わたしのカメラ三昧 第24回 「キヤノンDemi EE17」


1.はじめに
久しぶりに近くのリサイクルショップを訪れた。ガラスケース内のカメラが増えているような気がした。内部を検めるため,店員に錠を開けてもらった。この店に限らずカメラを収めているケースは施錠されていることが多い。あるいは,店員の常駐する場所に置いて客が自由に触れないようにしている店もある。他の品と比較してそれほど高価でもないのにである。思うにこれはカメラが高価だった頃の印象が残っているためであろう。
 そう,カメラは高価だった。財産とも言えた。庶民はなかなかカメラを買えなかった。仮にカメラを手に入れることができても,維持費が大変だった。フィルム代,現像・焼き付け代……。だから,当時は少しでも倹約するため,現像代はしょうがないとしても,撮影済みフィルムの全コマを無条件に焼き付けることはしなかった。まず,現像とともにべた焼きを依頼する。べた焼きとはフィルムそのままを印画紙に焼き付けたものである。密着焼きとも言った。だから,通常の35ミリカメラなら1コマは24×36 mmの写真になるのである。24×36 mmの写真の集合写真である。これをじっくり見て,普通の大きさ(当時は名刺判が普通で,後にサービス(E)サイズが主流になった。今ではご存知のようにLサイズが主流。)に焼き付ける写真を選択するのである。もちろん,普通ではなく,手札とかキャビネとかに大きくして焼き付ける写真もこのときに指定することがある。だから昨今のような無駄(一旦全コマLサイズにプリントする。)が生じない。もっとも,慣れた人になるとべた焼きも不要で,ネガを見て吟味していたようである。もちろん,1枚1枚確実に撮ることは言うまでもない。

写真1.キヤノンDemi EE17

 前置きが長くなった。山積みされたカメラの中からキヤノンのDemi EE17を選んだ。外観を写真1でご覧いただきたい。
 軍艦部の中央に印刷されている文字はJemiのように見えるが,これはdemiの最初の文字の一部の塗料が剥げているためである。名前からEE機であることがわかる。数字の17はレンズの開放F値の1.7に因んだものであろう。
 今回ご紹介するDemi EE17はEE機ではあるが,電池がなくても手動で使える。

2.仕様
 まず,このカメラの仕様を見ておこう。例によって間違いがあるかもしれないことをご承知おき願いたい。
(1)名称 : Demi EE17
(2)型式 : 35ミリハーフサイズレンズシャッター式カメラ
(3)適合フィルム : 135判
(4)フィルム送り : レバー巻き上げ,クランク巻き戻し
(5)フィルム計数 : 順算式
(6)画面寸法 : 24×17 mm
(7)レンズ : Canon Lens SH 30mm F1.7
(8)ファインダー : ブライトフレーム付き逆ガリレオ式(?)
(9)距離調節 : 手動,最短撮影距離0.8m
(10)露出調節 : 自動(シャッタ速度優先EE),手動1.7/2.8/4/5.6/8/11/16
(11)シャッター : SEIKO,B/8/15/30/60/125/250/500
(12)シンクロ接点 : あり
(13)電池 : 水銀電池1.33V
(14)質量 : 約430 g(実測)
(15)概略寸法 : 約70H×120W×45D〔mm〕(突起物を除く実測値)
(16)発売(製造)年 : 1966(昭和41)年
(17)発売価格 : 15,800円(本体のみ)
(18)製造・販売元 : キヤノンカメラ
 ここで,デミの系譜を確認しておこう。インターネットの「CANON CAMERA MUSIUM」を参考にした。これによると,このカメラはシリーズの最高級機であることがわかる。

発売年 名 称 本体価格 備考(亀吉が感じた特徴)
1963 Demi 10,800円 セレン露出計内蔵,追針式。
1964 Demi S 14,000円 F1.7の明るいレンズ,プログラム式シャッター。
1965 Demi C 18,000円 レンズ交換式,28 mm(標準)と50 mm。
1965 Demi Rapid 16,000円 CdS露出計,セルフタイマー内蔵,ラピッドシステムカメラ。
1966 Demi EE17 15,800円 シャッター速度優先EE。最高級機。
1967 Demi EE28 11,300円 セレン露出計内蔵,プログラムEE。

おもしろいのは,シリーズ最後の機種がセレン式に戻っていることである。しかも価格はシリーズで2番目に安い。やはり,ここに至ってハーフサイズカメラ本来の狙いが蘇ったのであろうか?あるいはこの時期ハーフサイズの売れ行きに陰りが出てきたためかも知れない。

 

3.問題点
シャッターが切れることは買う時点で確認済み。絞りや距離の設定も問題なさそうであった。持ち帰って電池を挿入すると露出計も一応動いた。その後子細に調べた結果,問題点はつぎのように定まった。
(1)レンズが汚れている(ほこりの混入?)
(2)ファインダーが雲っている
(3)モルトの劣化が著しい
(4)水銀電池が手に入らない

4.修理・対策
まず,レンズの問題を解決しなければならない。
写真2をご覧いただきたい。白い埃のようなものがいっぱい詰まっている。カビのようでもある。

写真2.レンズの汚れ

レンズの汚れを取り除くにはレンズを分解しなければならない。ちょっと躊躇したが,思い切ってばらしてしまった。
写真3をご覧いただきたい。シャッター羽根がむき出しになるまで分解したところである。

写真3.レンズを分解

アルコールやハンドソープを使ってレンズの汚れを取り除くことができた。これで問題(1)が解決。
つぎに,ファインダーの曇りの問題。ファインダーの曇りの状況は写真4を見ていただきたい。
ファインダーを綺麗にするにはトップカバーを外さなければならない。ふつうねじを数本外せば簡単に外せるのであるが,このカメラはまず前面の板を外さなければならなかった。そのためには貼り革を剥がさなければならないのだが,これが一番大変だった。というのは,貼り革はしっかりと貼り付けられており,ちょっとやそっとでは剥がれなかったのである。これほどしつこい貼り革は初めてであった。

写真4.貼り革を剥いだところ

とにかく,強引に剥いだところが写真4である。非常に無残な姿になったのであるが,これでトップカバーを外すことができた。写真5をご覧いただきたい。

写真5.トップカバーを外す

さて,ファインダーの曇り取りであるが,これがまた大変な作業になった。
このカメラはレンジファインダー機ではないのであるが,内部にはハーフミラーが搭載されており,この部分の劣化も進んでいた。このハーフミラーのほかにレンズが5枚(?)使われている。そのうちの対物レンズ2枚と上記ハーフミラーそれぞれの5分の1程度の面積が曇っていた。曇りの場所はいずれも同一。しかも単にアルコールやベンジンなどで拭う程度では取れなかった。
一旦はあきらめたのであるが,どうしても気になり再度挑戦した。
目の非常に細かい紙やすりや金属磨きの溶剤などを使って,まずはレンズ2枚の曇りはほぼ取り除くことができた。<ええっ,そんなひどいことをしていいのか?>と非難を浴びそうであるが,所詮小生は素人であるから,一般には非常識なことでも何でもやれるのである。また,ここのレンズは撮影用ではないので見かけが綺麗になりさえすれば構わない。
しかし,ハーフミラーの曇りは紙やすりでも,金属磨きでも金輪際取れなかった。もちろん,鏡としての表面加工(蒸着?)はとっくに消えてしまって,単なる1枚のガラス板片となってしまった。表面の光沢がやや失われるほど磨いたのに曇りが取れないとは・・・。
1枚のガラス板と書いたが,2枚重ねて貼り合わせているのではなかろうか?すると,その貼り合わせのための接着剤が変質して曇るということが考えられる。だから表面をいくら磨いても曇りが取れないのではなかろうか?
そうであるとすれば,もうこれ以上手の施しようがない。そこで,このハーフミラーを他のもので置き換えることにした。
ハーフミラーは1 mmの厚さで12×15 mmの大きさである。このようなガラスは容易に手に入らない。仮に手に入れることができたとしても,そのために数千円の費用がかかったら意味がない。
そこで透明アクリル板の使用を考えた。手元にあるアクリル板の残骸は厚みが約1.6 mmのものと0.5 mmのものしかない。1.6 mmのものを削ろうかとも考えたが,ここは0.5 mmのものを採用してみた。
縦横12×15 mmに切り取って片面に自動車の窓ガラスに貼るスモークフィルム(と言うのだろうか?)を貼り付けてハーフミラーとした。
さっそくファインダーユニットに組み込んだ。ハーフミラーの機能は申し分ない。しかし,つぎの2つの問題が現れた。
①画面全体が右に偏っている。
②アクリル板特有のてかり(方言?)が目障り。
まあ,問題②は我慢するとしても,①は許せない。ハーフミラーを固定する角度などをいろいろ変えてみたがすっきりとは解決できなかった。
そこで最初から組み込まれていたハーフミラーをもう一度活用することを考えた。曇りは残っているが,対物レンズ2枚の曇りはほとんど取れたので,全体としての曇りは大幅に減るのではなかろうかと目論んだのである。
さっそく例のスモークフィルムを貼って組み込んでみた。ほぼ完璧!目論見どおり曇りはほとんど感じられない。いや,まったく感じられない。ファインダーが明るく鮮明になった。
話がハーフミラーに偏ってしまったが,接眼レンズその他のレンズや前面の風防の汚れも取り去ったのは言うまでもない。
最後の仕上げとして貼り革の貼り換え作業がある。貼り革として以前高松にいたときに100円ショップで買っておいたブックカバーを使った。仕上がり状態を写真6でご覧いただきたい。
100円のブックカバーはなかなか具合が良い。今でも手に入るのだろうか?近くの100円ショップに行って探したが見つからなかった。数枚買いだめしておいたので当分は何とかなるが。とにかく,以上で問題(2)が解決した。

写真6.手入れ終了

つぎにモルトの劣化の問題。
このカメラはモルトを使用していない。唯一ファインダー接眼部にのみ使っている。構造上やむを得ないのだろう。これも100円ショップで買っておいたフェルト(習字用の下敷き)を切って貼り付けた。問題(3)解決。
最後に電池の問題であるが,とりあえず水銀電池と外形が同一のアルカリボタン電池を使用した。ドイツのVarta(ファルタ)というメーカの製品だが,今でも手に入るのだろうか?なに,手に入らなければLR44のようなアルカリ電池を装填して,余分な空間にはアルミ箔を詰めればよい。アルミ箔は台所用品で間に合わせられる。
なお,水銀電池の電圧は1.33ボルト。これに対してアルカリ電池は1.5ボルト。電圧の違いは問題にならないだろうかという心配がある。小生はこれまでいろいろなカメラで試したが(素人的には)まったく問題にならなかった。もし,問題になればフィルム感度設定でごまかしてやればよいだろうと思っている。
以上で問題(4)も解決したことにしよう。

5.操作方法
試写する前にこのカメラの使い方を見てみよう。
写真7はカメラの底である。その中央付近に文字盤が認められるであろう。文字は判読できないだろうが,ASAとDINの数字が表示されている。使用するフィルムの感度をここで合わせるのである。これを怠るとEEで撮ったときの露出が適正でなくなる。
つぎに,レンズ鏡胴部分にある「・」,「×2」および「×4」の選択レバーである。写真8をご覧いただきたい。
最初これが何なのか見当がつかなかった。インターネットで調べていくと露出補正であることがわかった。すなわちEEで撮影するとき,自動的に決まる絞り値を一絞り(×2)または二絞り(×4)だけ強制的に開くことができるのである。何もしないのが「・」である。

写真7.カメラの底

初心者・入門者にはこの機能は不要かも知れないが,中級以上にとってはありがたい機能である。たとえば明るい背景で人物を撮ると人物が暗く写ってしまう。この人物を明るく写すために×2または×4を使うのである。ただし,背景は露出過多になって白っぽくなるのはやむを得ない。今のデジタルカメラにも装備されているから大方の人はご存じだろう。

写真8.絞り補正(○の中)

距離は目測手動設定である。そうそう,距離の大体の設定値はファインダーからもピクトグラム(?)で確認できるようになっている。
以上のほかは操作上特筆すべきことはない。
ただ一言。絞りを手動で設定するのがやりにくい。特にフィルタを装着したら非常にやりにくくなる。試写ではフィルタはつけなかった。

6.試写結果
さて,いよいよ試写。手入れの成果が試される。
感度100のコダック製カラーネガフィルムを装填した。理由は,これが一番安いからである。
まず,遠景を撮ってみた。写真9である。特に悪いとは思えない。

写真9.遠景

つぎに近景を撮った。写真10をご覧いただきたい。たくさんの瓢箪が吊り下げられているが,いずれも色艶よく写っている。露出も申し分ないと思うのだが,どうだろうか?

写真10.近景

最後に最短距離(付近)で撮ってみた。結果は写真11である。なかなかの出来だと思うのは小生だけだろうか?建物の陰になっていて,光が弱かったのであるが,露出は適正である。

写真11.最短距離景

試写結果の写真は以上の3枚であるが,いずれもトリミングなどの加工はしていない。ファインダーも問題ないようである。写真11を見てもわかるとおり,パララックスの問題も特に感じられない。 露出についてはAutoと手動を半々位の割合で撮ったが,どれがAutoでどれが手動かは記録がないのでわからない。今回は露出補正(・,×2,×4)を使わなかった。

7.おわりに
このカメラの外観をよく見ると,ぶつけたり落としたりしたためにできたと思える傷がいくつか認められる。<カメラは大切に扱わなければ>と前持ち主のことを心の中で嘲笑ったのであるが,小生も落としてしまった。言いわけをすれば,このカメラにはストラップがついていないのである。ハーフサイズカメラであるからネックストラップはちょっと似合わないであろうが,ハンドストラップはあったほうが良い。しかし,それを取り付ける「穴」がない。
正直に言うと,実は三脚取り付け用のねじ穴に取り付けるハンドストラップが付属していたのであるが,出っ張りが気になり,また三脚を使うときに取り外しが面倒なので外しておいたのである。
落下させたときは一人苦笑した。同時に「マディソン郡の橋」に登場するロバート・キンケイドがカメラのストラップを左手首に巻きつけて撮影するという場面を思い出した。プロカメラマンでもカメラを落下させるのである。もちろん,これは小説の中での話であるが。

余談をもう一つ。Canonはキャノンではなくキヤノンであることを初めて知った。いや,以前そのようなことを聞いたことがあるような気もするので再認識したということになろうか?ヤの文字が小さくないのである。

参考文献
上野千鶴子ほか:「写真用語辞典(改訂版)」,(株)日本カメラ社,1997

■2013年3月13日   木下亀吉

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