Shot
(2)型式:レンズシャッター式35ミリカメラ
(3)感光材料:135判フィルム
(4)フィルム送り:スプリングモータによる自動巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数:自動リセット順算式
(6)画面寸法:24×36 mm
(7)レンズ:RIKENON 43 mm,f1.7
(8)ファインダー:採光式フレームファインダー
(9)距離調節:二重像合致式(最短撮影距離0.8 m)
(10)露出調節:CdSによるプログラムAE: EV5.6~17
(11)シャッター:SEIKO ES600, 1/15~1/500秒,セルフタイマ付き
(12)シンクロ接点:あり
(13)電池:水銀電池HD(MR9) 1.35 V(アルカリボタン電池LR44で代用)
(14)質量:730 g(実測)
(15)概略寸法:130 W×95 H×70 D〔mm〕(実測,突起物を含まない)
(16)発売(製造)年:1965(昭和40)年
(17)発売価格:23,800円,ケース1,800円
(18)製造・販売元:リコー

このカメラは電子シャッターを初めて採用したとのことである。したがって,この電子シャッターの故障が多いらしい。
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写真2.革ケース

 特徴は何と言ってもスプリングモータによるフィルムの自動巻き上げであろう。しかし,スプリングモータはオートハーフやオートショットなど他のカメラにも組み込まれていて,このカメラ単独の特徴ではない。時系列的に眺めてみよう。

表1.スプリングモータ搭載機の系譜

発売年 機 種 名  備 考
1962年 オートハーフ セレンによる露出制御,ハーフサイズ。
1964年 オートショット

セレンによる露出制御,フルサイズ。

1965年 スーパーショット CdSによる露出制御,フルサイズ。
1968年 ハイカラー CdSによる露出制御,フルサイズ。

 わたしが調べたところによる結果は上のとおりである。ハーフサイズからフルサイズへ,セレンからCdSへという発展である。CdSを採用したら当然電池が必要になる。
 スプリングモータと言えば格好いいが,要はぜんまい仕掛けである。その機構にも進歩が見られる。最初の2機種はぜんまい巻き上げノブは逆転できないが,後半の2機種は逆転できるのである。ラチェット機構と呼ぶのだろうか?つまり,自転車のペダルのような仕組みである。これによって,ぜんまいの巻き上げ動作がやりやすくなった。
 もう一つ細かい変化があったことに気づく。それは,シャッターロック機構である。前半の2機種にはロック機構がないが,後半の2機種には備わっている。スプリングモータ搭載のカメラはシャッターを押したらすぐにフィルム1コマが巻き上げられ,つぎの撮影の準備が完了する。だから,誤ってシャッターボタンが押されると空打ちが行われた上フィルムが1コマ巻き上げられる。これはゆゆしき問題である。後半の2機種はこれに対策を講じたのであろう。
 ただし,わたしは後継機を含むすべての機種を調べたわけではない。同一シリーズでも後継機種ともなれば問題点は解決・改善されていることが多い。(そのためのモデルチェンジ・後継機であろう。)

 

3.初期状態の確認と問題点
 ファインダーは綺麗だし,レンズもそれほど汚れてはいない。ただし,ファインダーの二重像はやや薄くなっている。

(1)電池の蓋が開かない
よって,電子回路(露出制御)が正常かどうかはわからない。もちろん,シャッターも切れるかどうかわからない。
取り敢えず,フィルムを入れてぜんまいを回し,シャッターボタンを押すとフィルムが自動的に巻き上げられた。ぜんまいは生きていた。難関の1つを無事通過した。
(2)モルトが疲弊している
(3)二重像が垂直・水平ともにずれている
(4)速写ケースの貼り革が一部剥げかけている
以上のほかは電池の蓋を開け,電池を装填してからの話になる。

 

4.手入れ

 まず,電池を装填しないことにはどうにもならない。そのためには電池の蓋をはずさなければならないのであるが,指先で指紋がなくなるほど力を込めても金輪際回らなかった。
 そこで,トップカバーを開けた。写真3である。意外に簡単に開けることができた。ただし,このときバッテリーチェック用の突起を紛失しないように注意する必要がある。
 今度は電池の蓋に2本の指を絡ませることができる。しかし,蓋はびくともしない。仕方がないのでプライヤーで掴んで回した。これでやっと開いた。
 中には古びた水銀電池が収まっていた。それを取り除くと青い粉が電池室の中に散布されているのが確認された。写真3をご覧いただきたい。青い粉が確認できるであろうか?
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写真3.トップカバーをはずす

 とにかく,電池室内を綺麗に掃除してLR44を1個装填した。電池室の空間に比較してLR44はかなり小さいのでカポカポである。余分な空間にアルミ箔を丸めて詰めた。
 さあ,シャッターの動作確認だ!フィルムのパーフォレーション(フィルム両側に開いている四角い穴の列)にかみ合わせる歯車を指で回してシャッターチャージ。シャッターボタンを押す。しかし,シャッター羽根は開かない。やはり,駄目か?何度か繰り返しながらよく観察すると,シャッター羽根はピクッとして動こうとしているのがわかった。つまり,電子シャッターの回路機能は正常だが,機構部分のシャッター羽根が言うことを聞かないようだ。(油が)固着していると考えられた。
 シャッターに手を加えたいのだが,鏡胴背面にあるねじは金輪際動かない。仕方がないので正面からレンズをはずしていった。これも意外に簡単に進んだ。写真4である。このとき,赤○で囲んだところに置かれている直径0.5 mmほどの金属ボールを紛失しないように注意しなければならない。
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写真4.電子回路(電子シャッター)

 電子シャッターの回路基板まで到達した。トランジスタが数個載った簡単な回路のようである。今ならマイクロコントローラなどを搭載してプログラムで機能を実現できるのであるが,当時としてはこのようなアナログ的な処理しかできなかったのであろう。
 それはともかく,シャッターの機構部分をいじるにはこの基板が邪魔になる。しかし,数本のリード線の長さがぎりぎりで,とても基板をかわすことができない。切断する覚悟でよくよくその下の金属部分を眺めるとビスなどが見当たらない。ということは,たとえ基板を取りはずしてもシャッターの機構部分には手が届かないことになる。
 インターネットの記事によると,シャッターの機構部分は鏡胴全体を外さないと露出しないそうである。しかし,これもわたしの力と工具では不可能なことがわかった。
 こうなったらもうどうしようもない。壊れても構わないので何かしようということになった。何もしないでごみを増やすより,何かして木端微塵にした方が勉強になる。しかも,ひょっとするとうまく行くかも知れないのである。
 基板の下にはわずかな覗き穴があいていて,そこから中身の一部が見える。(写真5の赤い楕円の中。)シャッターを切りながらその部分の動きを眺め,(非常に荒っぽいが,)そこに注油してみた。そして,何度か繰り返すうちにシャッター羽根が開閉するようになったのである。
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写真5.シャッターの機械部分を覗く

 ところで,シャッター羽根の開閉が何回成功すれば「直った」と宣言できるのであろうか?一般に肯定的な証明は簡単だが,否定的な証明は困難である。(この表現はわかりづらいに違いない。「できる」というのは数ある可能性の中から一つでも成り立つことを示せばいいが,「できない」というのはあらゆる可能性を取り上げて,そのすべてが不可能ということを示さなければならない。今回の場合,「直った」というのは「不具合は発生しない」という否定的な文言に言い換えることができる。)
 シャッターではないが,わたしの経験では300回試行して何事も起こらなければ良くなったと判断して間違いなかった。では,300回とは何であろうか?もし,301回目に異常が起こるとすれば,それは(簡単に言うと)300回に1回の確率で発生するということになる。ということは,1000回に3回である。1000に3というのは,確率・統計に馴染みのある人なら直ちに思い浮かべるであろうが,いわゆる3シグマである。つまり,わたしは経験的に3シグマの確率を基礎に置いていたことになる。もっとも,計数値と計量値の違いがあるし,0.3%の確率で不具合が発生するではないかという意見もあろうが,ここではこれ以上詮索しない。
 とにかく,シャッター羽根は開閉するようになった。少なくとも基本機能は健全であったということである。300回かどうかは数えなかったのでわからないが,寝るまで繰り返しシャッターを切った。何しろ歯車を指で回さなければならないので指が痛くなったほどである。
 ところが,翌朝確認するとシャッターが開閉しないのである。どうも油がシャッター羽根に染み出てきたようだ。さっそくベンジンでシャッター羽根を拭った。シャッターは開閉するようになった。
 しかし,仕事から帰宅するとまたシャッター不動。
 ベンジンで洗浄。シャッター回復。時間が経つとまた不動。ベンジンで・・・。何度繰り返したことだろう?一週間ほど続けると指の皮が擦りむけて固くなってきた。
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写真6.レンズ鏡胴をはずす

 このシャッターの動作チェックを数限りなく繰り返しているうちに電池を2本も消耗してしまった。そのことを知らずに良くなりかけたシャッターが再び悪くなったと勘違いしたこともあった。
<やはり100均で買った電池は駄目か>と思いつつ,大体このカメラの消費電力は如何ほどなのかという素朴な疑問が湧いてきた。
そこで,直流安定化電源から1.5 Vを供給して電流を測定したところ,つぎの結果を得た。
① バッテリーチェック時 27 mA
② シャッターレリーズ時 100 mA
 今では発光ダイオード(LED)が使えるのでバッテリーチェックなどは10 mAもあれば充分だろうが,当時としては致し方なかったのであろう。一方,シャッターレリーズ時は100 mAも喰う。これは実際にシャッター羽根が開かない状態で,単にシャッターボタンを押した状態での電流であるから,撮影時の電流はこれより大きいと思われる。ともかく,1回のシャッターレリーズで100 mAの電流が流れるものとして電池の寿命を計算してみよう。
 使用したアルカリボタン電池LR44の容量は100 mAで60 mAhという。1回の撮影で1秒間シャッターボタンを押すと仮定すると,容量一杯消費するまでの回数は
(60〔mAh〕×3,600〔s/h〕)/100〔mA〕=2,160〔s〕→2,160〔回〕
となる。
う~ん,2,000回もシャッターを切っただろうか?ちょっと疑問であるが,それほど法外な数値でもない。
 脱線してしまった。とにかく,何度洗浄を繰り返しても良くならない。鏡胴後ろ側のレンズを外して,後ろからもシャッター羽根を洗浄した。結局のところ,これでシャッター羽根は開閉するようになった。よかった!
 しかし,ここに至ってとんでもないことが発生した。ピントリングが回らなくなったのである。何で今更?
 こうなったら仕方がない。ホームセンターから細長いラジオペンチを買ってきて,その先端をさらにやすりで削って細くした。これで背面から鏡胴を止めているナット(?)を回した。不可能と思っていたが鏡胴がはずれた。写真6をご覧いただきたい。もう,木端微塵覚悟である。
 鏡胴ははずれたが,ピントリングの回らない原因がわからない。試行錯誤の結果,ヘリコイドに注油すると良くなった。どうも油が切れてごみを噛みこんだようだ。
 問題はこの後の距離合わせ。詳細は省略するが,目の悪い老人としては非常に困難を極めてとにかく合わせることに成功した(と思う)。
 以上でようやく問題(1)が解決した。
 以上のことに比べたら,モルトの劣化対策など屁もないこと。数年前100円ショップで買っておいた習字用の下敷き(フェルト)を切って両面テープで貼りつけた。もちろん,貼り付けの微調整をしやすいようにするため,事前に無水アルコールを塗布した。写真7をご覧いただきたい。それにしても,リコーさんのカメラは何と大量のモルトを使うことか!問題(2)が解決。
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写真7.張り替えたモルト

 つぎは二重像のずれの問題。
このカメラのトップカバーに2つの不思議なねじがあった。一つはアクセサリシューの左側にある。写真3をご覧になればこのねじが認められるであろう。もう一つはファインダー対物窓の下にある。写真4や6でお分かり頂けるであろうか?これら2つのねじを外すと中にマイナスねじがある。これを回して二重像の縦と横のずれを調整できるのであった。
問題(3)が解決した。
問題(4)は説明を要すまい。

 

5.使い方
 使い方はリコーオートハーフやリコーハイカラーなどと同じである。よって,ここでは省略しよう。気になる方は過去の記事をご覧いただきたい。
 ただ,一つだけご注意願いたいことがある。それは電池のこと。水銀電池の代わりにアルカリボタン電池のLR44を使うのであるが,電池室の空間に比較してLR44あまりにも小さい。したがって,余分な空間にアルミフォイルを丸めて詰めるのであるが,このときくれぐれも電池の両極が短絡状態にならないように気を付けていただきたい。わたしはLR44の-電極と+電極の間に絶縁テープを貼って短絡しにくいように対策した。
 水銀電池と大きさのほぼ等しいアルカリ電池があればいいのだが,探しても見つからなかった。LR44を2個縦に並べて,電気的には並列に接続できるようなアダプタがあるといいのだが。自作を考えたが,時間がないのでやめた。

 

6.試写結果
 では,果たして実際に使えるのかどうか?さっそく試してみた。フィルムは以前買いだめしておいた富士フィルムの業務用カラーネガ36枚撮りである。もちろん,感度はASA100。
 まず,遠景。写真8をご覧いただきたい。
 遠景とは言っても遥か彼方の風景ではない。近くから遠くまでを撮ったものである。実際,よく撮れているではないか?発色がいい。このカメラの実力はこの1枚ではっきりしている。
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写真8.黄葉の並木

 まさに秋たけなわと言いたいところだが,すでに晩秋の風情である。当地は紅葉よりは黄葉が多い。写真右側の黄葉は「もみじばふう」または「アメリカふう」と言うらしい。前者を漢字で書けば「紅葉葉楓」となるのだそうだが,どうも変ではないか?「紅葉(もみじ)のような形の葉をした楓」ということだが,逆ではないか?つまり,「楓(かえで)のような形をした紅葉(もみじ)」だろう。
 写真8をもう一度見ていただくと,右側の一段低いところに公園のような場所が認められるであろうか?そこに降りてみた
 シーソーがある。まずそれを一枚パチリ。写真9である。
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写真9.秋の○○公園

 豚君にピントを合わせたつもりだが,どうだろう?まあまあの写りではなかろうか?銀杏の葉も綺麗だし,落葉もよく写っている。
 つぎはほぼ最短距離での画像。写真10をご覧いただきたい。花壇の一部を撮ったものであるが,これもまあまあの出来ではなかろうか?キンセンカかな?
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写真10.花壇

 最後に暗い場所での撮影結果をお見せしよう。下の写真は電車の中で撮ったものである。車内はもちろん照明設備があるが,それでも暗い。窓の外の景色が白けているのがお分かり頂けるであろう。このカメラのCdSによる測光はほぼ適正であることがわかる。
 もっとも,写りが少々悪い。ピントがビシッと決まっていないような気がする。電車が走行中に撮ったので手振れが起こったのかも知れない。
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写真11.電車内の優先席

 

7.おわりに
さすがに大きくて重いだけあって,よく写るカメラであった。一時はどうなるかと心配したが,何とか使えるようになってほっとした。
スプリングモータを使ったカメラはあと1機種。オートショット。近いうちにご紹介できることを楽しみにしている。

■2013(平成25)年12月30日   木下亀吉

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